上 下
41 / 209
認定式

11 今だけでいいから

しおりを挟む
(こっ、ここここ、婚約!?)

 という俺の叫びは、華麗にスルーされた。聞こえてないのだから仕方ない。

(何言ってんだよ、ロベルトさん)

 明るくツッコミを入れてみたけど場の空気は全然変わらず、強面のロベルトさんが戦闘中より緊張しているのが分かった。

「シュウヘイが恋人では不満か」

 ヒィィ……。
 俺でも緊張するわ!この冷たい声、ルーシェンの機嫌がすごく悪くなったのが幽体離脱中の俺にも分かる。でもロベルトさんは怯まなかった。

「彼は異世界人です。こちらの世界の常識も文化も、何も分かっていない。魔力もない。きっと反対する者も大勢いるでしょう。婚約しても苦労するだけです。王子だけでなく、彼も」

 うう……。
 ものすごくまともな意見だ。俺もそう思う。

「王子はいずれこの国の王となる身、婚約者は王妃となります。彼には荷が重すぎる。婚約は別の者とした方がよろしいかと思います」

 ルーシェンはふっとため息をついて、ロベルトさんを見上げた。

「ではお前に王位継承権を譲ろう」

(は!?)

 思わず声が出た。ロベルトさんもポカンとしている。

「お前が王になって、ふさわしいと思う王妃を迎えればいい。それなら不満はないだろう」

「王子!そういう事では……」

「おまえには悪いが、俺はシュウヘイ以外の誰とも婚約するつもりはない。仕えられないと判断したら、飛行部隊を離れてくれて構わない」

 ルーシェンはロベルトさんの返事を待たず、テントに入ろうとした。
 オロオロしていると、ロベルトさんがいきなり地面に膝をついて頭を下げた。

「……出過ぎた事を申し上げました。お許しください。私の主君は一生、王子ただひとりです」

 ルーシェンは、それには答えずに「お前も早く休め」と言っただけで、テントに入って行った。

(ロベルトさん……。なんかごめん。俺のせいで)

 しばらく膝をついているロベルトさんのまわりを漂って慰める。俺の言葉は当然聞こえてないみたいだから、去って行くロベルトさんを黙って見送った。
 なんだか、俺にはよく分からない世界だ。忠誠心っていうのかな。そんなに凹まなくてもいいのに。誰が見たって俺みたいな王妃嫌だろうし。
 異世界人だし、一般庶民で何の取り柄もなくて、しかも男で、馬鹿だし顔もいいわけじゃないし。
 ……自分で考えて悲しくなってきた。


***

 中に入るとルーシェンがジャケットを脱いでいて、悲しい気分が吹っ飛んだ。

(ルーシェン!)

 周辺を飛び回る。姿が見えたら怖いかもしれないけど、見えてないからいいか。

(会いたかった……!)

 ベタベタしても気付かれないのがちょっと悲しい。

 ルーシェンは無言で汚れた上着を机に放り投げ、使っていた剣を再び抜いて汚れを拭き取った。
 プライベートなルーシェンを見ているのは変な気分だ。誰も見ていなくても格好いいな。一人でいるときに独り言いったり、踊ったり、だらけたり、お腹をボリボリ掻いたりしないもんな。王族すげぇ。

 剣の手入れを終えると、ルーシェンは簡易ベッドに横になった。きっと疲れたんだろう。

「シュウヘイ」
(はい!?)

 名前を呼ばれて飛び上がるほど驚いた。

(見えるんですか?)

「……」

 あれ?見えてない?
 だよな。

 ルーシェンは懐から何か取り出して眺めた。

(あ……)

 それは見覚えのある物、俺が高校の時に買った二つ折りの財布。
 一年前、ルーシェンと別れる時に何気なく渡した財布だ。まだ持っていてくれたのか。

「早く会いたい……」

 そう言うと、ルーシェンは財布にそっとキスをした。

 ……やばい。
 胸が苦しい。
 ルーシェンが好きすぎる。

(俺も……話したいし、触れたいよ)

 近づいてルーシェンの横に並んでみるけど、光が邪魔をしてうまく触れられない。

 ロベルトさんごめん。
 俺にはどんなに荷が重くても、ルーシェンが俺と婚約したいと言ってくれることが嬉しい。今だけでいいから、夢を見させて欲しいんだ。

 ぎゅっとルーシェンにくっついていたら、そのうち王子の寝息が聞こえてきた。
 俺もそれにつられて意識が重く、視界が暗くなってくるのを感じた。
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

処理中です...