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金曜日、午後7時(レヴィン編)

13 オッサンの手紙

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 階段から落ちる夢を見てビクッとなり、慌てて周りを見まわすと、そこは教室じゃなく一軒の家の前だった。
 いつの間にか朝になってる。

「広っ」

 一軒の家といっても、見た目はセレブが住んでいそうな豪邸、いやむしろ動物園入口だ。
 でかい門の向こうには広い庭と、程よく配置された樹木。木には赤や黄色の鳥がとまっている。
 門の側にはチケット小屋のような建物が存在していた。よく似た景色をどこかで見たな。

 ケビンは門の前から動かない。
 俺はようやく思い出して、リュックをごそごそと探り、奥からオッサンに預かったメモを取り出した。

「何か用かい?」

 チケット小屋?から男の人が出てきたので、異世界語で書かれたそれを渡す。

『この紙を貰って……』
「少々お待ちください」

 メモを読んだ男の態度が急変し、小屋に消える。
 しばらくして閉じていた門が開かれると、ケビンは当然のような顔をしてスタスタと敷地内に進入した。

「ケビン、お前ここに来たことあるのか?」

 確かオッサンの知り合いが住んでるって言ってたよな。
 オッサンが自給自足みたいな生活をしていたから、何となく知り合いも仙人みたいなタイプだと思っていた。仙人にしてはセレブ感があるな。

 広い庭には角馬が放し飼いにされていた。小動物がケビンの足元を駆けていく。

「ケビ~ン!」

 庭の向こうから女の子が走ってきて、ケビンの長い毛にまとわりついた。中学生くらいかな。長い髪の毛をツインテールにしていて、着ている服はつなぎにもかかわらず可愛い。俺が中学生だったら好きになってる。高校生なら告白してるな。

「あなた誰?ジェイの知り合い?」
『ジェイ?』
「こんなおっさん」

 女の子は髪の毛をぐしゃぐしゃかき混ぜ、煙草を吹かす仕草をした。

『知り合いです。ケビンを借りました』

 オッサンはジェイって名前なのか。 

「ふーん。ジェイがケビンを貸すなんて珍しいわね。ケビンは賢いし可愛いし、ジェイのお気に入りなんだから」
『ケビンは可愛いです。賢いので助かりました』
「でしょ?」

 女の子は腕を組んで、満足そうに頷いた。
 この仕草、オッサンによく似てる。目が大きくて口も大きくて、将来は迫力ある美人になりそうな顔立ちなのに、やっぱりどこかオッサンの面影があった。娘さんかな……?年の離れた妹、はさすがにないかな。

「あたしはエルっていうの。ママに紹介するからこっち来て」

 エルという名前の可愛い子は、パタパタと走って庭を横切り、豪邸の裏口にまわった。

「ママー、お客さん」

 ケビンと俺がその後についていく。

「ママー、どこ?ケビンが来たよ!あとジェイの知り合いの人も」

 裏口は動物小屋と隣接していた。
 動物小屋からすらりとしたスタイルの美女が顔を出す。ハリウッド映画に出ていてもおかしくないくらいの美女だ。

「ジェイの知り合いですって?」
『は、初めまして!私の名前は岬修平です』

 緊張して声がうわずった。

「……若いわね。まさか仕事仲間じゃないわよね」
『仕事少し手伝いました』

 役にたっていたかは分からないけど。
 でも俺の言葉に、美女の形のいい眉がぴくりと上がった。

「まあいいわ。私はヴァネッサ。上がってちょうだい。食事くらいご馳走するわ」


***

 ケビンは動物小屋に、俺は豪邸の応接間のような部屋に通された。
 部屋が美しすぎて、椅子に座るのもためらわれる。アニキとのアレコレの後体を拭いただけだから、自分が汚れている自覚があった。でも誘惑に負けてソファに座ってみると、あまりの気持ちよさに、そのまま眠りこけそうになる。

 ヴァネッサさんは姿を消して、エルちゃんだけがじろじろと俺を見ている。エルちゃんはヴァネッサさんにも似てる。
 という事は、オッサンにはあんな美人の恋人がいたという事か。さすが俺が尊敬するオッサンだ。ただカッコいいだけじゃなかった。
 でも、美人の恋人がいるのに何で田舎の森の中で一人暮らしなんだ?単身赴任?それとも別れたのか?

「ねえ、ジェイの仕事って何を手伝ったの?」
『花カブトという危険な生き物を退治しました』

 本当はラウルの子守りだけど。

「すごーい!あなた汚れてるから本物っぽいと思ったんだ。いいなぁ、ジェイはあたしには危険な仕事は全然手伝わせてくれないの。動物の世話とか、そんなのばっかり」

 本物?

「あなた子供でしょう。当然よ」

 ヴァネッサさんが料理を乗せたトレーを持ち登場した。団子だけじゃ足りなかったのですごく嬉しい。

「メモを見せてもらったわ。確かにジェイの文字ね。仕事を手伝ったのも本当みたいね。長旅で疲れているだろうから、美味しいものをご馳走してやれって……。けっこう気に入られていたみたいね、あなた」

『……オッサンが?』

 あ、しまった。思わずオッサン呼びしてしまった。

「そう書いてあったわよ。見なかったの?」
『文字が読めないので……』

 言いながら、不覚にも喉の奥がつんとした。豪華なソファにぽたりと涙が落ち、慌てて拭う。

 ヴァネッサさんが初めて俺に微笑み
「朝食の残りで悪いけど、冷めないうちに食べなさい」
と言ってくれた。

「お兄ちゃんどうしたの?」
「男は大変なのよ」

 たった二日間会っただけなのに、ご飯を奢ってくれて、ケビンを貸してくれて、いろいろ面倒見てくれた。
 オッサンの気持ちが嬉しくて、涙が止まらない。

『……いただきます』

 それだけ言うと、俺は涙味のスープを喉に流し込んだ。
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