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魔物の島
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しばらく放心状態でその場に立ちつくしていた俺は、足元に自分以外の影が存在する事に気づいて心臓が止まりそうになった。
太陽は真上から少し傾いた位置にあって、自分の影は足元に小さく存在するだけだ。だからその影が視界に入った時、それは俺のすぐそばまで接近していた。
影は巨大で、獣の姿をしていた。
背後から、グルグルと猛獣が喉を鳴らすときのような音が聞こえてくる。
……油断しすぎた。殺されるかも。
覚悟を決めて目を閉じたものの、いっこうに何の衝撃も襲ってこない。
おそるおそる目を開けて振り向くと、視界一面が黒い毛皮に覆われていた。そのまま上を向くと、獅子のような獣が、光る目を猫科の動物のように細めて俺を見下ろしていた。
あいつだ。
アニキの夢にいた黒い獣。
あの時はもっと離れた場所にいたのに、今は触れるほどの近さだ。大きさもライオンくらいだったのに、今は飛竜よりでかく見える。
獣は俺を見下ろしたまま微動だにしない。俺が餌なのかどうか考えているんだろうか。隙をついて魔法銃を撃つべきか、逃げるべきか悩む。
獣が動かないので、俺はゆっくり後ずさりを始めた。すぐに殺す気はないみたいだ。すごく見られているけど、ゆっくりとした動きなら見逃してもらえるかも。
「……ぐほっ!」
見逃してもらえなかった。
黒い獣の前足が鞭のように飛んできて、何が起こったか分からないうちに地面に倒されていた。仰向けになった体の上に、獣の前足が乗ってじわじわと体重がかかる。息が出来ない。
「……ぐっ、ゲホッ、止め……」
手足をばたつかせて必死に抵抗すると、前足が外されて体が楽になった。代わりにざらざらした物で体全体を撫でられる。なんだこれ、舌!?
でかい獣にべろべろ舐められて、生きた心地がしない。これもう完全に食う気満々だろ。
「ちが……餌じゃ、ない……アニキ……探して」
黒い獣は、俺が言葉を話した時だけ舐めるのを止める。言葉を理解しようとしているみたいに。
「……レヴィン……」
アニキの名前を出すと、獣は動きを止めた。グルグルと喉を鳴らしている。多分、俺が言った事を理解したんだ。
もしかしたら味方かもしれない、と思ったのが間違いだった。獣はでかい口を開くと、ばくりと俺の体に食いついた。
***
いやー……死んだな、これ。
そもそも死の島に俺みたいな弱々しい人間が入る事自体間違ってたんだ。半日生き延びただけでも偉いよ。あの世でアニキに許してもらおう。俺は頑張った。
ゆらゆらと揺られながら、暗い空を見上げる。
死ぬ前は、もっと綺麗な景色が見たかったな。青空とか。あと最後の晩餐はやっぱり保存食じゃなくて、炊きたてのご飯と味噌汁が良かった。出来れば鳥の唐揚げもつけてほしい。
ちなみに現在俺は、黒い獣の口に咥えられて運ばれている真っ最中です。
指輪のおかげか、あまり痛みは感じない。体は締め付けられて苦しいけど、幸い牙が刺さったりはしていないみたいだ。でもきっと巣に運ばれるんだな。そこでゆっくり食べられるんだ。短い人生だった。
あれ?
黒い獣は丘の上までやってくると、俺を無造作に草むらに転がした。そのままスフィンクスのようにどかりと座る。
……食わないのか?
獣は素知らぬ顔で別の方角を見ている。俺の事はもう眼中にないみたいだ。
不味そうだから食べるのを止めたのかな。なんにしろ助かった。
唾液まみれの体を起こして、辺りを見回す。そこは果樹園のように赤い実をつけた木々があちこちに点在していて、獣以外に恐そうな動物もいない。果実から漂ってくると思われる甘い香りがする。
あの赤い実、食べられるのかな。空腹を感じてその木に近づき、それらに気づいた。
太陽は真上から少し傾いた位置にあって、自分の影は足元に小さく存在するだけだ。だからその影が視界に入った時、それは俺のすぐそばまで接近していた。
影は巨大で、獣の姿をしていた。
背後から、グルグルと猛獣が喉を鳴らすときのような音が聞こえてくる。
……油断しすぎた。殺されるかも。
覚悟を決めて目を閉じたものの、いっこうに何の衝撃も襲ってこない。
おそるおそる目を開けて振り向くと、視界一面が黒い毛皮に覆われていた。そのまま上を向くと、獅子のような獣が、光る目を猫科の動物のように細めて俺を見下ろしていた。
あいつだ。
アニキの夢にいた黒い獣。
あの時はもっと離れた場所にいたのに、今は触れるほどの近さだ。大きさもライオンくらいだったのに、今は飛竜よりでかく見える。
獣は俺を見下ろしたまま微動だにしない。俺が餌なのかどうか考えているんだろうか。隙をついて魔法銃を撃つべきか、逃げるべきか悩む。
獣が動かないので、俺はゆっくり後ずさりを始めた。すぐに殺す気はないみたいだ。すごく見られているけど、ゆっくりとした動きなら見逃してもらえるかも。
「……ぐほっ!」
見逃してもらえなかった。
黒い獣の前足が鞭のように飛んできて、何が起こったか分からないうちに地面に倒されていた。仰向けになった体の上に、獣の前足が乗ってじわじわと体重がかかる。息が出来ない。
「……ぐっ、ゲホッ、止め……」
手足をばたつかせて必死に抵抗すると、前足が外されて体が楽になった。代わりにざらざらした物で体全体を撫でられる。なんだこれ、舌!?
でかい獣にべろべろ舐められて、生きた心地がしない。これもう完全に食う気満々だろ。
「ちが……餌じゃ、ない……アニキ……探して」
黒い獣は、俺が言葉を話した時だけ舐めるのを止める。言葉を理解しようとしているみたいに。
「……レヴィン……」
アニキの名前を出すと、獣は動きを止めた。グルグルと喉を鳴らしている。多分、俺が言った事を理解したんだ。
もしかしたら味方かもしれない、と思ったのが間違いだった。獣はでかい口を開くと、ばくりと俺の体に食いついた。
***
いやー……死んだな、これ。
そもそも死の島に俺みたいな弱々しい人間が入る事自体間違ってたんだ。半日生き延びただけでも偉いよ。あの世でアニキに許してもらおう。俺は頑張った。
ゆらゆらと揺られながら、暗い空を見上げる。
死ぬ前は、もっと綺麗な景色が見たかったな。青空とか。あと最後の晩餐はやっぱり保存食じゃなくて、炊きたてのご飯と味噌汁が良かった。出来れば鳥の唐揚げもつけてほしい。
ちなみに現在俺は、黒い獣の口に咥えられて運ばれている真っ最中です。
指輪のおかげか、あまり痛みは感じない。体は締め付けられて苦しいけど、幸い牙が刺さったりはしていないみたいだ。でもきっと巣に運ばれるんだな。そこでゆっくり食べられるんだ。短い人生だった。
あれ?
黒い獣は丘の上までやってくると、俺を無造作に草むらに転がした。そのままスフィンクスのようにどかりと座る。
……食わないのか?
獣は素知らぬ顔で別の方角を見ている。俺の事はもう眼中にないみたいだ。
不味そうだから食べるのを止めたのかな。なんにしろ助かった。
唾液まみれの体を起こして、辺りを見回す。そこは果樹園のように赤い実をつけた木々があちこちに点在していて、獣以外に恐そうな動物もいない。果実から漂ってくると思われる甘い香りがする。
あの赤い実、食べられるのかな。空腹を感じてその木に近づき、それらに気づいた。
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