103 / 209
新婚旅行
9 許す
しおりを挟む
『あの……魔法村で喧嘩した事ありましたよね? あれ、まだ怒ってますか?』
なんとか許すというキーワードをルーシェンから引き出そうと思って思いついたのがこれ。だけどルーシェンは乗ってこなかった。
「急にどうした。話していて大丈夫か? やはり薬を飲んだ方がいい」
(薬……!)
かわりに俺の中にいる侍女の幽霊が、ルーシェンの言葉に反応した。力を増したのか喉が急に苦しくなる。
(死にたくない……! 喉が苦しい! 王子様! 助けて……!)
「シュウヘイ!?」
これ多分、毒を飲んで自殺したっていう侍女の記憶だ。喉が痛い。喉というか肺というか、全身に痛みが回って、ヤバイ気がする。
多分架空の痛みのはずなんだけど、嘘だろっていうくらい実感がある。目の前がますます暗くなって、必死にルーシェンを抱きしめると、唇に何か触れた。
『……』
軽く触れたそれは、柔らかくて馴染み深くて……すごく落ち着く。
こっちの世界にも人工呼吸ってあるのかな。空気を分けて貰ってるのか?
いや、ただのキスだな。でも特別なやつだ。とても気持ち良くて幸せな気持ちになるあれ。
喉が楽になった。全身から痛みが取れて力が抜ける。
『ふ……っ……ん』
気持ちいい。気持ち良すぎて舌を入れると、応えてくれるかわりに唇が離れた。
目を開けると心配そうな表情のルーシェンと目があった。視界から暗さが消えてかなりクリアになってる。
「大丈夫か?」
フィオネさんが、侍女はルーシェンにも毒を盛ったって言ってたよな。ということは、あの苦しみをルーシェンも味わったのか。
今の俺みたいにキスして楽にしてもらえたわけでもなく、後遺症にも苦しめられたって言ってた。
きっと苦しかっただろうな。侍女を許せなくて当然だ。
『ルーシェン、侍女の幽霊が……謝ってます。ごめんなさいって、許してくださいって』
ルーシェンはしばらく無言で俺の顔を見ていたけど、やがて微笑んだ。
「仕方ないな。許してやるか」
え、本当に?
そんなにすんなりと許すとは思ってなかったから、びっくりしてルーシェンの顔をまじまじと見ると、王子は急に真顔になった。
「そのかわり、シュウヘイの前に二度と現れるな」
低い声でルーシェンが告げると、ぶわりとためいきのような生暖かい風が吹いたような気がして、冷えていた手の感覚がゆっくり戻ってきた。
おそるおそるベッドに起き上がると、部屋の天井や壁をぐるりと見回した。見える範囲で背中や肩を見る。両手も。
白い腕は見えない。
「シュウヘイ?」
『……いません』
妖精さんがいない。消えてる。
ルーシェンの言葉のせいかな? それともキスした時から?
成仏できたんだろうか。
よく分からないけど、姿が見えなくなったことだけは事実だ。
『……幽霊、消えました』
「そうか」
『ありがとうございます! ルーシェンのおかげです』
「怖さも痛みもなくなったのか?」
『はい』
嘘みたいに身体が軽い。
嬉しくて飛びつくと、困ったように背中をポンポンと撫でられた。
***
「シュウヘイはよくユウレイとやらを見るのか?」
『姿はあまり見たことなかったです。気配を感じる事が多くて。あとは音とか』
「異世界人はみんなそうなのか」
『いえ、見えない人の方が多いです。話すと怖がられるし、あまり言えないんです』
「そうか」
『でもルーシェンは信じてくれましたよね。見えないのに。ありがとうございます』
結局あのあと妖精さんの姿を見ることはなかった。そのあとで入ったお風呂は、妖精さんが消えたとはいえやっぱり怖いので、ルーシェンにくっついてさっと入り、目を開けて髪を洗っていたら、魔法村を思い出すとルーシェンに笑われた。
そういえばあの時も、ルーシェンに見張りを頼んでいた気がする。今思えばとんでもないな。
お風呂から上がると、薬を飲めというルーシェンに素直に従って、器に入った青汁みたいな物を飲んで寝ることにした。
『私みたいなのがルーシェンと婚約して、みんなガッカリしているんじゃないでしょうか』
ベッドに入って他愛無い話をする。
腕を伸ばすと左手を撫でてくれた。まだ冷えているのかと心配してるらしい。
「そうか? 俺の周りではシュウヘイは人気者だぞ」
『周りって誰ですか?』
まさか王子様の婚約者を本人に向かって批判する部下なんていないだろ。
「フィオネやアークやロベルトに、シュウヘイの護衛をしているジョージもだ」
『ロベルトさんには嫌われてます』
そういうと、ルーシェンは笑い出した。
「いや、ロベルトはシュウヘイを気に入ってる。あいつは態度に出さないだけだ」
そうなのか? そう言われても腑に落ちないな。結婚を反対されていたような気がするし。
なんとか許すというキーワードをルーシェンから引き出そうと思って思いついたのがこれ。だけどルーシェンは乗ってこなかった。
「急にどうした。話していて大丈夫か? やはり薬を飲んだ方がいい」
(薬……!)
かわりに俺の中にいる侍女の幽霊が、ルーシェンの言葉に反応した。力を増したのか喉が急に苦しくなる。
(死にたくない……! 喉が苦しい! 王子様! 助けて……!)
「シュウヘイ!?」
これ多分、毒を飲んで自殺したっていう侍女の記憶だ。喉が痛い。喉というか肺というか、全身に痛みが回って、ヤバイ気がする。
多分架空の痛みのはずなんだけど、嘘だろっていうくらい実感がある。目の前がますます暗くなって、必死にルーシェンを抱きしめると、唇に何か触れた。
『……』
軽く触れたそれは、柔らかくて馴染み深くて……すごく落ち着く。
こっちの世界にも人工呼吸ってあるのかな。空気を分けて貰ってるのか?
いや、ただのキスだな。でも特別なやつだ。とても気持ち良くて幸せな気持ちになるあれ。
喉が楽になった。全身から痛みが取れて力が抜ける。
『ふ……っ……ん』
気持ちいい。気持ち良すぎて舌を入れると、応えてくれるかわりに唇が離れた。
目を開けると心配そうな表情のルーシェンと目があった。視界から暗さが消えてかなりクリアになってる。
「大丈夫か?」
フィオネさんが、侍女はルーシェンにも毒を盛ったって言ってたよな。ということは、あの苦しみをルーシェンも味わったのか。
今の俺みたいにキスして楽にしてもらえたわけでもなく、後遺症にも苦しめられたって言ってた。
きっと苦しかっただろうな。侍女を許せなくて当然だ。
『ルーシェン、侍女の幽霊が……謝ってます。ごめんなさいって、許してくださいって』
ルーシェンはしばらく無言で俺の顔を見ていたけど、やがて微笑んだ。
「仕方ないな。許してやるか」
え、本当に?
そんなにすんなりと許すとは思ってなかったから、びっくりしてルーシェンの顔をまじまじと見ると、王子は急に真顔になった。
「そのかわり、シュウヘイの前に二度と現れるな」
低い声でルーシェンが告げると、ぶわりとためいきのような生暖かい風が吹いたような気がして、冷えていた手の感覚がゆっくり戻ってきた。
おそるおそるベッドに起き上がると、部屋の天井や壁をぐるりと見回した。見える範囲で背中や肩を見る。両手も。
白い腕は見えない。
「シュウヘイ?」
『……いません』
妖精さんがいない。消えてる。
ルーシェンの言葉のせいかな? それともキスした時から?
成仏できたんだろうか。
よく分からないけど、姿が見えなくなったことだけは事実だ。
『……幽霊、消えました』
「そうか」
『ありがとうございます! ルーシェンのおかげです』
「怖さも痛みもなくなったのか?」
『はい』
嘘みたいに身体が軽い。
嬉しくて飛びつくと、困ったように背中をポンポンと撫でられた。
***
「シュウヘイはよくユウレイとやらを見るのか?」
『姿はあまり見たことなかったです。気配を感じる事が多くて。あとは音とか』
「異世界人はみんなそうなのか」
『いえ、見えない人の方が多いです。話すと怖がられるし、あまり言えないんです』
「そうか」
『でもルーシェンは信じてくれましたよね。見えないのに。ありがとうございます』
結局あのあと妖精さんの姿を見ることはなかった。そのあとで入ったお風呂は、妖精さんが消えたとはいえやっぱり怖いので、ルーシェンにくっついてさっと入り、目を開けて髪を洗っていたら、魔法村を思い出すとルーシェンに笑われた。
そういえばあの時も、ルーシェンに見張りを頼んでいた気がする。今思えばとんでもないな。
お風呂から上がると、薬を飲めというルーシェンに素直に従って、器に入った青汁みたいな物を飲んで寝ることにした。
『私みたいなのがルーシェンと婚約して、みんなガッカリしているんじゃないでしょうか』
ベッドに入って他愛無い話をする。
腕を伸ばすと左手を撫でてくれた。まだ冷えているのかと心配してるらしい。
「そうか? 俺の周りではシュウヘイは人気者だぞ」
『周りって誰ですか?』
まさか王子様の婚約者を本人に向かって批判する部下なんていないだろ。
「フィオネやアークやロベルトに、シュウヘイの護衛をしているジョージもだ」
『ロベルトさんには嫌われてます』
そういうと、ルーシェンは笑い出した。
「いや、ロベルトはシュウヘイを気に入ってる。あいつは態度に出さないだけだ」
そうなのか? そう言われても腑に落ちないな。結婚を反対されていたような気がするし。
6
お気に入りに追加
560
あなたにおすすめの小説
王道学園なのに、王道じゃない!!
主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。
レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
その男、有能につき……
大和撫子
BL
俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか?
「君、どうかしたのかい?」
その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。
黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。
彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。
だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。
大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?
更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる