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王妃様に弟子入り(婚約旅行編)

6 まさか、俺の話じゃないよな

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 ルーシェンを待っているつもりだったのに、ベッドに入ったらすぐに眠ってしまったらしい。
 らしいというのは、ベッドに入ってからの記憶がないからだ。次に起きたのは夜中で、突然何かの重圧を感じたせいだ。

 うわ……!

 何がおきたのかと思ってベッドの上に飛び起きたら、真上にシロがいた。
 やけにハッキリと見える。それもルーシェンが寝室に張り巡らせている魔法のすぐ上を、まるでトランポリンの上で跳ねるように飛行して遊んでいる。

 何だ……シロか。びっくりした。

 隣を見てもルーシェンはいなかった。
 まだ仕事をしているんだろうか。今日は早く帰るって言ってたのにな。
 下の階に降りていって水とか夜食をもらおうか悩む。身分が低ければ何てことのない行動だけど、今の立場でそれをやると侍女達が大騒ぎする。誰かは必ず起きているけど、眠れる立場の侍女達まで起こすのは申し訳ないような気がするし、我慢しようか考えていたら下の方で声がした。

 ルーシェンだ。多分帰ってきたんだな。

 裸はまずいから脱いだ服を着て、びっくりさせてやろうとこっそり寝室を抜け出す。ついでに夜食ももらおう。
 階段の陰に隠れて下を見ると、ルーシェンとフィオネさんが話をしている所だった。

 ルーシェンはお風呂からあがった後みたいで、髪が少し濡れている。フィオネさんが渡す寝間着と呼ぶには高級すぎる青い衣装に着替えていたけど、格好良すぎて見とれてしまうな。いまだに王子と婚約してるなんて信じられない。

 ニヤニヤしながら何て声をかけようか悩んでいると、二人の会話が聞こえてきた。

「……ミサキ様はすでにおやすみになられております」
「そうか。何か変わったことはないか」
「ここ数日は、安静に過ごされております」

 風邪引いてる訳でもないのに、二人とも心配性だなぁ。

「治療師の話では、出来るだけ早いうちに薬を飲ませた方が良いとのこと」
「……そうか」

 ん?薬?
 薬ってなんの話だ?

「魔法治療ではやはり心臓への負荷がかかるようです。発作を起こす可能性も低くはありません。薬が一番良いのですが今はどこの国も、有能な薬師ですら取り扱ってはいないようです」
「だろうな。素材が貴重すぎる」

 ルーシェンは重いため息をついた。
 嫌な予感がする。まさか俺の事を話してるんじゃないよな。

「ですが、王子ならきっと手に入れられると信じております。各地を巡る行程も素材集めを見越して組んでおりますから」
「さすがフィオネだな」
「あまり安静にさせておくと、いつか、ミサキ様が飛び出していくのではないかと心配なのです。あの方は王子より無鉄砲ですから」

 俺は黙って寝室に戻り、ベッドにもぐり込んだ。
 今の話、やっぱり俺の話だろうか。
 心臓?
 発作?
 服の隙間から手を入れて、心臓のあたりを撫でる。そこにはファンクラブ男の変態親父に魔法攻撃を受けた胸の傷跡がある。
 でも、今は何ともないのに。痛くもないし、心臓が止まりそうになったこともない。だからきっと俺のことじゃないと思いたいのに。

 暗い中ぐるぐると考えていると、ルーシェンの足音が聞こえてきて、俺は思わず息を潜めて寝たふりをした。

「シュウヘイ……」

 ルーシェンがベッドに膝を付いて、俺の髪を撫でる。目を閉じたままされるがままになっていると、ふわりと柔らかいルーシェンの魔法の力に包まれた。隣に横になって体重がかからないように俺を抱きしめてくれる。
 体重をかけてもいいのに。体温と重さを感じるのも好きなんだから。それから唇にキスされたから、もう寝たフリが出来なくなって、ルーシェンの深い口づけを受け入れる。

「……すまない。起こしてしまったな」
『帰ってくるの、遅いです』
「シュウヘイにはいつも怒られてばかりだ」
『あまり忙しいと身体を壊します』
「そうだな。気をつけるよ」

 ルーシェンはもう一度俺にキスをすると、俺の心臓の傷跡を撫でた。

「シュウヘイ、ずっと俺のそばにいてくれ」
『……もちろん、ずっといます』
「そうか……良かった。おやすみ、シュウヘイ」

 すぐに隣で規則正しい寝息を立て始めたルーシェンを見つめながら、もしかして、ルーシェンがここ最近ろくに帰ってこなくて、あまりイチャイチャしていないのは俺の身体を心配してわざとそうしているんだろうか、とそんなことを考えた。
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