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カム

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金曜日、午後1時(レヴィン編)

3 どこか遠くに行こうか

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 ケビンは、水からあがる俺を横目にもくもくと何かを食べていた。
 よく見れば、ケビンの周りには餌が点在している。俺が買って村の入り口に蒔いておいた保存食だ。まだあったのか。そして感動の再会より餌優先か……。

 海には砂浜なんてものはなく、いきなり陸地になっていた。
 数十メートル先に、見覚えのある崖と森が見える。俺が落ちた崖だな。
 村と城があった場所は、なにもない草地と海になってる。

 ルーシェンが少し遅れて海からあがってきた。

『手、大丈夫ですか?』

 折れたんじゃなかったのか?それとも異世界の人は傷の治りが早いのか?

「大丈夫だ。治癒魔法を使った」
『魔法?』
「ああ。シュウヘイ、どこか痛む所はないか?」
『……ないです。ルーシェンは魔法が使えるんですか?』
「村の中では封じられていて使えなかったんだ。久々だからコントロールが難しい」

 そう言って笑うルーシェンからは、心なしか今までにない余裕が感じられた。
 分かったような分からないような話だけど、深く考えるのはよそう。腕が治って良かった。
 海の水を飲むケビンを、ルーシェンが不思議そうに見ているので紹介する。

『ラクダのケビンです。一緒に旅をしています。ケビン、ルーシェン王子です』
「そうか。毛長ラクダとは珍しいな」

 ケビンは相手が王子でも、変わらない態度で水を飲んでいる。
 その後点在している餌を広い集め、使えそうなものだけリュックに詰めた。ルーシェンは濡れたジャケットとシャツを脱いで、草むらに座りこんでいる。
 ぼんやりと海の向こうの蜃気楼を眺めているみたいだ。魔法で傷は治っても、精神的に疲れたんだろうな。俺も濡れたマントとジャケットを脱いで、ルーシェンの隣りに座る。

『村から出られて良かったです』

 改めてそう言うと、ルーシェンも頷いた。

「シュウヘイはどうして分かったんだ?最後の……あれが罠だと。俺は全然気がつかなかった。完全に、騙されていた」

『私には最初から分かっていました。怪しい匂いがぷんぷんしました』

 ほんとは身代わり人形のおかげだけど、これくらい言ってもいいだろう。

「……シュウヘイはすごいな」
『ルーシェンもまだまだですね。ハハハ』
「そうだな」

 恐怖から解放されて、ナチュラルハイになってるらしい。
 ルーシェンと二人で顔を見合わせて笑い、そのまま草むらに寝転ぶ。
 ケビンが水を飲むのを止めて、俺たちのそばに寝そべったので、手を伸ばして触れる。うう……毛皮がモフモフだ。

 村の外は暖かい風が吹いていて、鳥の鳴き声も聞こえる。自由って最高だな。

『ルーシェンはこれからどうするんですか?』
「……」
『ルーシェン?』

 返事がないので、起き上がって顔を覗きこむと、深い青い目で見つめ返された。

「王位を捨てて、知り合いの誰もいない場所に行こうか。シュウヘイの住んでいる世界、とか」
『え……?』

 絶句すると、初めて会った時と同じ表情で笑われた。

「……冗談だ。そんなに驚くな」
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