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金曜日、午前9時15分(ルーシェン編)
5 無知って恐ろしい
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「え?」
思わずルーシェンの顔を凝視する。今すごく物騒な言葉が聞こえたぞ。
殺す?
『なんで……』
「俺を王位につかせたくない人間がいるんだろう」
うっ……。
王位継承のイザコザか。嫁姑問題、遺産相続争い、ご近所トラブルと同じくらい巻き込まれたくない問題だ。
『でも殺すつもりはないかもしれません。それにルーシェンを狙ったわけではないかも』
王子は首を振った。
「間違いなく狙いは俺だ」
『どうして分かるんですか?』
俺が聞くと、ルーシェンは噴水の中央を指さした。
中央には女性の像が建っている。
「この像の台座に文字が刻まれている」
よく見ると確かに台座に文字が並んでいる。知らない文字は模様に見えるからスルーしていた。文字だと分かったところで読めないし。
『なんて書いてあるのですか?』
「簡単に言うと……生きていたければこの村で生活しろ。死にたくなれば城へ向かえ。この村に出口はない……と俺宛に書いてある」
内容が解ってしまうと、城を指差しているその像がとても恐ろしく思えてきた。悪意に満ちすぎだ。憩いの広場でもなんでもない。
『この村を創ったのはもしかしてこの人ですか?』
ルーシェンは頷いた。
「ああ。魔術師のアルマという女性だ。堂々と自分の像を村の中に飾るあたり、よほど魔法を破られない自信があるんだろう」
なんだかショックだ。
綺麗な女性なのに、そんなに性格悪いなんて……。
その話を聞いて像を見ると、微笑みを浮かべた表情も背筋をゾッとさせる要因にしかならない。
像を見ないように座り直すと、頭の中を整理する。
『ではルーシェンはずっと村にいて、城の中に入った事はないのですか?』
「いや……何回か中を見ている。先程のゾンビの他に二人、似たような姿で中にいる。他に獰猛な生物と、それから夜になると出てくる黒い浮遊物も」
何気にスゲー怖い事言ってませんか?
「ただ、城の中央の部屋には入った事がない。本当に身の危険を感じるんだ」
そんな所にのこのこと入ろうとしてたのか俺は。無知って恐ろしい。
『そう言えばゾンビはルーシェンを呼んでました』
「ああ。多分俺を城に誘き寄せたいんだろう。彼は昔俺の護衛をしてくれていた飛行部隊の兵士に外見がそっくりなんだ。他の二人も知り合いに似ていて……偽者とはいえ、気持ちが挫けそうになる」
『本物の護衛は無事なんですか?』
「彼は俺が十歳の頃亡くなったんだ。本人のはずがない。魔法で創られた偽者に決まっている」
ルーシェンが城に寄り付かなかった理由が分かった。
確かにいくら偽者でも、知り合いそっくりのゾンビがいたら嫌だよな。
『あれは偽者です。触った感じで分かりました。もし本物ならルーシェンを助けてくれるはずです』
分かるわけないけど、もっともらしい顔で断言すると、ルーシェンはようやく笑顔を見せた。
「シュウヘイのように魔力が全くない人間にそう言ってもらえると楽になるな」
『魔力はないけど霊感はあるんです』
「れいかん?」
『似たようなものです。ところで……この村の魔法は解けそうですか?難しいのですか?』
ルーシェンは浮かない顔をしてしばらく黙りこんだ。
土曜日の王都到着は諦めないといけない気がしてきたけど、まさか八年後にも日本へは帰れないんだろうか……。こんな村で八年間、またはそれ以上過ごすなんて刑務所と同じだ。
「悪いことしてないのに、そんなの嫌!」
「シュウヘイ?」
『あ、すみません』
つい取り乱してオカマ口調になったぞ。
「……この魔法は最高難度の術なんだ。この国でも一握りの人間しか使えない。普通こういった魔法は、何十年かに一度、凶悪な魔物が出現した時、それを封印する為にだけ使われる」
なるほど。
ゲームでよくあるやつだな。
封印していた魔王が復活。勇者が出てきて再び封印、めでたしめでたしってやつだ。
『もしかしてルーシェンは魔王ですか?』
そう言うとルーシェンは露骨にムッとした。
「俺は王子以外の何者にもなった覚えはない」
『冗談です。そんなに怒らなくても』
このあとルーシェンはなかなか機嫌を直してくれなかった。
思わずルーシェンの顔を凝視する。今すごく物騒な言葉が聞こえたぞ。
殺す?
『なんで……』
「俺を王位につかせたくない人間がいるんだろう」
うっ……。
王位継承のイザコザか。嫁姑問題、遺産相続争い、ご近所トラブルと同じくらい巻き込まれたくない問題だ。
『でも殺すつもりはないかもしれません。それにルーシェンを狙ったわけではないかも』
王子は首を振った。
「間違いなく狙いは俺だ」
『どうして分かるんですか?』
俺が聞くと、ルーシェンは噴水の中央を指さした。
中央には女性の像が建っている。
「この像の台座に文字が刻まれている」
よく見ると確かに台座に文字が並んでいる。知らない文字は模様に見えるからスルーしていた。文字だと分かったところで読めないし。
『なんて書いてあるのですか?』
「簡単に言うと……生きていたければこの村で生活しろ。死にたくなれば城へ向かえ。この村に出口はない……と俺宛に書いてある」
内容が解ってしまうと、城を指差しているその像がとても恐ろしく思えてきた。悪意に満ちすぎだ。憩いの広場でもなんでもない。
『この村を創ったのはもしかしてこの人ですか?』
ルーシェンは頷いた。
「ああ。魔術師のアルマという女性だ。堂々と自分の像を村の中に飾るあたり、よほど魔法を破られない自信があるんだろう」
なんだかショックだ。
綺麗な女性なのに、そんなに性格悪いなんて……。
その話を聞いて像を見ると、微笑みを浮かべた表情も背筋をゾッとさせる要因にしかならない。
像を見ないように座り直すと、頭の中を整理する。
『ではルーシェンはずっと村にいて、城の中に入った事はないのですか?』
「いや……何回か中を見ている。先程のゾンビの他に二人、似たような姿で中にいる。他に獰猛な生物と、それから夜になると出てくる黒い浮遊物も」
何気にスゲー怖い事言ってませんか?
「ただ、城の中央の部屋には入った事がない。本当に身の危険を感じるんだ」
そんな所にのこのこと入ろうとしてたのか俺は。無知って恐ろしい。
『そう言えばゾンビはルーシェンを呼んでました』
「ああ。多分俺を城に誘き寄せたいんだろう。彼は昔俺の護衛をしてくれていた飛行部隊の兵士に外見がそっくりなんだ。他の二人も知り合いに似ていて……偽者とはいえ、気持ちが挫けそうになる」
『本物の護衛は無事なんですか?』
「彼は俺が十歳の頃亡くなったんだ。本人のはずがない。魔法で創られた偽者に決まっている」
ルーシェンが城に寄り付かなかった理由が分かった。
確かにいくら偽者でも、知り合いそっくりのゾンビがいたら嫌だよな。
『あれは偽者です。触った感じで分かりました。もし本物ならルーシェンを助けてくれるはずです』
分かるわけないけど、もっともらしい顔で断言すると、ルーシェンはようやく笑顔を見せた。
「シュウヘイのように魔力が全くない人間にそう言ってもらえると楽になるな」
『魔力はないけど霊感はあるんです』
「れいかん?」
『似たようなものです。ところで……この村の魔法は解けそうですか?難しいのですか?』
ルーシェンは浮かない顔をしてしばらく黙りこんだ。
土曜日の王都到着は諦めないといけない気がしてきたけど、まさか八年後にも日本へは帰れないんだろうか……。こんな村で八年間、またはそれ以上過ごすなんて刑務所と同じだ。
「悪いことしてないのに、そんなの嫌!」
「シュウヘイ?」
『あ、すみません』
つい取り乱してオカマ口調になったぞ。
「……この魔法は最高難度の術なんだ。この国でも一握りの人間しか使えない。普通こういった魔法は、何十年かに一度、凶悪な魔物が出現した時、それを封印する為にだけ使われる」
なるほど。
ゲームでよくあるやつだな。
封印していた魔王が復活。勇者が出てきて再び封印、めでたしめでたしってやつだ。
『もしかしてルーシェンは魔王ですか?』
そう言うとルーシェンは露骨にムッとした。
「俺は王子以外の何者にもなった覚えはない」
『冗談です。そんなに怒らなくても』
このあとルーシェンはなかなか機嫌を直してくれなかった。
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