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赤砂の街
7 俺も一緒にいる
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「で、でも……転移魔法自体が心臓に悪いんだろ?」
「そうですね。だから最後の手段に近いです。よほどこちらの戦況が思わしくなく、王都近くまで戦闘が拡大した場合ですね。ただ、その可能性は高いので旅行自体を取りやめてミサキさんは王都に戻っていた方がいいとは思います。王都なら他より安全ですし、日本にも戻りやすいですから」
「ルーシェンは?」
「王子も飛行部隊も、こちらに残って西側から南の国境沿いで討伐を続けると思います」
「じゃあ何ヶ月も会えないって事か?」
妖花を討伐に行った時、ルーシェンは半月くらい帰って来られなかった。今回はもっと時間がかかるんじゃないだろうか。
「どの程度の災害になるか分かりませんが、魔物の凶暴化が収まるのにかなり手間取ると思います。数ヶ月か、場合によっては何年も」
「……そんなの嫌だ。俺も一緒にいる。日本には戻らない」
いくら仕事っぽいとは言え、せっかく婚約旅行が始まったばかりなのに、王都や日本に戻るなんて絶対に嫌だ。危険な場所にルーシェンを残して、俺だけ安全な場所に戻るなんて。
「心臓はなんともないから、俺もギリギリまで一緒にいる」
そう言うと、如月はため息をついた。
「王子はミサキさんに倒れられる方が魔物より恐ろしいと思いますけど。とにかく、王子と相談してください。どこかへ移動する時には私もミサキさんの警護につきますから」
***
最初の予定では夕方まで休憩した後、再び広間で商人や偉い人達から貢物をもらう感じだったらしいけど、開花のニュースで予定が全部吹っ飛んでしまった。
「なんという事だ……!」
「開花ですって……⁉」
赤砂の街の領主夫妻は開花のニュースを聞いて取り乱していた。歳をとった人ほどパニックになっているのが分かる。よほど怖い思い出でもあるのだろう。
「近くに赤い砂漠や谷があるんだ。そこは火竜や赤い悪魔が住み着いているし、国境付近には稀にだが影喰いだって出る。そんな魔物がこの街にやって来たらどうしたらいいんだ……」
「王子様! なんとかしてください!」
「赤砂の街をお助けください!」
「討伐をお願いします!」
大勢の街の人達に詰め寄られるルーシェンを見て、俺はあらためて王子というポジションのキツさを思い知った。ロベルトさんがルーシェンと街の人たちの間に入り無言で牽制する。
「このあたりの詳細な地図を貸してくれ。近くにある村や集落の数と、地図に載っていない村があればその存在も知りたい」
ルーシェンがそう言うと、領主の男が部下に指示を出す。
「この街の兵士でまともに戦えるのはどれくらいだ? できれば魔物との戦闘経験のある者がいい。備蓄されている武器や食料の数も報告してくれ」
ルーシェンは移動しながらそれらの質問を矢継ぎ早に領主に投げかけ、領主がしどろもどろにそれに答える。
如月と雲の谷の使者が来て以降、ルーシェンとまともに会話する暇もない。すごく忙しそうで、眉間にシワを寄せたルーシェンを見るたびに、俺がそばにいて支えないと、と思った。
だけど何が出来るんだろう。
俺には実践経験も皆無に近いし、特別なスキルもない。今のところ、そしてこれからも役に立つ気配ゼロだ。
いや、しっかりしろ。俺にも何かできる筈だ……と思う。泣きそうな気分だけど泣いている場合じゃない。
「ミサキ様、少しお話がありますがお時間を頂いてもよろしいですか?」
「え? は、はい」
頑張ろうと顔をペチペチ叩いていると、雲の谷の使者が俺に話しかけてきた。
「そうですね。だから最後の手段に近いです。よほどこちらの戦況が思わしくなく、王都近くまで戦闘が拡大した場合ですね。ただ、その可能性は高いので旅行自体を取りやめてミサキさんは王都に戻っていた方がいいとは思います。王都なら他より安全ですし、日本にも戻りやすいですから」
「ルーシェンは?」
「王子も飛行部隊も、こちらに残って西側から南の国境沿いで討伐を続けると思います」
「じゃあ何ヶ月も会えないって事か?」
妖花を討伐に行った時、ルーシェンは半月くらい帰って来られなかった。今回はもっと時間がかかるんじゃないだろうか。
「どの程度の災害になるか分かりませんが、魔物の凶暴化が収まるのにかなり手間取ると思います。数ヶ月か、場合によっては何年も」
「……そんなの嫌だ。俺も一緒にいる。日本には戻らない」
いくら仕事っぽいとは言え、せっかく婚約旅行が始まったばかりなのに、王都や日本に戻るなんて絶対に嫌だ。危険な場所にルーシェンを残して、俺だけ安全な場所に戻るなんて。
「心臓はなんともないから、俺もギリギリまで一緒にいる」
そう言うと、如月はため息をついた。
「王子はミサキさんに倒れられる方が魔物より恐ろしいと思いますけど。とにかく、王子と相談してください。どこかへ移動する時には私もミサキさんの警護につきますから」
***
最初の予定では夕方まで休憩した後、再び広間で商人や偉い人達から貢物をもらう感じだったらしいけど、開花のニュースで予定が全部吹っ飛んでしまった。
「なんという事だ……!」
「開花ですって……⁉」
赤砂の街の領主夫妻は開花のニュースを聞いて取り乱していた。歳をとった人ほどパニックになっているのが分かる。よほど怖い思い出でもあるのだろう。
「近くに赤い砂漠や谷があるんだ。そこは火竜や赤い悪魔が住み着いているし、国境付近には稀にだが影喰いだって出る。そんな魔物がこの街にやって来たらどうしたらいいんだ……」
「王子様! なんとかしてください!」
「赤砂の街をお助けください!」
「討伐をお願いします!」
大勢の街の人達に詰め寄られるルーシェンを見て、俺はあらためて王子というポジションのキツさを思い知った。ロベルトさんがルーシェンと街の人たちの間に入り無言で牽制する。
「このあたりの詳細な地図を貸してくれ。近くにある村や集落の数と、地図に載っていない村があればその存在も知りたい」
ルーシェンがそう言うと、領主の男が部下に指示を出す。
「この街の兵士でまともに戦えるのはどれくらいだ? できれば魔物との戦闘経験のある者がいい。備蓄されている武器や食料の数も報告してくれ」
ルーシェンは移動しながらそれらの質問を矢継ぎ早に領主に投げかけ、領主がしどろもどろにそれに答える。
如月と雲の谷の使者が来て以降、ルーシェンとまともに会話する暇もない。すごく忙しそうで、眉間にシワを寄せたルーシェンを見るたびに、俺がそばにいて支えないと、と思った。
だけど何が出来るんだろう。
俺には実践経験も皆無に近いし、特別なスキルもない。今のところ、そしてこれからも役に立つ気配ゼロだ。
いや、しっかりしろ。俺にも何かできる筈だ……と思う。泣きそうな気分だけど泣いている場合じゃない。
「ミサキ様、少しお話がありますがお時間を頂いてもよろしいですか?」
「え? は、はい」
頑張ろうと顔をペチペチ叩いていると、雲の谷の使者が俺に話しかけてきた。
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