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認定式
11 今だけでいいから
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(こっ、ここここ、婚約!?)
という俺の叫びは、華麗にスルーされた。聞こえてないのだから仕方ない。
(何言ってんだよ、ロベルトさん)
明るくツッコミを入れてみたけど場の空気は全然変わらず、強面のロベルトさんが戦闘中より緊張しているのが分かった。
「シュウヘイが恋人では不満か」
ヒィィ……。
俺でも緊張するわ!この冷たい声、ルーシェンの機嫌がすごく悪くなったのが幽体離脱中の俺にも分かる。でもロベルトさんは怯まなかった。
「彼は異世界人です。こちらの世界の常識も文化も、何も分かっていない。魔力もない。きっと反対する者も大勢いるでしょう。婚約しても苦労するだけです。王子だけでなく、彼も」
うう……。
ものすごくまともな意見だ。俺もそう思う。
「王子はいずれこの国の王となる身、婚約者は王妃となります。彼には荷が重すぎる。婚約は別の者とした方がよろしいかと思います」
ルーシェンはふっとため息をついて、ロベルトさんを見上げた。
「ではお前に王位継承権を譲ろう」
(は!?)
思わず声が出た。ロベルトさんもポカンとしている。
「お前が王になって、ふさわしいと思う王妃を迎えればいい。それなら不満はないだろう」
「王子!そういう事では……」
「おまえには悪いが、俺はシュウヘイ以外の誰とも婚約するつもりはない。仕えられないと判断したら、飛行部隊を離れてくれて構わない」
ルーシェンはロベルトさんの返事を待たず、テントに入ろうとした。
オロオロしていると、ロベルトさんがいきなり地面に膝をついて頭を下げた。
「……出過ぎた事を申し上げました。お許しください。私の主君は一生、王子ただひとりです」
ルーシェンは、それには答えずに「お前も早く休め」と言っただけで、テントに入って行った。
(ロベルトさん……。なんかごめん。俺のせいで)
しばらく膝をついているロベルトさんのまわりを漂って慰める。俺の言葉は当然聞こえてないみたいだから、去って行くロベルトさんを黙って見送った。
なんだか、俺にはよく分からない世界だ。忠誠心っていうのかな。そんなに凹まなくてもいいのに。誰が見たって俺みたいな王妃嫌だろうし。
異世界人だし、一般庶民で何の取り柄もなくて、しかも男で、馬鹿だし顔もいいわけじゃないし。
……自分で考えて悲しくなってきた。
***
中に入るとルーシェンがジャケットを脱いでいて、悲しい気分が吹っ飛んだ。
(ルーシェン!)
周辺を飛び回る。姿が見えたら怖いかもしれないけど、見えてないからいいか。
(会いたかった……!)
ベタベタしても気付かれないのがちょっと悲しい。
ルーシェンは無言で汚れた上着を机に放り投げ、使っていた剣を再び抜いて汚れを拭き取った。
プライベートなルーシェンを見ているのは変な気分だ。誰も見ていなくても格好いいな。一人でいるときに独り言いったり、踊ったり、だらけたり、お腹をボリボリ掻いたりしないもんな。王族すげぇ。
剣の手入れを終えると、ルーシェンは簡易ベッドに横になった。きっと疲れたんだろう。
「シュウヘイ」
(はい!?)
名前を呼ばれて飛び上がるほど驚いた。
(見えるんですか?)
「……」
あれ?見えてない?
だよな。
ルーシェンは懐から何か取り出して眺めた。
(あ……)
それは見覚えのある物、俺が高校の時に買った二つ折りの財布。
一年前、ルーシェンと別れる時に何気なく渡した財布だ。まだ持っていてくれたのか。
「早く会いたい……」
そう言うと、ルーシェンは財布にそっとキスをした。
……やばい。
胸が苦しい。
ルーシェンが好きすぎる。
(俺も……話したいし、触れたいよ)
近づいてルーシェンの横に並んでみるけど、光が邪魔をしてうまく触れられない。
ロベルトさんごめん。
俺にはどんなに荷が重くても、ルーシェンが俺と婚約したいと言ってくれることが嬉しい。今だけでいいから、夢を見させて欲しいんだ。
ぎゅっとルーシェンにくっついていたら、そのうち王子の寝息が聞こえてきた。
俺もそれにつられて意識が重く、視界が暗くなってくるのを感じた。
という俺の叫びは、華麗にスルーされた。聞こえてないのだから仕方ない。
(何言ってんだよ、ロベルトさん)
明るくツッコミを入れてみたけど場の空気は全然変わらず、強面のロベルトさんが戦闘中より緊張しているのが分かった。
「シュウヘイが恋人では不満か」
ヒィィ……。
俺でも緊張するわ!この冷たい声、ルーシェンの機嫌がすごく悪くなったのが幽体離脱中の俺にも分かる。でもロベルトさんは怯まなかった。
「彼は異世界人です。こちらの世界の常識も文化も、何も分かっていない。魔力もない。きっと反対する者も大勢いるでしょう。婚約しても苦労するだけです。王子だけでなく、彼も」
うう……。
ものすごくまともな意見だ。俺もそう思う。
「王子はいずれこの国の王となる身、婚約者は王妃となります。彼には荷が重すぎる。婚約は別の者とした方がよろしいかと思います」
ルーシェンはふっとため息をついて、ロベルトさんを見上げた。
「ではお前に王位継承権を譲ろう」
(は!?)
思わず声が出た。ロベルトさんもポカンとしている。
「お前が王になって、ふさわしいと思う王妃を迎えればいい。それなら不満はないだろう」
「王子!そういう事では……」
「おまえには悪いが、俺はシュウヘイ以外の誰とも婚約するつもりはない。仕えられないと判断したら、飛行部隊を離れてくれて構わない」
ルーシェンはロベルトさんの返事を待たず、テントに入ろうとした。
オロオロしていると、ロベルトさんがいきなり地面に膝をついて頭を下げた。
「……出過ぎた事を申し上げました。お許しください。私の主君は一生、王子ただひとりです」
ルーシェンは、それには答えずに「お前も早く休め」と言っただけで、テントに入って行った。
(ロベルトさん……。なんかごめん。俺のせいで)
しばらく膝をついているロベルトさんのまわりを漂って慰める。俺の言葉は当然聞こえてないみたいだから、去って行くロベルトさんを黙って見送った。
なんだか、俺にはよく分からない世界だ。忠誠心っていうのかな。そんなに凹まなくてもいいのに。誰が見たって俺みたいな王妃嫌だろうし。
異世界人だし、一般庶民で何の取り柄もなくて、しかも男で、馬鹿だし顔もいいわけじゃないし。
……自分で考えて悲しくなってきた。
***
中に入るとルーシェンがジャケットを脱いでいて、悲しい気分が吹っ飛んだ。
(ルーシェン!)
周辺を飛び回る。姿が見えたら怖いかもしれないけど、見えてないからいいか。
(会いたかった……!)
ベタベタしても気付かれないのがちょっと悲しい。
ルーシェンは無言で汚れた上着を机に放り投げ、使っていた剣を再び抜いて汚れを拭き取った。
プライベートなルーシェンを見ているのは変な気分だ。誰も見ていなくても格好いいな。一人でいるときに独り言いったり、踊ったり、だらけたり、お腹をボリボリ掻いたりしないもんな。王族すげぇ。
剣の手入れを終えると、ルーシェンは簡易ベッドに横になった。きっと疲れたんだろう。
「シュウヘイ」
(はい!?)
名前を呼ばれて飛び上がるほど驚いた。
(見えるんですか?)
「……」
あれ?見えてない?
だよな。
ルーシェンは懐から何か取り出して眺めた。
(あ……)
それは見覚えのある物、俺が高校の時に買った二つ折りの財布。
一年前、ルーシェンと別れる時に何気なく渡した財布だ。まだ持っていてくれたのか。
「早く会いたい……」
そう言うと、ルーシェンは財布にそっとキスをした。
……やばい。
胸が苦しい。
ルーシェンが好きすぎる。
(俺も……話したいし、触れたいよ)
近づいてルーシェンの横に並んでみるけど、光が邪魔をしてうまく触れられない。
ロベルトさんごめん。
俺にはどんなに荷が重くても、ルーシェンが俺と婚約したいと言ってくれることが嬉しい。今だけでいいから、夢を見させて欲しいんだ。
ぎゅっとルーシェンにくっついていたら、そのうち王子の寝息が聞こえてきた。
俺もそれにつられて意識が重く、視界が暗くなってくるのを感じた。
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