One week

カム

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月曜日、午前9時(ラウル編)

3 千人目の客

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「楽園?」

 なんて胡散臭さだ。

「遠慮するな、これも何かの縁だ」

 遠慮じゃないんだが。
 オッサンは俺の肩をぐいっと掴むと、無理やりテーマパークへ引っ張っていった。

「待て!亀はいいのか?」
「ん?何だ?そりゃどこの言葉だ?」
「キャサリン!」

 俺が亀を指さすと、オッサンは分かってくれたようだ。

「ああ、キャサリンの事は気にするな。ただのながれの亀だ。デザートを食ったらまた旅に出るさ」

 あいつ、優雅な奴だったんだな……。

 チリリン

 テーマパークの入り口をくぐると、オッサンは近くにあった鐘をならした。

「おめでとう!兄ちゃんはちょうど千人目の客だ!」

 嘘だろ、どう考えても。

「というわけで、好きなだけ俺の楽園見て行っていいぞ~。餌やり体験もするか?」

 俺は頷いたが、考え直して袋からガイドブックを取り出した。俺の意志を伝えておかないと。後で料金をぼったくられても困る。
 ええと……これだ。

『私は王都に向かっています』
『ここはどこですか?』
『料金はいくらかかりますか?』
『お金をあまり持っていません』

 そう言うと、オッサンは俺の顔にタバコの煙を吐き、ポンポンと俺の肩をたたいた。

「兄ちゃん異国人みたいだな~まあいい。俺の言葉は分かるか?」

 頷く。

「ここは動物達の楽園、その名も動物村だ」

え!?

『動物?』

 俺はガイドブックの徒歩の横にある動物のイラストを指さした。

「ああ。たくさん動物がいるから王都に行くなら一匹くらい貸してやるぜ?」

 やった!何てラッキーなんだ、俺!

『今週の土曜日』
『王都』
『動物』
『速い』

 身ぶり手ぶりとガイドブックの辞書を駆使してとにかく今週の土曜までに王都に行きたいと告げる。

「あ~五日から六日で王都に行きたいから、足の速い動物はいるかって言いたいのか?」

 通じた。

「足の速い奴もいるが、兄ちゃん金持ってんのか?」

 え?

「足が速いほど高いんだよな~兄ちゃんに払えるかな~」

 俺は袋に入った紙幣を取り出して見せた。

「あ~微妙な額だな。せいぜい王都まで十日くらいの動物しか貸せねえなぁ~」

 本当か?わからないから信じようがない。如月の奴もっと高額にしてくれよな。

チリリン

 俺は鐘をならして千人目だとアピールしてみた。

『安くしてください』

 オッサンはにやりと笑う。

「なあ兄ちゃん、ちょっと俺の仕事手伝ってくれねーか?そうすれば、三日で王都まで行ける動物かしてやるぜ?」

『仕事?』

「仕事。兄ちゃん、キャサリンに乗ってるくらいだから動物好きなんだろ?隠すな、顔に出てるぜ。動物と触れ合えて、さらに足の速い奴も貸してやる。いい話だろ」

 顔に出ていたか。
 確かに俺は動物が大好きだ。
 古びた手作りテーマパークでも、動物村と聞いて、どんな動物がいるのか見たくて少しわくわくしていたのは事実だ。
 目の前でタバコをふかしてるオッサンも、動物好きと聞けばいい人に思えてくる。

「分かった」

 頷くと、了解ととったオッサンはさっそく俺をテーマパークの中に連れ出した。

 テーマパークは広かった。
 というより……この辺りの土地に適当に柵をはりめぐらせただけだろ。
 敷地内には草原や小川や森もある。遠くに見える山まで敷地内じゃないだろうな。

 そして草原には獏みたいな動物が数匹かたまって草を食べていた。もとの世界の動物より大きい気がする。

 遠くに馬のような生き物もいた。あいつは同じくらいの大きさだと思うが。
 たまに頭上をでかい鳥が飛んでいく。

 俺、本当に異世界に来てしまったんだな。ふいにそんな事を痛感してしまった。見た事のない動物だらけだ。

 だが俺はこれからさらに異世界に来た事を実感するはめになる。

「兄ちゃんに手伝ってほしいのは、怪我した奴の世話なんだよ」

 オッサンに言われて俺は敷地内の小屋にやってきた。良く言えばログハウスに近い。

「数日前にこの動物村に倒れてたんだ。おそらく仲間と移動中にはぐれたんだな。手当てしたいが、俺を警戒して全然なつかねぇ」

 オッサンは引っ掻かれた傷を見せてくれた。俺が世話しても同じじゃないだろうか。どんな動物か聞きたかったが、聞いてもきっと分からないだろうな。
 オッサンは小屋のドアを開けた。中は真っ暗だ。

「入るぜ~。いい加減に傷の手当てさせてくれよな」

 オッサンの声にこたえたのは唸り声だった。大型の哺乳類みたいな。

 怖いぞ!
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