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カム

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水曜日、午前2時(リック編)

5 極秘任務?

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『え?違います』

 王族関係者ってなんだ?

「誤魔化さなくても大丈夫です。口は固いですから。供の者がいないのは、極秘任務か何かに就かれているからですよね」

 極秘任務?

『ただの旅人です』

 何だか誤解されてるみたいだ。
 だけどリックは首を振って、俺の持っていた携帯電話を指さした。

「王都に住むいとこが話してました。王族や、身分の高い騎士や魔法使いの方達は、小さな魔法の板を持っていて、風景や人の姿を切り取ったり、離れた場所にいる人達と会話をする事ができると。実際に見たのは初めてですけど、本当だったのですね」
『えーと……』

 そう言えば如月は携帯は王都では使えるって言ってたな。
 魔法充電器なんて物ももらったし。充電器を取り出すと、リックがそれを取りあげた。

「やっぱり!」
「え?」
「ここにあるマーク、これは王室御用達の印です」

 そう言われて見ると確かに充電器の裏に模様が入っている。如月ってもしかしたらけっこういい身分なのかもしれない。

「ミサキ様」

 如月の事を思い出していると、リックが神妙な顔でこっちを見ていた。というか、今ミサキ様って言ったか?

『何ですか?』
「身分の高い方とは知らず、失礼な態度をとってしまい申し訳ありませんでした。どうかお許しください」

 そう言って頭を下げる。やっぱり失礼な態度の自覚はあったのか。

『大丈夫です。私はただの旅人です』
「そうですか。許していただけて安心しました……」

 何か伝わってないな。

『普通です。リックと同じ』

 力説してみるが、やっぱりリックには伝わっていないみたいだ。王室御用達の威力か?いつまでも膝をつかせておくのも悪いので、荷物をまとめて立ちあがると、リックもようやく立ち上がった。

「ミサキ様、これからどちらに向かわれるのですか?」
『ケビンを迎えにいって、王都に向かいます』
「では出口までご案内します」

 リックの誤解を解いておきたいけど、俺の言語スキルだとけっこう難しい気がする。でもまあ、街を出るまでだし……極秘任務の王族関係者ってちょっとカッコイイ響きだからよしとするか。

 宿に戻ったがリサちゃんはいなかった。
 ちょっとだけリサちゃんと

「ええっ、ミサキさんってそんな偉い方だったのですか?」
『極秘任務なので内緒にしてください』
「ミサキ様……素敵です」

 みたいな会話を繰り広げたかったのに。

 リックがケビンを連れて来てくれた。ケビンは心なしかつやつやしている。
 もう少し休憩させてやりたかったけど、俺にはあまり時間がないからな……。

「ケビン、そろそろ行くか」

 撫でるとケビンは俺の頭の上に顎を乗せてきた。何だこれ。甘えられてるのか?地味に重いぞ。かわいいけどな。

「ケビン少し怒ってますね」
『え!?』
「待たされてふてくされてますよ。ミサキ様の事を心配していたのでしょう」

 そうだったのか……。

『リック、すごいですね』
「人は苦手ですが、動物は得意です」

***

 ケビンを連れて街の出口に向かうと、最初に見た時より大勢の兵士が集まっていた。

「何だ?あれ」

 何となく妙な雰囲気だ。緊張感が漂っている気がする。

「何かあったのでしょうか。聞いてきます」
『大丈夫ですか?』

 兵士に事情を聞くとか、人見知りの最も苦手とするところじゃないか?
 でも身分が上の(本当は違うが)人間の為なら多少の人見知りは克服できるのかもしれない。

「大丈夫です。同じ隊の者に聞きますから」
『え!?リック、兵士?』

 これには驚いた。
 てっきりリサちゃんと同じ宿の従業員だと思ってた。

「この街の男は、十六歳になると誰でも街を守る自警部隊に所属するんです」

 そうなのか……。

「この街の周辺は、王都に近い割に治安が悪くて……ミサキ様も知っていらっしゃると思いますが、このあたりの岩からは魔法石がとれますので」
『魔法石、ああ、あれね』

 全くの初耳だけど取り合えず頷いてみる。多分俺がもらった石と似たようなやつだろ。

「……最近は大きな事件はなかったのに。心配です。話を聞いてくるので少しお待ちください」

 リックはそう言って出口に固まっている兵士たちのもとに歩いていった。
 兵士と言っても、リックの話からすると街の男たちなんだよな。確かに年代も体格もばらばらだ。だが、リックはその中でも群を抜いて兵士らしくなかった。美少年で華奢だ。あいつ隊の中でいじめられたりしてないかな。余計な心配かもしれないけど。

 しばらく待っているとリックが戻ってきた。

『何があったのですか?』
「王都からの要請で、これから大規模な盗賊狩りがあるらしいです」
「盗賊狩り……」

 何だか物騒だな。いや、盗賊を野放しにしておく方が物騒なのか。

「最近盗賊被害が多発してましたから、仕方のない事だと思います。この街からも半分の兵士が討伐に参加するらしいです」
『そうですか……』
「なのでこれから一週間程度、街を封鎖するそうです」
『そうですか……え!?』
「ミサキ様?」
『封鎖!?一週間!?』
「はい。期間はよく分かりませんが。もっと早いかもしれません。それ以上かかるかも」
『街から出られないのですか?』
「おそらく……。一般の方が街の外に出るのは危険ですから」

 一週間って、絶対に今週の土曜に間に合わないぞ。間に合わなかったらどうなるんだ?八年ここに住む事になるのか!?

『出してください』
「ええっ?」

 俺はリックに詰め寄った。

『今週の土曜に王都にいかなければなりません。すぐに街から出ないと間に合いません』
「もしかして……極秘任務ですか?」

 極秘でも任務でもないが、俺の人生がかかってる。リックは困った表情を浮かべつつ、詰め寄る俺から多少距離を取った。

「偉い方を危険な目にあわせるわけには……」

 これじゃあ埒があかないな。

『兵士たちの中の偉い人は誰ですか?教えてください』

 こういう時こそ上の人間に直談判だ。
 本当に街から出られないのか、盗賊狩りってどういったものなのか、正確な情報が必要だ。俺には時間がない。

「た、隊長ですか……?」
『そうです』

 リックは門の前にいるひときわ背の高い男を指さした。なるほど。
 ほかの兵士はまだ服のせいもあって兵士っぽく見えているが、その男は違った。威圧的なオーラが半端ない。多分私服でも、道で会ったら目を合わせられないタイプだ。
 短い髪と日焼けした肌、がっちりした体格に鋭い目つき。高校の時にいた恐ろしい先輩を思い出した。だが俺は、何故か恐ろしい先輩には妙に可愛がられていた気がする。

『ちょっと話をしてきます』
「ミサキ様、隊長は恐ろしい人で……」
『大丈夫です』

 俺の恐怖基準は、一に幽霊で二に宇宙人、人は三番目だからな。
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