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一年ぶりの異世界
12 こんな気持ちはおかしい
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窓の外が少し明るくなってきた。
異世界の夜明けだ。
結局俺は、一睡も出来なかった。
ルーシェンが拷問のような焦らしプレイで、触る以上の事をして来なかったから、身体も頭も興奮して眠れない。起こしてはいけないと思って身動きも取れなかった。
でもそろそろ夜明けだし、活動してもいいだろ。
俺はそっとルーシェンの腕をほどいて、ベッドに起き上がった。
とりあえずトイレ行こう。
トイレは風呂の隣にあったけど、無駄に広かった。しかも使い方の分からない液体や固体が、瓶に入って並べられている。石鹸かな。それにしては多いような。
とりあえずトイレで身体を落ち着かせてから、ヌルヌルする石鹸をつけて手を洗い部屋に戻る。ルーシェンはよく眠っているから、庭でも散歩しようかな。
少し考えてから、やっぱりベッドに戻る事にした。庭はいつでも散歩できるけど、ルーシェンには次いつ会えるか分からない。
ベッドに潜りこもうとしたら、枕を抱えてうつ伏せに寝ていたルーシェンがこっちを向いた。黒髪が肩にかかって無駄にセクシーだな。
「……シュウヘイ、どこに行っていた」
青い目で見つめられて、ちょっとドキドキする。
『トイレです。おはようございます』
「……朝か?」
『もう朝です。王子はよく寝てました』
俺は全然眠れなかったけど。
「そうか……こんなに熟睡したのは久しぶりだ」
寝起きでぼんやりしていても、イケメンはイケメンだな。
『会議あるんですよね?起きて部屋に戻りますか?』
「大丈夫だ。帰国したばかりだからゆっくりしてこいと部下には伝えてある。少しくらい遅くなっても問題ない」
得意気にそう言うと、ベッドに手招きされる。部屋が明るいとちょっと恥ずかしいんだけど。
そう思って躊躇していると、腕を取られてベッドに引きずり込まれた。
『自分にも一応仕事が……』
「遅れたら王子のせいだと言っておけ」
『一般人の家に泊まった事がバレてもいいんですか?……その、いろいろな所に』
俺の言葉に、ルーシェンはちょっとムッとしたみたいだった。
「シュウヘイは俺が相手では不服か?」
え?何でそんな空気になるんだ?
『そんな事ありません』
「だったら何をそんなに嫌がっている。他に好きな奴でもいるのか?」
『好きな人はいません。そっちこそ、婚約者がいるくせに……』
しまった。言うつもりなかったのに。
「婚約者?」
『ファンクラブのお姉さん達がそう言ってました。いないんですか……?』
ルーシェンは少し考える素振りを見せた。
もしかしたらただの噂なのかも。出来ればそうであってほしい。
「……そういえば、パーティーで隣国の王からやたらと娘をよろしくと言われたな」
『何て返事したんですか?』
「婚約したつもりはないが、出来る事があれば力になるとは言ったな」
『何でそんな事いうんですか』
「相手は王族だ。無下には出来ないだろう」
ルーシェンの言う事は正しい。
でも、すごく苛ついた。
ルーシェンはストーカーアルマの恋心にさえ気づかなかった鈍感野郎だ。顔がいいくせに無自覚で、しかも口が上手い。隣国のお姫様にも喜ばせるような事を言って、相手はもう完全に恋人気分になってるんじゃないのか。
……そこまで考えてハッとした。
俺の方が、すっかりその気になってる遊び相手なんじゃないか?
覚えていてくれた事が嬉しくて、守りの指輪までもらったから、なんだか自分だけ特別な存在になったような気がしていた。
でも俺はただの異世界人。しかも何の特技もない一般人の男だ。王族のルーシェンからすれば、隣国のお姫様と俺とどちらを大切にすればいいかなんて一目瞭然だ。
「シュウヘイ?」
『婚約者がいるのに、一般人の部屋に泊まりに行ってもいいんですか?それとも国も違うからバレなきゃいいんですか?その前に異世界人で男だから問題ないとか』
「シュウヘイ、何を勘違いしているのか知らないが、隣国の姫はまだ九歳の子供だ」
え?九歳?
『……でも、あと五年くらいしたらルーシェンと釣り合う年になるじゃないですか。ああ、だからそれまで他の相手と遊ぶんですね』
遊ぶも何も、俺はずっと友達気分でいたんだ。王子が欲求不満だったから、それに付き合わされただけだって。
こっちの世界の人達は、同性同士でのそういう行為に寛大だから、友情の延長線上だと思っていた。だから本当は婚約者がいたって平気なはずなんだ。割り切ってルーシェンの幸せを願えると思っていた。さっきまでは。
眠っているルーシェンにキスした時、変だと思った。まるで王子の事が友達以上に好きみたいだ。遊ばれていると考えるだけで、心の中がぐちゃぐちゃして、悔しいような悲しいような暗い感情でいっぱいになる。こんな気持ちはおかしい。気づきたくなかった。
「……シュウヘイ、それは本気で言っているのか」
王子の顔がまともに見られない。でも声で分かる。かなり怒らせている。これじゃ魔法村の時と同じだ。
『私は異世界人の普通の男です……王子の相手には相応しくないです』
しばらく沈黙が続いた後、ルーシェンが動いたので殴られるんじゃないかとビクッとする。でも王子はベッドから出て服を着はじめただけだった。
遊び相手とか言っても、結局何もされてないよな、俺。
もう魔法村の時みたいに相手を選べない状況じゃないから、別に俺じゃなくてもいいのか……。もっと可愛くて、嫌味なんて言わない相手がいくらでもいるんだ。
「シュウヘイ」
顔を上げると、着替え終わったルーシェンがじっと俺を見ていた。王子は俺の左手にはまっている指輪に少しだけ触れる。
「どう言えばお前に伝わるんだ」
その表情が苦しげで、俺は怒らせた事を後悔した。
『ルーシェン……』
「会議に行く。邪魔したな」
そう言ってルーシェンはベランダから出て行った。
異世界の夜明けだ。
結局俺は、一睡も出来なかった。
ルーシェンが拷問のような焦らしプレイで、触る以上の事をして来なかったから、身体も頭も興奮して眠れない。起こしてはいけないと思って身動きも取れなかった。
でもそろそろ夜明けだし、活動してもいいだろ。
俺はそっとルーシェンの腕をほどいて、ベッドに起き上がった。
とりあえずトイレ行こう。
トイレは風呂の隣にあったけど、無駄に広かった。しかも使い方の分からない液体や固体が、瓶に入って並べられている。石鹸かな。それにしては多いような。
とりあえずトイレで身体を落ち着かせてから、ヌルヌルする石鹸をつけて手を洗い部屋に戻る。ルーシェンはよく眠っているから、庭でも散歩しようかな。
少し考えてから、やっぱりベッドに戻る事にした。庭はいつでも散歩できるけど、ルーシェンには次いつ会えるか分からない。
ベッドに潜りこもうとしたら、枕を抱えてうつ伏せに寝ていたルーシェンがこっちを向いた。黒髪が肩にかかって無駄にセクシーだな。
「……シュウヘイ、どこに行っていた」
青い目で見つめられて、ちょっとドキドキする。
『トイレです。おはようございます』
「……朝か?」
『もう朝です。王子はよく寝てました』
俺は全然眠れなかったけど。
「そうか……こんなに熟睡したのは久しぶりだ」
寝起きでぼんやりしていても、イケメンはイケメンだな。
『会議あるんですよね?起きて部屋に戻りますか?』
「大丈夫だ。帰国したばかりだからゆっくりしてこいと部下には伝えてある。少しくらい遅くなっても問題ない」
得意気にそう言うと、ベッドに手招きされる。部屋が明るいとちょっと恥ずかしいんだけど。
そう思って躊躇していると、腕を取られてベッドに引きずり込まれた。
『自分にも一応仕事が……』
「遅れたら王子のせいだと言っておけ」
『一般人の家に泊まった事がバレてもいいんですか?……その、いろいろな所に』
俺の言葉に、ルーシェンはちょっとムッとしたみたいだった。
「シュウヘイは俺が相手では不服か?」
え?何でそんな空気になるんだ?
『そんな事ありません』
「だったら何をそんなに嫌がっている。他に好きな奴でもいるのか?」
『好きな人はいません。そっちこそ、婚約者がいるくせに……』
しまった。言うつもりなかったのに。
「婚約者?」
『ファンクラブのお姉さん達がそう言ってました。いないんですか……?』
ルーシェンは少し考える素振りを見せた。
もしかしたらただの噂なのかも。出来ればそうであってほしい。
「……そういえば、パーティーで隣国の王からやたらと娘をよろしくと言われたな」
『何て返事したんですか?』
「婚約したつもりはないが、出来る事があれば力になるとは言ったな」
『何でそんな事いうんですか』
「相手は王族だ。無下には出来ないだろう」
ルーシェンの言う事は正しい。
でも、すごく苛ついた。
ルーシェンはストーカーアルマの恋心にさえ気づかなかった鈍感野郎だ。顔がいいくせに無自覚で、しかも口が上手い。隣国のお姫様にも喜ばせるような事を言って、相手はもう完全に恋人気分になってるんじゃないのか。
……そこまで考えてハッとした。
俺の方が、すっかりその気になってる遊び相手なんじゃないか?
覚えていてくれた事が嬉しくて、守りの指輪までもらったから、なんだか自分だけ特別な存在になったような気がしていた。
でも俺はただの異世界人。しかも何の特技もない一般人の男だ。王族のルーシェンからすれば、隣国のお姫様と俺とどちらを大切にすればいいかなんて一目瞭然だ。
「シュウヘイ?」
『婚約者がいるのに、一般人の部屋に泊まりに行ってもいいんですか?それとも国も違うからバレなきゃいいんですか?その前に異世界人で男だから問題ないとか』
「シュウヘイ、何を勘違いしているのか知らないが、隣国の姫はまだ九歳の子供だ」
え?九歳?
『……でも、あと五年くらいしたらルーシェンと釣り合う年になるじゃないですか。ああ、だからそれまで他の相手と遊ぶんですね』
遊ぶも何も、俺はずっと友達気分でいたんだ。王子が欲求不満だったから、それに付き合わされただけだって。
こっちの世界の人達は、同性同士でのそういう行為に寛大だから、友情の延長線上だと思っていた。だから本当は婚約者がいたって平気なはずなんだ。割り切ってルーシェンの幸せを願えると思っていた。さっきまでは。
眠っているルーシェンにキスした時、変だと思った。まるで王子の事が友達以上に好きみたいだ。遊ばれていると考えるだけで、心の中がぐちゃぐちゃして、悔しいような悲しいような暗い感情でいっぱいになる。こんな気持ちはおかしい。気づきたくなかった。
「……シュウヘイ、それは本気で言っているのか」
王子の顔がまともに見られない。でも声で分かる。かなり怒らせている。これじゃ魔法村の時と同じだ。
『私は異世界人の普通の男です……王子の相手には相応しくないです』
しばらく沈黙が続いた後、ルーシェンが動いたので殴られるんじゃないかとビクッとする。でも王子はベッドから出て服を着はじめただけだった。
遊び相手とか言っても、結局何もされてないよな、俺。
もう魔法村の時みたいに相手を選べない状況じゃないから、別に俺じゃなくてもいいのか……。もっと可愛くて、嫌味なんて言わない相手がいくらでもいるんだ。
「シュウヘイ」
顔を上げると、着替え終わったルーシェンがじっと俺を見ていた。王子は俺の左手にはまっている指輪に少しだけ触れる。
「どう言えばお前に伝わるんだ」
その表情が苦しげで、俺は怒らせた事を後悔した。
『ルーシェン……』
「会議に行く。邪魔したな」
そう言ってルーシェンはベランダから出て行った。
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