One week

カム

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日曜日、午後2時

6 覚えたばかりの言葉で会話しよう

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 俺と如月の話がひと段落ついたのを察したのか、そのまま夕食になった。

 俺達が珍しいらしく、村長の家にいつもより多くの村人が集まって一緒に食事を取るらしい。
 手伝いの村の女性も来ていたが、忙しそうなので俺も食事を運んだり皿を並べたりして手伝った。

「異世界の人だったのね」
『はい』

 子供の母親に聞かれ、覚えたばかりの言葉「はい」「いいえ」で答える。

「こちらとあなたの世界は全然違うの?」
『はい』
「楽しい世界なの?」
『はい』
「こっちもなかなかいいでしょう?」
『はい』
「あなた素直で可愛いわね」
『は……いいえ』

 赤くなる俺を見て母親はくすくす笑っている。母親といっても俺の姉ちゃんよりは多分若い。
 同世代くらいに見えるので、若い女性と最近接してなかった俺は褒められて恥ずかしくなった。言葉が伝わらない時は案外平気だったのに。
 母親と話してると、子供が俺のズボンのすそを引っ張った。

「お兄ちゃん、帰っちゃうの?」
『はい』
「もっといてよ。また遊んで」

 うう……この子可愛いな。
 でも、もとの世界に戻ったら二度と会えなくなるわけで。純粋に俺を見上げてくる瞳に俺は胸が締めつけられた。

「お母さん大事にしろよ」

 そう言ってぎゅっと抱きしめると、伝わるはずのない俺の言葉に子供は頷いた。

 夕食を食べ終わると、俺は如月から袋をもらった。リュックに似ているが、それほど凝った作りじゃない。中を見ると紙の束が入っていた。

「これは……」
「こちらのお金です。あまりありませんが。旅に役立ててください」
「いいのか?」
「いいのです。召喚魔法迷子の方には特例で国から一定の補助が出ますので」
「ありがとう」
「お礼なら国王のラキ様におっしゃってください。会う機会があればですが」

 ラキ王国の王はラキというらしい。
安易なネーミングだ。

「他に何か質問はありますか?なければこれで、私はそろそろお暇いたしますが」
「今から歩いてどこか行くのか?」
「魔法移動です。隣国へ出張なんです」

 魔法移動!

「俺を魔法で王都に移動させてくれたらいいじゃないか……」
「あ、一般人の魔法移動は許可がなかなかおりませんので無理ですね」

 俺の提案は笑顔で一蹴された。

「では、今週の土曜日に王都で会いましょう。時間は……そうですね午後六時頃に王都の、市街地と王宮の境目にある南門でお待ちしております」

 如月はそう言うと、村長や村人たちと挨拶をかわし村長の家を出ていった。

 俺は村の人たちの好意で、一晩泊めてもらえる事になった。あまり夜に出歩かない方がいいらしい。
 話を聞いたところによると、人間より動植物の方が危険みたいだ。俺の恐怖基準、変更した方がいいかもしれない。如月は夜通し歩けば大丈夫などと言っていたが、無茶な奴だ。

 明日には村を出るので夕食の片付けや朝食の準備を手伝っていたが、明日に備えて早く風呂に入って寝ろと言われてしまった。風呂があるのか、この世界にも。

 ちょっと嬉しい。あの花のせいで心なしか体からいい匂い……いや、ちょっと肌がつるつるになって……いや、とにかく体を洗いたかったんだ。

「お兄ちゃん、お風呂はこっちだよ」

 子供に案内されて向かった先は家の外だった。
池!?

 気持ち程度に板で仕切られた空間に、錦鯉が泳いでいないのが不思議な気さえする雰囲気の池がある。
 よく見ると湯気のようなものが出てる。
池の向こうは川になっていて、水?は村の外に出て行っているようだ。

「ここか?」
「風呂だよ」
『風呂?』
「うん」

 子供はそう言うと勢いよく服を脱ぎ捨てた。裸になって池に飛び込む。
 俺も割り切って服を脱ぐと、池の水をすくって体にかけてみた。かなりぬるい。
 でも、この世界は暖かいからそんな温度で十分だった。露天風呂だと思えばいいのか。
 池に入ってくつろぐと、子供がじっと俺の裸を凝視している。なんだ?

「お兄ちゃんの、おおきいね」

 いや、日本人の平均より少し小さいくらいなんだ。
しかし『はい』と答えるのも変だし『いいえ』と言うのも……。

「僕のこれくらい」

 それは子供だから。
こんな時、言葉が通じないもどかしさを感じるな。
 俺は身振り手振りで、身長がのびるとこっちも伸びるみたいな事を表現してみた。

「分かった!大人になったら大きくなるってこと?」

 頷くと子供は納得して嬉しそうだった。こんな小さい頃、俺はあまり大きさなんて気にしたことなかったけどな。
 そう思いながらふと外の景色を見ると、板の隙間からこっちを見ている若い女の子と目が合った。
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