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エピローグ
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食事の準備が終わったので、リビングでのんびり過ごしていると、黒助がのそりと立ち上がって洞窟ハウスから出て行った。
外へ出るともう日没だ。
「アニキ遅いな」
普段なら日没前に帰ってくるから、遅いと心配になる。まあアニキは不死身だから、俺が元気なら命に別状はないんだけど。
夕焼け空を眺めていると、遠くに角馬が見えた。アニキだ。
盗賊はやめたのに、外見からは今でも危険人物のオーラを感じる。俺が赤の他人なら絶対に声もかけないし目も合わせないタイプだ。それなのに今ではそんなアニキの帰りを待っているんだから人生は不思議だ。
アニキが近づくのを待って、角馬から荷物を受け取った。
角馬は多分街でレンタルしたんだろう。この世界には貸し動物屋がある。
『おかえりなさい』
帰って来たアニキが最初にすることは決まっている。
アニキは馬から下りると、俺の首に腕を回して顎を持ち上げ、本気のキスをしてくる。 おかえりなさいのキスと行ってきますのキスは絶対なんだけど、そんなほのぼのした名前が似合わないほど、似合わないアニキを笑えないほど本気で唇を奪われる。
『……っ、ぷはっ』
ようやく唇を放された。そのうちタラコ唇になるんじゃないだろうか。
首に腕を回されたままじっと顔を見つめられると、恥ずかしいし黒助の事を見透かされそうで、慌てて目をそらす。ついでに話題も変えよう。
『もしかして街に行って来たんですか』
「ああ。金になる獲物が狩れたからな。換金してきた」
『なんで私も連れて行ってくれないんですか』
俺も街に行きたかったな。洞窟ハウスも隠れ家みたいで気に入っているけど、たまには賑やかな場所が恋しくなる。
アニキは鼻で笑って、俺と角馬を引きずるように洞窟ハウスに帰宅した。
『ご飯出来てます。今日はアニキの好きなフライドポテトと砂ワニステーキとサボテンサラダです』
料理の名前は全部俺が勝手に付けただけで、もちろん日本の料理とは材料も味付けも違う。慣れればこっちの料理も美味しい。
『アニキは何を買ってきたんですか?』
大体予想はつく。アニキは辛党で酒が大好きなのだ。赤砂の街で名物の酒とつまみを買ってきたに違いない。
「お前も飲むか?」
『やめときます』
やっぱり酒だった。アニキが袋から数本の瓶を取り出す。アニキの好きな酒は強すぎて俺には無理だ。
「そう言わずに飲めよ」
これは強制かな。アニキとの会話は駆け引きの連続だ。少しでも弱みを見せるととんでもない目に遭うし、怒らせるのもまずい。空気を読む力と話術が鍛えられる。
木のテーブルに料理を並べ終わって、アニキが酒の他に俺の欲しがっていた調味料を買ってきているのに気づいてほっこりする。ソースみたいで料理にかけると美味しいんだ。
『いただきます』
すでに酒を飲み始めているアニキと、楽しい食事の始まりだ。
何も言わないけど、フライドポテトをたくさん食べるアニキ。作って良かった。俺もステーキを食べながら、街の事をあれこれ聞く。
この家のなかで喋るのは大体俺で、アニキは基本無口だ。話しても「ああ」とか「そうか」とか「知らねえよ」とか超素っ気ない。
そういえば、付き合いもそこそこ長くなってきたのに、まだ一度も「愛してる」とか「好きだ」とか言われた事がない。
キスは頻繁にしてくるんだけどな……。いや別にそこまで愛してるって言われたいわけじゃないけど。
契約の流れで俺と暮らしているだけで、本当は都合のいい召使いだと思われているんじゃないだろうか。すきなだけやれるし。大して好かれてないのに性欲処理の為に抱かれていると思うと切ない。夢を見すぎかな……。
「ミサキ」
『何ですか?』
ご飯も終わって片付けていると、アニキが俺の腕を取った。
「こいつは何だ?」
アニキが見ていたのは黒助の歯型だ。やばい。
『えーっと……これはその、あの、黒助が急に飛びついてきて……ちょっと噛まれただけです』
「お前……何で俺以外の奴に、許可もなく勝手に触らせてるんだ? いつからそんなに偉くなったんだ?」
動物も駄目!?
アニキは俺を引っ張ったまま、台所にある買い物袋を持ち戻って来た。
「お前にはやっぱり躾が必要だな」
『次からは改めます』
袋の中から出てきたのは、首輪と鎖。それに箱入りの何か。
『黒助のですか?』
「大きさが変わる化け物を繋いでおけるか。こいつはお前のだ」
げ!
『遠慮します』
「二年前にお前と別れた時、鎖に繋いだお前が忘れられなくてな」
聞いちゃいねえ。それになんか嬉しくない。
『繋がれるの嫌いです』
「だろうな」
アニキはニヤリと笑って、後ずさりする俺を捕まえると、首に革製の輪をはめた。
外へ出るともう日没だ。
「アニキ遅いな」
普段なら日没前に帰ってくるから、遅いと心配になる。まあアニキは不死身だから、俺が元気なら命に別状はないんだけど。
夕焼け空を眺めていると、遠くに角馬が見えた。アニキだ。
盗賊はやめたのに、外見からは今でも危険人物のオーラを感じる。俺が赤の他人なら絶対に声もかけないし目も合わせないタイプだ。それなのに今ではそんなアニキの帰りを待っているんだから人生は不思議だ。
アニキが近づくのを待って、角馬から荷物を受け取った。
角馬は多分街でレンタルしたんだろう。この世界には貸し動物屋がある。
『おかえりなさい』
帰って来たアニキが最初にすることは決まっている。
アニキは馬から下りると、俺の首に腕を回して顎を持ち上げ、本気のキスをしてくる。 おかえりなさいのキスと行ってきますのキスは絶対なんだけど、そんなほのぼのした名前が似合わないほど、似合わないアニキを笑えないほど本気で唇を奪われる。
『……っ、ぷはっ』
ようやく唇を放された。そのうちタラコ唇になるんじゃないだろうか。
首に腕を回されたままじっと顔を見つめられると、恥ずかしいし黒助の事を見透かされそうで、慌てて目をそらす。ついでに話題も変えよう。
『もしかして街に行って来たんですか』
「ああ。金になる獲物が狩れたからな。換金してきた」
『なんで私も連れて行ってくれないんですか』
俺も街に行きたかったな。洞窟ハウスも隠れ家みたいで気に入っているけど、たまには賑やかな場所が恋しくなる。
アニキは鼻で笑って、俺と角馬を引きずるように洞窟ハウスに帰宅した。
『ご飯出来てます。今日はアニキの好きなフライドポテトと砂ワニステーキとサボテンサラダです』
料理の名前は全部俺が勝手に付けただけで、もちろん日本の料理とは材料も味付けも違う。慣れればこっちの料理も美味しい。
『アニキは何を買ってきたんですか?』
大体予想はつく。アニキは辛党で酒が大好きなのだ。赤砂の街で名物の酒とつまみを買ってきたに違いない。
「お前も飲むか?」
『やめときます』
やっぱり酒だった。アニキが袋から数本の瓶を取り出す。アニキの好きな酒は強すぎて俺には無理だ。
「そう言わずに飲めよ」
これは強制かな。アニキとの会話は駆け引きの連続だ。少しでも弱みを見せるととんでもない目に遭うし、怒らせるのもまずい。空気を読む力と話術が鍛えられる。
木のテーブルに料理を並べ終わって、アニキが酒の他に俺の欲しがっていた調味料を買ってきているのに気づいてほっこりする。ソースみたいで料理にかけると美味しいんだ。
『いただきます』
すでに酒を飲み始めているアニキと、楽しい食事の始まりだ。
何も言わないけど、フライドポテトをたくさん食べるアニキ。作って良かった。俺もステーキを食べながら、街の事をあれこれ聞く。
この家のなかで喋るのは大体俺で、アニキは基本無口だ。話しても「ああ」とか「そうか」とか「知らねえよ」とか超素っ気ない。
そういえば、付き合いもそこそこ長くなってきたのに、まだ一度も「愛してる」とか「好きだ」とか言われた事がない。
キスは頻繁にしてくるんだけどな……。いや別にそこまで愛してるって言われたいわけじゃないけど。
契約の流れで俺と暮らしているだけで、本当は都合のいい召使いだと思われているんじゃないだろうか。すきなだけやれるし。大して好かれてないのに性欲処理の為に抱かれていると思うと切ない。夢を見すぎかな……。
「ミサキ」
『何ですか?』
ご飯も終わって片付けていると、アニキが俺の腕を取った。
「こいつは何だ?」
アニキが見ていたのは黒助の歯型だ。やばい。
『えーっと……これはその、あの、黒助が急に飛びついてきて……ちょっと噛まれただけです』
「お前……何で俺以外の奴に、許可もなく勝手に触らせてるんだ? いつからそんなに偉くなったんだ?」
動物も駄目!?
アニキは俺を引っ張ったまま、台所にある買い物袋を持ち戻って来た。
「お前にはやっぱり躾が必要だな」
『次からは改めます』
袋の中から出てきたのは、首輪と鎖。それに箱入りの何か。
『黒助のですか?』
「大きさが変わる化け物を繋いでおけるか。こいつはお前のだ」
げ!
『遠慮します』
「二年前にお前と別れた時、鎖に繋いだお前が忘れられなくてな」
聞いちゃいねえ。それになんか嬉しくない。
『繋がれるの嫌いです』
「だろうな」
アニキはニヤリと笑って、後ずさりする俺を捕まえると、首に革製の輪をはめた。
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