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雲の谷
5 回復の泉
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「熱い……痒いよ。ルーシェン……会いたい」
誰もいないし、疲れと気持ち悪さと不安でいっぱいになって、涙混じりの愚痴を日本語で呟く。うう、動きたい。痒い。自分でもいいから扱きたい。
しばらくめそめそしていると、お爺さんと女の人が戻ってきた。俺の涙に動揺することもなく、シーツをめくって薬を確認する。
「ちゃんと浸透してますね」
『熱くて痒いです』
「お湯で流しましょう」
簀巻きを解かれて全身真っ黒のまま別の場所に移動する。そこは屋外のお風呂場のような場所だった。身体を洗うように言われて黒い薬を洗い流す。熱さと痒みがようやく引いてスッキリした。
「うわ……」
ぬるま湯をかけて洗い流すと、今までなかった黒い模様が全身に浮かびあがった。心臓の周りと左手は真っ黒だ。左手首には握られたような黒い手形が残ってる。心臓から放射状に伸びた黒い模様は、まるでロープが身体に巻き付いているように見える。しかも……この巻きつき方、かなり卑猥だ。エロい縛り方そのものなんだけど。あの変態親父、どこまでいっても変態だな。右手にはなかったけど、首には首輪のように黒い模様が巻き付いているし、両足首も足枷みたいな模様が入ってる。
模様の中に俺でも読める異世界文字が書かれている。一つは名前、もう一つは性奴隷という文字だ。きっとこの名前は、あの変態クソ親父の名前。
心臓に杖の先を落とされて、電流みたいな刺激が駆け抜けたあの時、きっとこの呪いの模様を身体に描かれてたんだ。
膝が震えて力が抜けた。怖くて、気持ち悪くてその場に吐く。見えなかったけど、ずっとこれが俺の身体に書かれていたのか。最悪だ。俺のせいじゃないけど、ルーシェンにまで悪いことをしたような気がする。こんな身体で抱かれてたなんて。
お湯ではその模様は消えなかった。大きな布で身体を包んで座っていると、お爺さんがやってきた。
「酷いもんじゃろう」
『見えてたんですか……?』
「わしにはいろいろなものが見える。魔法が一番よく見えるが」
『もしかして、王妃様やいろんな人にも見えてたんでしょうか?』
それならもう恥ずかしくて人前に出られない。ルーシェンには、見えてなかったと思う。見えてたらきっともっと激怒する。それか、嫌われて捨てられるかも。
「おそらく殆どの者には見えぬ。リリーメイや呪術を専門とする治療士でも、分かるのは呪術がかけられていることくらいで、鮮明には見えなかったはずじゃ。お前さんは見える者だと聞いておるが、自分の身体は見えないのじゃな」
『見えない方が良かったです』
「なんじゃ、落ち込んだのか。見えなければ消せんじゃろう。これから綺麗に消すのじゃ。落ち込むでない」
お爺さんは初めて笑った。笑うとますます仙人っぽい。
「ついて来い。雲の谷の秘薬、回復の泉に案内するぞ」
布を被ったままお爺さんについて行くと、感じていたパワースポット的なエネルギーが強くなっていった。落ち込んでいたはずなのに、そんな暗い気持ちを吹き飛ばして浄化するような強烈さだ。すごい。王宮のプライベートゾーンでシロが現れる前と同じくらい強い。
その中庭にはたくさんの池や水路があった。中央に小さな噴水が。あちこちに大きな木が生えていて、たくさんの黄色い実をつけている。
『何だあれ……?』
「見えるか?」
お爺さんが杖で指した先には、丸っこくてふわふわした緑色の生き物と、太くて白いダイコンみたいな生き物がいた。それがのんびり動いている。大根や緑のふわふわは水路のあちこちで水浴びをしてる。黄色い木の実を取って食べたり。大根は二股になっていて、その足のようなものでペタペタと器用に歩いていた。脱力するような光景だ。
「普通の者には見えん。悪さはせんし、無邪気な聖獣だから失礼を働くでないぞ」
『は、はい』
「あちらにお風呂を用意しました」
女の人がやって来て教えてくれる。すぐ近くに木で出来た丸い形の浴槽があって、お風呂が準備されていた。魔法石と柄杓のセットを手渡される。これでお湯の温度を調整しろということらしい。
「しばらく回復のお湯に浸かって、水をたっぷりと飲んで、治療に専念してください。夜はお部屋でお休みを。食事の用意が出来たらまたお呼びします」
二人が去って行ったので、柄杓で身体にお湯をかけてみる。気持ちいい。痛みが一瞬で引いた。心の痛みも楽になったような気がする。真っ黒な魔法の痕跡が少し薄くなったので、とりあえず変態親父の名前と性奴隷の異世界文字をごしごし擦る。集中して磨いていると、文字はごく薄くなってそこだけ綺麗になった。
ほっとして、それからゆっくりとお湯に浸かる。屋外の露天風呂は気持ちいい。じんわりと回復呪文をかけられてるみたいだ。お湯に体を委ねて目を閉じ、再び目を開けて身体を見ると、身体の模様も全体的に薄くなっていた。
誰もいないし、疲れと気持ち悪さと不安でいっぱいになって、涙混じりの愚痴を日本語で呟く。うう、動きたい。痒い。自分でもいいから扱きたい。
しばらくめそめそしていると、お爺さんと女の人が戻ってきた。俺の涙に動揺することもなく、シーツをめくって薬を確認する。
「ちゃんと浸透してますね」
『熱くて痒いです』
「お湯で流しましょう」
簀巻きを解かれて全身真っ黒のまま別の場所に移動する。そこは屋外のお風呂場のような場所だった。身体を洗うように言われて黒い薬を洗い流す。熱さと痒みがようやく引いてスッキリした。
「うわ……」
ぬるま湯をかけて洗い流すと、今までなかった黒い模様が全身に浮かびあがった。心臓の周りと左手は真っ黒だ。左手首には握られたような黒い手形が残ってる。心臓から放射状に伸びた黒い模様は、まるでロープが身体に巻き付いているように見える。しかも……この巻きつき方、かなり卑猥だ。エロい縛り方そのものなんだけど。あの変態親父、どこまでいっても変態だな。右手にはなかったけど、首には首輪のように黒い模様が巻き付いているし、両足首も足枷みたいな模様が入ってる。
模様の中に俺でも読める異世界文字が書かれている。一つは名前、もう一つは性奴隷という文字だ。きっとこの名前は、あの変態クソ親父の名前。
心臓に杖の先を落とされて、電流みたいな刺激が駆け抜けたあの時、きっとこの呪いの模様を身体に描かれてたんだ。
膝が震えて力が抜けた。怖くて、気持ち悪くてその場に吐く。見えなかったけど、ずっとこれが俺の身体に書かれていたのか。最悪だ。俺のせいじゃないけど、ルーシェンにまで悪いことをしたような気がする。こんな身体で抱かれてたなんて。
お湯ではその模様は消えなかった。大きな布で身体を包んで座っていると、お爺さんがやってきた。
「酷いもんじゃろう」
『見えてたんですか……?』
「わしにはいろいろなものが見える。魔法が一番よく見えるが」
『もしかして、王妃様やいろんな人にも見えてたんでしょうか?』
それならもう恥ずかしくて人前に出られない。ルーシェンには、見えてなかったと思う。見えてたらきっともっと激怒する。それか、嫌われて捨てられるかも。
「おそらく殆どの者には見えぬ。リリーメイや呪術を専門とする治療士でも、分かるのは呪術がかけられていることくらいで、鮮明には見えなかったはずじゃ。お前さんは見える者だと聞いておるが、自分の身体は見えないのじゃな」
『見えない方が良かったです』
「なんじゃ、落ち込んだのか。見えなければ消せんじゃろう。これから綺麗に消すのじゃ。落ち込むでない」
お爺さんは初めて笑った。笑うとますます仙人っぽい。
「ついて来い。雲の谷の秘薬、回復の泉に案内するぞ」
布を被ったままお爺さんについて行くと、感じていたパワースポット的なエネルギーが強くなっていった。落ち込んでいたはずなのに、そんな暗い気持ちを吹き飛ばして浄化するような強烈さだ。すごい。王宮のプライベートゾーンでシロが現れる前と同じくらい強い。
その中庭にはたくさんの池や水路があった。中央に小さな噴水が。あちこちに大きな木が生えていて、たくさんの黄色い実をつけている。
『何だあれ……?』
「見えるか?」
お爺さんが杖で指した先には、丸っこくてふわふわした緑色の生き物と、太くて白いダイコンみたいな生き物がいた。それがのんびり動いている。大根や緑のふわふわは水路のあちこちで水浴びをしてる。黄色い木の実を取って食べたり。大根は二股になっていて、その足のようなものでペタペタと器用に歩いていた。脱力するような光景だ。
「普通の者には見えん。悪さはせんし、無邪気な聖獣だから失礼を働くでないぞ」
『は、はい』
「あちらにお風呂を用意しました」
女の人がやって来て教えてくれる。すぐ近くに木で出来た丸い形の浴槽があって、お風呂が準備されていた。魔法石と柄杓のセットを手渡される。これでお湯の温度を調整しろということらしい。
「しばらく回復のお湯に浸かって、水をたっぷりと飲んで、治療に専念してください。夜はお部屋でお休みを。食事の用意が出来たらまたお呼びします」
二人が去って行ったので、柄杓で身体にお湯をかけてみる。気持ちいい。痛みが一瞬で引いた。心の痛みも楽になったような気がする。真っ黒な魔法の痕跡が少し薄くなったので、とりあえず変態親父の名前と性奴隷の異世界文字をごしごし擦る。集中して磨いていると、文字はごく薄くなってそこだけ綺麗になった。
ほっとして、それからゆっくりとお湯に浸かる。屋外の露天風呂は気持ちいい。じんわりと回復呪文をかけられてるみたいだ。お湯に体を委ねて目を閉じ、再び目を開けて身体を見ると、身体の模様も全体的に薄くなっていた。
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