38 / 204
火曜日、午後3時(ラウル編)
3 だけど、別れに慣れるわけじゃない
しおりを挟む
それからラウルはごそごそと、自分の腕輪を外し始めた。女王様を見た後だから分かるが、ラウルの仲間内で流行っているアクセサリーはSM仕様だ。
「シュウヘイ、これあげる。ほんとうはラウルのたからものあげたかったけど、いまないからこれ」
『ラウル……』
「ラウルのたからもの、ちゃいろいとりの、なんこつペンダント。おなかがすいたらなめたりできる。しゅうへいにあげたかった」
ありがたいけどいらねー……。
『ラウル、これで大丈夫です。ありがとう』
俺はラウルから腕輪を受け取ると、左手につけてみた。思ったより軽くて邪魔にならない。
俺も何かラウルにあげられる物があればいいんだけどな。結局料理も作ってやれなかったし。悩んでいると、ラウルに飛びつかれて口をベロベロ舐められた。
女王様とオッサン達のもとに戻ると、三人と二匹は微妙な距離を保ちつつ俺達を待っていてくれた。
「ラウル、話は済んだか?」
「兄ちゃん、お別れ出来たかい?」
ラウルは女王様と兄に
「ラウルおとなになった」だの
「うでわあげた」だの
「おおきくなったらとおくにいく」
だの伝えていたが、とりあえず村に残るという選択をした事に、女王様と兄がホッとしているのが目に見えて分かった。
「兄ちゃん、さすがだな。どうやって説得したんだ?」
『怒りました』
「なるほどな~」
実際には「怒って泣いたら察してくれた」だけど恥ずかしくて言えない。
洗濯物が槍に干されてるのを見て、俺はそこからシャツを外した。
まだ生乾きだけど、これなら大きいからラウルがさらに成長しても入りそうだ。
『ラウル、これあげます』
そのシャツは土曜日の夜に、寒いかもしれないと思って適当にはおった一枚二千円もしない安物だ。
でもラウルはそのシャツをキラキラした目で見つめ、大事そうに受け取った。シャツに顔を埋め、くんくんと匂いを嗅いでいる。
「シュウヘイのにおいがする。ラウル、これいちばんのたからものにする」
……そんなに喜んでもらえてなんだか申し訳ないが、プレゼントってのは気持ちだからな。
「衣服をプレゼントとは、なかなかわきまえた男だな」
「若いのに末恐ろしい。弟をたらしこむだけの事はある」
女王様とラウル兄ちゃんの妙な会話が聞こえたけど無視する事にした。
そこへラウルの仲間の女性が何かを抱えて戻ってきた。
彼女も俺より背が高く、整った顔立ちに茶色いロングヘアでかなりのセクシー衣装を身につけている。村に入れなくて少し残念かも……。こんな美女たちにご飯とか食べさせてもらえるのなら、八年くらいここにいてもいいかな……。
「族長、これを」
仲間の美女に渡された包みを、女王様が開いて確認する。
中にはキラキラと輝く握りこぶし大の鉱石が入っていた。
「ラウルを救ってくれた礼だ。受け取ってくれ。売れば金になる」
価値が良く分からないが、いいのだろうか。悩んでいると押し付けられた。
「いいから受け取れ」
オッサンを見ると頷いている。
『ありがとうございます』
俺はその鉱石を再び包んでリュックに入れた。
もしかして、もうお別れかな……。
考えたくないが、オッサンはメアリーのもとに歩いて行ってるし、女王様とラウル兄ちゃんは、用が済んだのだからさっさと帰れ的な雰囲気を醸し出している。
俺は何となくラウルの顔が見られなかった。見たら泣きそうだ。
ゆっくりとケビンに近づき、座って待っていたケビンにまたがろうとした時、ラウルが背中に飛びついてきた。
「シュウヘイ!」
『ラウル、さようなら』
ぎゅうっと力を入れてしがみついているラウルの腕をしばらく撫で、俺はゆっくりと腕をほどいた。
振り返ると、ラウルはぼろぼろ泣いていた。
『元気でな』
もう一度ラウルを抱き寄せて頭を撫でる。
「シュウヘイ……」
『ありがとう』
何に対してのありがとうだろう。
多分、俺を好きになってくれて、が続くんだ。
俺はラウルからそっと離れ、ケビンにまたがった。
ケビンはゆっくりと立ち上がり、待っているオッサンとメアリーのもとに歩きだす。
「シュウへイ!」
『ラウル……さようなら!』
「シュウヘイーーー!」
ラウルが叫びながらケビンの後についてくる。
「馬鹿っ……ついてくんなよ」
「シュウヘイーーー!」
女王と兄がラウルを呼ぶ。
ケビンも速度をあげようか悩んでるみたいだ。
「ラウル、幸せになれよ!」
「シュウヘイ……」
ケビンの足に追いつけなくて、ラウルの姿が少しずつ小さくなっていく。
立ちつくして泣きながら俺の名前を呼ぶラウルは、涙でかすんでよく見えなかった。
「シュウヘイ、これあげる。ほんとうはラウルのたからものあげたかったけど、いまないからこれ」
『ラウル……』
「ラウルのたからもの、ちゃいろいとりの、なんこつペンダント。おなかがすいたらなめたりできる。しゅうへいにあげたかった」
ありがたいけどいらねー……。
『ラウル、これで大丈夫です。ありがとう』
俺はラウルから腕輪を受け取ると、左手につけてみた。思ったより軽くて邪魔にならない。
俺も何かラウルにあげられる物があればいいんだけどな。結局料理も作ってやれなかったし。悩んでいると、ラウルに飛びつかれて口をベロベロ舐められた。
女王様とオッサン達のもとに戻ると、三人と二匹は微妙な距離を保ちつつ俺達を待っていてくれた。
「ラウル、話は済んだか?」
「兄ちゃん、お別れ出来たかい?」
ラウルは女王様と兄に
「ラウルおとなになった」だの
「うでわあげた」だの
「おおきくなったらとおくにいく」
だの伝えていたが、とりあえず村に残るという選択をした事に、女王様と兄がホッとしているのが目に見えて分かった。
「兄ちゃん、さすがだな。どうやって説得したんだ?」
『怒りました』
「なるほどな~」
実際には「怒って泣いたら察してくれた」だけど恥ずかしくて言えない。
洗濯物が槍に干されてるのを見て、俺はそこからシャツを外した。
まだ生乾きだけど、これなら大きいからラウルがさらに成長しても入りそうだ。
『ラウル、これあげます』
そのシャツは土曜日の夜に、寒いかもしれないと思って適当にはおった一枚二千円もしない安物だ。
でもラウルはそのシャツをキラキラした目で見つめ、大事そうに受け取った。シャツに顔を埋め、くんくんと匂いを嗅いでいる。
「シュウヘイのにおいがする。ラウル、これいちばんのたからものにする」
……そんなに喜んでもらえてなんだか申し訳ないが、プレゼントってのは気持ちだからな。
「衣服をプレゼントとは、なかなかわきまえた男だな」
「若いのに末恐ろしい。弟をたらしこむだけの事はある」
女王様とラウル兄ちゃんの妙な会話が聞こえたけど無視する事にした。
そこへラウルの仲間の女性が何かを抱えて戻ってきた。
彼女も俺より背が高く、整った顔立ちに茶色いロングヘアでかなりのセクシー衣装を身につけている。村に入れなくて少し残念かも……。こんな美女たちにご飯とか食べさせてもらえるのなら、八年くらいここにいてもいいかな……。
「族長、これを」
仲間の美女に渡された包みを、女王様が開いて確認する。
中にはキラキラと輝く握りこぶし大の鉱石が入っていた。
「ラウルを救ってくれた礼だ。受け取ってくれ。売れば金になる」
価値が良く分からないが、いいのだろうか。悩んでいると押し付けられた。
「いいから受け取れ」
オッサンを見ると頷いている。
『ありがとうございます』
俺はその鉱石を再び包んでリュックに入れた。
もしかして、もうお別れかな……。
考えたくないが、オッサンはメアリーのもとに歩いて行ってるし、女王様とラウル兄ちゃんは、用が済んだのだからさっさと帰れ的な雰囲気を醸し出している。
俺は何となくラウルの顔が見られなかった。見たら泣きそうだ。
ゆっくりとケビンに近づき、座って待っていたケビンにまたがろうとした時、ラウルが背中に飛びついてきた。
「シュウヘイ!」
『ラウル、さようなら』
ぎゅうっと力を入れてしがみついているラウルの腕をしばらく撫で、俺はゆっくりと腕をほどいた。
振り返ると、ラウルはぼろぼろ泣いていた。
『元気でな』
もう一度ラウルを抱き寄せて頭を撫でる。
「シュウヘイ……」
『ありがとう』
何に対してのありがとうだろう。
多分、俺を好きになってくれて、が続くんだ。
俺はラウルからそっと離れ、ケビンにまたがった。
ケビンはゆっくりと立ち上がり、待っているオッサンとメアリーのもとに歩きだす。
「シュウへイ!」
『ラウル……さようなら!』
「シュウヘイーーー!」
ラウルが叫びながらケビンの後についてくる。
「馬鹿っ……ついてくんなよ」
「シュウヘイーーー!」
女王と兄がラウルを呼ぶ。
ケビンも速度をあげようか悩んでるみたいだ。
「ラウル、幸せになれよ!」
「シュウヘイ……」
ケビンの足に追いつけなくて、ラウルの姿が少しずつ小さくなっていく。
立ちつくして泣きながら俺の名前を呼ぶラウルは、涙でかすんでよく見えなかった。
21
お気に入りに追加
786
あなたにおすすめの小説
【完結】「『王太子を呼べ!』と国王陛下が言っています。国王陛下は激オコです」
まほりろ
恋愛
王命で決められた公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢との婚約を発表した王太子に、国王陛下が激オコです。
※他サイトにも投稿しています。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
小説家になろうで日間総合ランキング3位まで上がった作品です。
公爵令嬢は逃げ出すことにした【完結済】
佐原香奈
恋愛
公爵家の跡取りとして厳しい教育を受けるエリー。
異母妹のアリーはエリーとは逆に甘やかされて育てられていた。
幼い頃からの婚約者であるヘンリーはアリーに惚れている。
その事実を1番隣でいつも見ていた。
一度目の人生と同じ光景をまた繰り返す。
25歳の冬、たった1人で終わらせた人生の繰り返しに嫌気がさし、エリーは逃げ出すことにした。
これからもずっと続く苦痛を知っているのに、耐えることはできなかった。
何も持たず公爵家の門をくぐるエリーが向かった先にいたのは…
完結済ですが、気が向いた時に話を追加しています。
侯爵様と婚約したと自慢する幼馴染にうんざりしていたら、幸せが舞い込んできた。
和泉鷹央
恋愛
「私、ロアン侯爵様と婚約したのよ。貴方のような無能で下賤な女にはこんな良縁来ないわよね、残念ー!」
同じ十七歳。もう、結婚をしていい年齢だった。
幼馴染のユーリアはそう言ってアグネスのことを蔑み、憐れみを込めた目で見下して自分の婚約を報告してきた。
外見の良さにプロポーションの対比も、それぞれの実家の爵位も天と地ほどの差があってユーリアには、いくつもの高得点が挙げられる。
しかし、中身の汚さ、性格の悪さときたらそれは正反対になるかもしれない。
人間、似た物同士が夫婦になるという。
その通り、ユーリアとオランは似た物同士だった。その家族や親せきも。
ただ一つ違うところといえば、彼の従兄弟になるレスターは外見よりも中身を愛する人だったということだ。
そして、外見にばかりこだわるユーリアたちは転落人生を迎えることになる。
一方、アグネスにはレスターとの婚約という幸せが舞い込んでくるのだった。
他の投稿サイトにも掲載しています。
【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢
美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」
かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。
誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。
そこで彼女はある1人の人物と出会う。
彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。
ーー蜂蜜みたい。
これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。
転移したらダンジョンの下層だった
Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。
もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。
そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。
20年かけた恋が実ったって言うけど結局は略奪でしょ?
ヘロディア
恋愛
偶然にも夫が、知らない女性に告白されるのを目撃してしまった主人公。
彼女はショックを受けたが、更に夫がその女性を抱きしめ、その関係性を理解してしまう。
その女性は、20年かけた恋が実った、とまるで物語のヒロインのように言い、訳がわからなくなる主人公。
数日が経ち、夫から今夜は帰れないから先に寝て、とメールが届いて、主人公の不安は確信に変わる。夫を追った先でみたものとは…
私の婚約者には、それはそれは大切な幼馴染がいる
下菊みこと
恋愛
絶対に浮気と言えるかは微妙だけど、他者から見てもこれはないわと断言できる婚約者の態度にいい加減決断をしたお話。もちろんざまぁ有り。
ロザリアの婚約者には大切な大切な幼馴染がいる。その幼馴染ばかりを優先する婚約者に、ロザリアはある決心をして証拠を固めていた。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる