71 / 209
波乱含みの婚約式
11 逃してたまるか
しおりを挟む
婚約式の式場は広い庭園に隣接した場所にあった。半分外みたいな、光の溢れる温室みたいな場所。
俺は勝手に教会をイメージしていたけど、異世界だし宗教が違うから装飾も全然違っていた。でも、厳かな空気は一緒だ。
扉の前にいた兵士は、ロベルトさんを見て黙って扉の前から退いた。
「……」
そっと潜り込んだ式場は、小さなコンサートホールのようだった。手前にずらりと並ぶ国賓達。みんなドレス姿や兵士風スタイルや民族衣装みたいな格好と様々だ。
俺は飛行部隊のマントのフードを被り、ロベルトさんの背後に隠れつつ、ホールの奥を見た。
ガラス張りになった壁の手前に、少し高い台座があって、ルーシェンとファンクラブの男が、デザインは違うけれど似たような白と青の衣装を着て向かい合って立っていた。
無表情でファンクラブ男に指輪をはめるルーシェン。それに応えてはにかんだ笑顔を見せる金髪の男。
皆は気づいていないのかもしれないが、俺の目にははっきりと見えた。
ファンクラブの男の足下から伸びる黒い縄のような物、それがルーシェンの両手と首に纏わり付いている。
頭の中で何かがブチッと切れたような気がした。
「ミサキ殿……!」
ロベルトさんが小声で俺を制止する。
おそらく守ろうとしたんだろう。だけど俺は盾にしろと言われた事を忘れ、ロベルトさんを振りきると、ホール奥までの短距離を全力で走った。
騒げば邪魔が入りそうだから、ぎりぎりまで叫ぶのを我慢する。
俺が中央の台座に飛び上がった時、ようやく俺の存在に気づいた国賓達が騒ぎ始めた。
直前に見たのは、ルーシェンとファンクラブ男の驚いた顔。
「お前!!!ふっざけんなよーーー!!!」
俺はでかい声で叫びながら、ファンクラブ男に拳を振り下ろした。
殴る瞬間までは普通だった。
誰かの頬を拳で殴りつけたのは初めてだったから、痛いだろうとは思ったけど、でもそれだけじゃなかった。
手の甲から稲妻のような光が現れ、ファンクラブの男を襲う。不意を突かれた男が電流のような魔法を浴びて吹っ飛ぶのがスローモーションのように見えた。
式場のガラス張りの壁が一瞬で砕け、派手な音を立てて外に飛び散る。
男は隣の庭園まで飛ばされ、石の床の上に転がった。男の足下から出ていたの黒い縄のような魔法はルーシェンから離れたけど、そのままザワザワと蠢く。あれを消滅させないとまずい。魔法なんかで、人の心を支配されてたまるか。
庭園の外に追いかけていって、まだ手の甲に残っていた稲妻を黒い縄に浴びせると、黒い魔法はようやく消えた。
倒れていた男は、酷い魔法を受けてもそれほどダメージはなさそうに見えた。しかもじわじわ回復している。さすが魔法使いだ。
「何で……貴様が……」
「俺の恋人に変な魔法かけるな!お前の考え方、気持ち悪いんだよ!」
庭園には誰もおらず、先端は空中に突き出ていた。男は座ったまま俺の後方を見る。そして乾いた笑いを浮かべた。
「ははっ……失敗か。保険がないと僕の実力じゃ、厳しいな」
そのままじりじりと後ずさる。
庭園の先端に立つと、笑顔のまま両手を上げた。
来る……!と思った瞬間、ファンクラブ男が口から恨みごとのような呪文を吐いた。咄嗟に両手で顔をガードする。
男が放った爆発のような攻撃魔法は、俺に何一つ傷を付ける事無く手の甲に吸い込まれていく。
「くそっ、道連れにしてやりたかったのに……」
爆風が消えた後、男は後ろに倒れるように空へと姿を消した。
自殺!?それとも逃走か!?
とにかく逃がしてたまるか。
「シローーー!!!」
空に向かって絶叫すると、ごうっという風の音と共に、白い龍が竜巻のように現れた。
下から上へ、飛び降りたはずのファンクラブ男を風と一緒に巻き上げる。まるで木の葉のようにくるくると、男が空を舞うのが見えた。
うわぁ……呼んだの俺だけど、シロ……ファンクラブの男を口に咥えて遊んでるよ。ちょっとだけ同情するな。俺なら絶対に嫌だ。
空を見上げていると、隣に誰かが立った。顔を向けるより先に抱きしめられる。
「シュウヘイ……」
ルーシェンが震える声でそう言うと、ぎゅっと俺の肩に頭を押し付ける。首にも、両手にも黒い魔法はない。よかった。
『ルーシェン、遅くなってすみません』
俺は王太子妃失格だ。
婚約式にも遅れ、厳かな式を台無しにして、国賓達の前でルーシェンや王様、王妃様に恥をかかせたかもしれない。
だけど抱きしめてくれるルーシェンが愛しくて、そのまま首に腕を回すと、顔をあげたルーシェンを引き寄せてキスをした。
俺は勝手に教会をイメージしていたけど、異世界だし宗教が違うから装飾も全然違っていた。でも、厳かな空気は一緒だ。
扉の前にいた兵士は、ロベルトさんを見て黙って扉の前から退いた。
「……」
そっと潜り込んだ式場は、小さなコンサートホールのようだった。手前にずらりと並ぶ国賓達。みんなドレス姿や兵士風スタイルや民族衣装みたいな格好と様々だ。
俺は飛行部隊のマントのフードを被り、ロベルトさんの背後に隠れつつ、ホールの奥を見た。
ガラス張りになった壁の手前に、少し高い台座があって、ルーシェンとファンクラブの男が、デザインは違うけれど似たような白と青の衣装を着て向かい合って立っていた。
無表情でファンクラブ男に指輪をはめるルーシェン。それに応えてはにかんだ笑顔を見せる金髪の男。
皆は気づいていないのかもしれないが、俺の目にははっきりと見えた。
ファンクラブの男の足下から伸びる黒い縄のような物、それがルーシェンの両手と首に纏わり付いている。
頭の中で何かがブチッと切れたような気がした。
「ミサキ殿……!」
ロベルトさんが小声で俺を制止する。
おそらく守ろうとしたんだろう。だけど俺は盾にしろと言われた事を忘れ、ロベルトさんを振りきると、ホール奥までの短距離を全力で走った。
騒げば邪魔が入りそうだから、ぎりぎりまで叫ぶのを我慢する。
俺が中央の台座に飛び上がった時、ようやく俺の存在に気づいた国賓達が騒ぎ始めた。
直前に見たのは、ルーシェンとファンクラブ男の驚いた顔。
「お前!!!ふっざけんなよーーー!!!」
俺はでかい声で叫びながら、ファンクラブ男に拳を振り下ろした。
殴る瞬間までは普通だった。
誰かの頬を拳で殴りつけたのは初めてだったから、痛いだろうとは思ったけど、でもそれだけじゃなかった。
手の甲から稲妻のような光が現れ、ファンクラブの男を襲う。不意を突かれた男が電流のような魔法を浴びて吹っ飛ぶのがスローモーションのように見えた。
式場のガラス張りの壁が一瞬で砕け、派手な音を立てて外に飛び散る。
男は隣の庭園まで飛ばされ、石の床の上に転がった。男の足下から出ていたの黒い縄のような魔法はルーシェンから離れたけど、そのままザワザワと蠢く。あれを消滅させないとまずい。魔法なんかで、人の心を支配されてたまるか。
庭園の外に追いかけていって、まだ手の甲に残っていた稲妻を黒い縄に浴びせると、黒い魔法はようやく消えた。
倒れていた男は、酷い魔法を受けてもそれほどダメージはなさそうに見えた。しかもじわじわ回復している。さすが魔法使いだ。
「何で……貴様が……」
「俺の恋人に変な魔法かけるな!お前の考え方、気持ち悪いんだよ!」
庭園には誰もおらず、先端は空中に突き出ていた。男は座ったまま俺の後方を見る。そして乾いた笑いを浮かべた。
「ははっ……失敗か。保険がないと僕の実力じゃ、厳しいな」
そのままじりじりと後ずさる。
庭園の先端に立つと、笑顔のまま両手を上げた。
来る……!と思った瞬間、ファンクラブ男が口から恨みごとのような呪文を吐いた。咄嗟に両手で顔をガードする。
男が放った爆発のような攻撃魔法は、俺に何一つ傷を付ける事無く手の甲に吸い込まれていく。
「くそっ、道連れにしてやりたかったのに……」
爆風が消えた後、男は後ろに倒れるように空へと姿を消した。
自殺!?それとも逃走か!?
とにかく逃がしてたまるか。
「シローーー!!!」
空に向かって絶叫すると、ごうっという風の音と共に、白い龍が竜巻のように現れた。
下から上へ、飛び降りたはずのファンクラブ男を風と一緒に巻き上げる。まるで木の葉のようにくるくると、男が空を舞うのが見えた。
うわぁ……呼んだの俺だけど、シロ……ファンクラブの男を口に咥えて遊んでるよ。ちょっとだけ同情するな。俺なら絶対に嫌だ。
空を見上げていると、隣に誰かが立った。顔を向けるより先に抱きしめられる。
「シュウヘイ……」
ルーシェンが震える声でそう言うと、ぎゅっと俺の肩に頭を押し付ける。首にも、両手にも黒い魔法はない。よかった。
『ルーシェン、遅くなってすみません』
俺は王太子妃失格だ。
婚約式にも遅れ、厳かな式を台無しにして、国賓達の前でルーシェンや王様、王妃様に恥をかかせたかもしれない。
だけど抱きしめてくれるルーシェンが愛しくて、そのまま首に腕を回すと、顔をあげたルーシェンを引き寄せてキスをした。
10
お気に入りに追加
560
あなたにおすすめの小説
【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
本編完結しました!
おまけをちょこちょこ更新しています。
第12回BL大賞奨励賞、読んでくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
その男、有能につき……
大和撫子
BL
俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか?
「君、どうかしたのかい?」
その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。
黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。
彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。
だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。
大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?
更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!
ちびドラゴンは王子様に恋をする
カム
BL
異世界でチート能力が欲しい。ついでに恋人も。そんなお願いをしたら、ドラゴンに生まれ変わりました。
卵から孵してくれた王子様に恋をして、いろいろ頑張るちびドラゴンの話。(途中から人型になります)
第三王子×ドラゴン
溺愛になる予定…です。
キスから始まる主従契約
毒島らいおん
BL
異世界に召喚された挙げ句に、間違いだったと言われて見捨てられた葵。そんな葵を助けてくれたのは、美貌の公爵ローレルだった。
ローレルの優しげな雰囲気に葵は惹かれる。しかも向こうからキスをしてきて葵は有頂天になるが、それは魔法で主従契約を結ぶためだった。
しかも週に1回キスをしないと死んでしまう、とんでもないもので――。
◯
それでもなんとか彼に好かれようとがんばる葵と、実は腹黒いうえに秘密を抱えているローレルが、過去やら危機やらを乗り越えて、最後には最高の伴侶なるお話。
(全48話・毎日12時に更新)
笑わない風紀委員長
馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。
が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。
そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め──
※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。
※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。
※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。
※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる