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帰還
19 犯人はあいつです
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『王妃様、お久しぶりです。雲の谷では長やみなさんに大変よくしていただきました』
ぎこちない笑顔で正式な挨拶をする。王妃様はいろいろ見えてる人だと思うと緊張するな。どこまで見えているのかわからないけど、大根の聖獣は一人だけ見えていたから俺に気づいたんだと思う。
「あら、気にしなくていいのよ」
「シュウヘイ、部屋で安静にしていろと言っただろう」
ルーシェンが語気を強めたので、後ろにいたポリムと譲二さんが素早く俺の足元にやってきて跪き頭を下げる。
「王子、どうかミサキ様をお許しください。王妃様にご挨拶がしたいとおっしゃられて」
「罰なら私たちが受けます」
『二人を責めないでください。どうしても王妃様に伝えたいことがあったのです。誰にも会えないなら謹慎は他の処分に変えてください』
「シュウヘイ!」
謹慎のことを持ち出したせいなのか、ルーシェンが怒ってる。表面上は笑顔のエルヴィンが優しい声で嫌味をペラペラと話し始めた。
「王太子妃様、他の処分と言われますと、妥当なのは婚約の取り消しや、財産の没収、身分の降格などですが、そのどれを選ばれるのですか?」
『えっ?』
謹慎って労働とか罰金とかそんなレベルじゃないのか?
「王太子妃様は財産もなく、もちろん家もございません。王太子妃の身分を捨て一兵士になるおつもりでしょうか。飛行部隊の方に乗りかえたいのなら、その方が好都合かもしれませんね」
怒るな、こいつは俺を怒らせようと思っているんだから。怒ればこいつのペースに巻き込まれて俺の立場がますます悪くなる。
『そんなつもりでは……』
「エルヴィン、くだらない話をそれ以上するな」
王妃様が持っていた扇をパチンと鳴らした。
「三人とも落ち着きなさい。ミサキ、あなたのお話はあとで聞くわ。先に皆で食事にしましょう。食糧もたくさん持ってきたのよ。兵士たちにも分けてちょうだい。隣国のことも話したいの」
王妃様の言葉に、怒っていたルーシェンも少し冷静になった。王族の顔になってる。
「そうですね。隣国の父上や魔物の被害状況も気になっていたところです。誰か、すぐに食事の用意をしろ。それから母上と兵士たちに部屋を用意してくれ」
「それなら私にお任せを」
指示を出すルーシェンと、命令に従うエルヴィン。
その様子を見ながら、俺はちょっと落ち込んでいた。自分とエルヴィンのことで頭がいっぱいで、隣国のことや花粉の飛散のことなんてすっかり頭から消えていた。ポリムや譲二さんまで巻き込んだのに、ルーシェンを怒らせただけだった。本当にこれでは王太子妃失格だ。
「ミサキ様……」
ポリムと譲二さんが心配そうにこっちを見ているので、心配させないように笑顔を作ってみせた。
王妃様付きの紫の衣装の兵士たちが、砦では見たことのない豪華な長椅子を二つ運んで設置してる。王妃様、さすがに転移魔法陣じゃなく飛行船できたんだろうな。長椅子の前には毛足の長い絨毯が敷かれ、会議室が華やかになった。みんなが次々と料理を運んでテーブルに並べる。会議室があっという間に宴会場みたいに変わる。
『私も何か手伝います』
俺も準備を手伝おうとしたら、むすっとした顔のルーシェンにいきなり抱えられて荷物みたいに椅子に運ばれた。ルーシェンは俺を椅子に運ぶと、王妃様は優雅にエスコートして別の長椅子に座らせてる。扱いが全然違うな。昔パーティーに出た時もそうだった。みんなには優しいのに俺だけ荷物扱い。
ルーシェンは王妃様と内緒話みたいな会話をして、それから俺の長椅子にやって来て横に座った。
『……すみません。勝手に部屋を出て』
「顔色も悪いしふらついてる。安静にしてろと言ったのに」
『無実の罪で処刑されそうになって、黙って寝ていられません。罰なら受けます。できれば、無償労働とかでお願いします』
ルーシェンはため息を吐いた。それから俺の腰に腕をまわし、頭をくっつけてくる。みんなの前なのに珍しく甘えモードだ。そんなルーシェンを目の当たりにして砦の兵士たちが驚いてる。そういえば、ここの人たちは俺とルーシェンが一緒にいる姿をほとんど見ていないんだったよな。
「……シュウヘイには負けるな。身体は辛くないか?」
『平気です』
「母上に相談したいことというのは?」
『犯人のことです。証拠はないけど、王妃様はいろいろ見える方なので相談しようかと』
「シュウヘイ、実は」
『犯人はあいつです』
小声でそう言うと、ルーシェンは俺の視線を追って兵士たちに命令しているエルヴィンを視界に入れた。
「それは、ロベルトとの事か?」
『意識を失う前に、声を聞いたような気がします。私とロベルトさん、それにポリムや砦のみんなを魔法で眠らせたんです』
そう伝えたのに、ルーシェンはあまり納得がいっていないようだった。
「エルヴィンとロベルトの魔法の実力は同程度かロベルトの方が上だ。シュウヘイはともかく、ロベルトを魔法で眠らせるのはかなり難しい。エルヴィンにできるとは思えない」
『それならきっと協力者が』
「シュウヘイ、実はお前が寝ている間に、シュウヘイを処刑しようとしていた主犯を捕らえた」
『えっ?』
「エルヴィンではない国王軍の男だ。異世界の人間に偏見を持ち、ロベルトを妬んでいたという話だ。砦の食事に眠り薬を盛ったと話している。それなら納得できるし、証拠が揃えばそのうちロベルトの謹慎も解く。シュウヘイの名誉を回復するまでもう少し我慢してくれ」
ルーシェンはそう言って俺の髪に唇をおとす。だけど俺には全然納得できなかった。主犯が別の男? あの真っ黒エルヴィンじゃなく?
ぎこちない笑顔で正式な挨拶をする。王妃様はいろいろ見えてる人だと思うと緊張するな。どこまで見えているのかわからないけど、大根の聖獣は一人だけ見えていたから俺に気づいたんだと思う。
「あら、気にしなくていいのよ」
「シュウヘイ、部屋で安静にしていろと言っただろう」
ルーシェンが語気を強めたので、後ろにいたポリムと譲二さんが素早く俺の足元にやってきて跪き頭を下げる。
「王子、どうかミサキ様をお許しください。王妃様にご挨拶がしたいとおっしゃられて」
「罰なら私たちが受けます」
『二人を責めないでください。どうしても王妃様に伝えたいことがあったのです。誰にも会えないなら謹慎は他の処分に変えてください』
「シュウヘイ!」
謹慎のことを持ち出したせいなのか、ルーシェンが怒ってる。表面上は笑顔のエルヴィンが優しい声で嫌味をペラペラと話し始めた。
「王太子妃様、他の処分と言われますと、妥当なのは婚約の取り消しや、財産の没収、身分の降格などですが、そのどれを選ばれるのですか?」
『えっ?』
謹慎って労働とか罰金とかそんなレベルじゃないのか?
「王太子妃様は財産もなく、もちろん家もございません。王太子妃の身分を捨て一兵士になるおつもりでしょうか。飛行部隊の方に乗りかえたいのなら、その方が好都合かもしれませんね」
怒るな、こいつは俺を怒らせようと思っているんだから。怒ればこいつのペースに巻き込まれて俺の立場がますます悪くなる。
『そんなつもりでは……』
「エルヴィン、くだらない話をそれ以上するな」
王妃様が持っていた扇をパチンと鳴らした。
「三人とも落ち着きなさい。ミサキ、あなたのお話はあとで聞くわ。先に皆で食事にしましょう。食糧もたくさん持ってきたのよ。兵士たちにも分けてちょうだい。隣国のことも話したいの」
王妃様の言葉に、怒っていたルーシェンも少し冷静になった。王族の顔になってる。
「そうですね。隣国の父上や魔物の被害状況も気になっていたところです。誰か、すぐに食事の用意をしろ。それから母上と兵士たちに部屋を用意してくれ」
「それなら私にお任せを」
指示を出すルーシェンと、命令に従うエルヴィン。
その様子を見ながら、俺はちょっと落ち込んでいた。自分とエルヴィンのことで頭がいっぱいで、隣国のことや花粉の飛散のことなんてすっかり頭から消えていた。ポリムや譲二さんまで巻き込んだのに、ルーシェンを怒らせただけだった。本当にこれでは王太子妃失格だ。
「ミサキ様……」
ポリムと譲二さんが心配そうにこっちを見ているので、心配させないように笑顔を作ってみせた。
王妃様付きの紫の衣装の兵士たちが、砦では見たことのない豪華な長椅子を二つ運んで設置してる。王妃様、さすがに転移魔法陣じゃなく飛行船できたんだろうな。長椅子の前には毛足の長い絨毯が敷かれ、会議室が華やかになった。みんなが次々と料理を運んでテーブルに並べる。会議室があっという間に宴会場みたいに変わる。
『私も何か手伝います』
俺も準備を手伝おうとしたら、むすっとした顔のルーシェンにいきなり抱えられて荷物みたいに椅子に運ばれた。ルーシェンは俺を椅子に運ぶと、王妃様は優雅にエスコートして別の長椅子に座らせてる。扱いが全然違うな。昔パーティーに出た時もそうだった。みんなには優しいのに俺だけ荷物扱い。
ルーシェンは王妃様と内緒話みたいな会話をして、それから俺の長椅子にやって来て横に座った。
『……すみません。勝手に部屋を出て』
「顔色も悪いしふらついてる。安静にしてろと言ったのに」
『無実の罪で処刑されそうになって、黙って寝ていられません。罰なら受けます。できれば、無償労働とかでお願いします』
ルーシェンはため息を吐いた。それから俺の腰に腕をまわし、頭をくっつけてくる。みんなの前なのに珍しく甘えモードだ。そんなルーシェンを目の当たりにして砦の兵士たちが驚いてる。そういえば、ここの人たちは俺とルーシェンが一緒にいる姿をほとんど見ていないんだったよな。
「……シュウヘイには負けるな。身体は辛くないか?」
『平気です』
「母上に相談したいことというのは?」
『犯人のことです。証拠はないけど、王妃様はいろいろ見える方なので相談しようかと』
「シュウヘイ、実は」
『犯人はあいつです』
小声でそう言うと、ルーシェンは俺の視線を追って兵士たちに命令しているエルヴィンを視界に入れた。
「それは、ロベルトとの事か?」
『意識を失う前に、声を聞いたような気がします。私とロベルトさん、それにポリムや砦のみんなを魔法で眠らせたんです』
そう伝えたのに、ルーシェンはあまり納得がいっていないようだった。
「エルヴィンとロベルトの魔法の実力は同程度かロベルトの方が上だ。シュウヘイはともかく、ロベルトを魔法で眠らせるのはかなり難しい。エルヴィンにできるとは思えない」
『それならきっと協力者が』
「シュウヘイ、実はお前が寝ている間に、シュウヘイを処刑しようとしていた主犯を捕らえた」
『えっ?』
「エルヴィンではない国王軍の男だ。異世界の人間に偏見を持ち、ロベルトを妬んでいたという話だ。砦の食事に眠り薬を盛ったと話している。それなら納得できるし、証拠が揃えばそのうちロベルトの謹慎も解く。シュウヘイの名誉を回復するまでもう少し我慢してくれ」
ルーシェンはそう言って俺の髪に唇をおとす。だけど俺には全然納得できなかった。主犯が別の男? あの真っ黒エルヴィンじゃなく?
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