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赤砂の街

1 ついて行っていいですか?

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 朝、昨夜見た嫌な夢の余韻に浸りつつも、どこにも妖精さんの姿が見えない事に安堵する。
 侍女の幽霊が消えたと思ったのは夢じゃなかったらしい。
 腕も重くないし、そういう意味では爽やかな朝だ。

「シュウヘイ、今日の午後には赤砂の街に着く。それまでに着替えておいてくれ。街に入れば歓迎の式典と食事会があるから、朝食はあまり食べすぎない方がいい」

 ルーシェンは俺より先に着替えを済ませて、機嫌も良さそうだ。

『もしかして、先に朝ご飯食べました?』
「ああ。シュウヘイが寝ていたから」

 くぅ……。
 不覚にもまたルーシェンよりかなり遅く起きてしまった。
 いつもルーシェンに合わせて起きようと思っているのに、だいたい寝過ごしてしまう。夜明け前にイチャイチャしていたのは二人一緒なのに何故だ。

『待ってください。すぐに起きます。ルーシェンは今から会議とか?仕事ですか?』

 ルーシェンはいつもと少し服装が違う。白い手袋に、フード付きの青いマントを身につけている。赤砂の街を訪問するならもっと煌びやかな格好のはずだし、飛行船でくつろぐにはマントの生地が厚い気がする。

「まだ時間があるからエストに乗ってこの辺りを飛行しようかと……」

 な、何だそれ。ずるいぞ。
 確かに俺はまだ飛竜には乗れないけど。朝の散歩的感覚で飛ぶのか?羨ましすぎる。

 あんまり俺が物言いたげな顔で口をパクパクさせていたせいか、ルーシェンは笑った。

「では朝食前に少しだけ二人で飛行するか?」
『します!』

 大急ぎで着替えて部屋を出ると、すでに待機していたポリムと譲二さんに、朝の飛行散歩に連れていってもらえる事を話した。

「まぁっ、良かったですわね、ミサキ様!」
「王子、ミサキ様、私もお供いたします」

 譲二さんがそう言ったのを見て、ルーシェンは俺にだけ聞こえるように「どうせ何を言ってもアーク達もついて来るだろうな」と言った。


 飛行船兼浮島の広場には、白い飛竜のエストとアークさんと他に一頭の茶色い飛竜が待機していた。フィオネさんと飛竜のトレーナーもいる。

「ミサキ様、おはようございます」

 アークさんがスマートに正式な挨拶をしてくれる。初めの頃の人懐っこいアークさんもいいけど、この人は器用だから何やってもどんな仕草をしても似合うな。

『おはようございます。アークさん、朝の散歩に一緒についていっていいですか?』
「もちろんです」
「ミサキ様、くれぐれも無茶はなさいませんよう。短時間だけになさってくださいませ」

 にこやかなアークさんとは対照的に、フィオネさんは無表情で釘をさしてくる。

『分かりました』

 譲二さんがおそらく自分のパートナーの飛竜を連れて広場に戻って来た。いいなぁ。
 俺も太郎と次郎が成長したら、あんなふうに二頭を連れて自由に飛行したい。

「では行くか」

 ルーシェンが先にエストに乗り、手を差し出してくれる。
 そういえば俺、まともに飛竜に乗った事ないんだけど、どうやって乗るんだ?飛竜は思ったよりでかいし、変なところ触ってエストがキレたりしないだろうか。逆鱗っていう、触ったら竜が怒るあれは飛竜には無いのか?
 片手でルーシェンの手を掴み、もう片方の手でエストが着けている鞍を握っておそるおそるよじ登る。途中で前脚に足をかけてしまったけどエストは全く怒らなかった。

 飛竜って思ったよりでかいな……。視線がけっこう高くなる。白い鱗はゴツゴツして硬いけど、トゲのように刺さったりしなくて滑らかだ。

 エストの首に付いている手綱をルーシェンに手渡され緊張しながら握ると、ルーシェンが背後から自分の着ていたマントで俺を包んでくれた。

「手綱を握っていれば大丈夫だ。無茶な飛行はしない」

 頷くと、エストが起き上がり翼を広げた。

『うわわわわ……!!』

 翼を広げるとすごい迫力だ。
 心の準備をしている途中で、身体にぐんっと重圧がかかったかと思うと、エストは一気に上空へ飛んだ。

 景色がジェットコースターみたいな速さで後方に流れていく。
 浮島自体が空に浮いていたから、短時間飛んだだけでかなり上空に来てる。思ったより寒く無い。

『す、すげーー!!』

 手綱はしっかり握ってるけど、ルーシェンが背後から抱きしめてくれているおかげで怖くない。それほど揺れないし、景色を見る余裕が出て来た。
 地平線が遠くまで見渡せる。下の方に浮島が見え、さらに下には茶色の大地が広がってる。

「シュウヘイ、大丈夫か?」
『ハイっ、全然寒く無いですね。そんなに揺れないし』
「エストの周囲に防御魔法をかけているから風も寒さも緩和されているはずだ」
『なるほど……!』

 確かに、よく見ればエストの身体の周りがほんのり青く光ってた。

 分厚い雲の隙間から洩れる太陽の光が、白い鱗に反射して綺麗だ。
 エストはゆっくりと翼を動かし、グライダーのように風に乗った。飛竜は他の竜と違って飛行に特化しているから、翼が大きく身体は小さめなんだ。持っている魔力はおもに飛行に使用していると、トレーナーさんが言っていた。

 ゆっくり振り返ると、少し後方に二頭の茶色い飛竜がついて来てる。アークさんと譲二さんだ。

 飛行散歩……楽しい!
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