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魔法書の秘密
1 魔法書
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「今日から魔法書の作成なんだってさ。緊張するな~!」
入学してから数日後、ハンスが興奮気味に言った。授業にも寮生活にも少しなれていた生徒達もみな、今日はうきうきしているように見える。
魔法書は魔法使いならほぼ全てが作成する唯一無二の書物で、魔法といういわゆる財産を納めておく大切な物だ。
「何色になるのかしら?私は絶対に赤系がいいわ」
「ナタリーは白が似合うんじゃないか?」
シンが驚いた事に、数日のうちにハンスとナタリーは仲良くなっていた。
声が響いてうるさいと何度も文句を言われていたのに、ハンスはそんな事を物ともせずナタリーに話しかけ続け、結果ナタリーもすっかりハンスとシンを仲のいいクラスメイトの一人と認識していた。
「そういうハンスこそ白だったりして」
魔法書は個人によって色が違っていて、それは個人の得意な魔法の系統によって区別されている。最初に作った時には混じり気のない本の色は、何の魔法を習得して本の中に入れるかによって多少の配色が変わってくる。
白は回復系統に特化した魔法書で、生徒たちに最も人気のある赤は攻撃魔法を得意とするカラーだ。
そしてその色は、実際に魔法書を作ってみるまで分からない。
色が決まると自分が配属されるチームや習得する授業も自然と決まってくるので、生徒達は興味津々だった。
「僕も赤がいいな」
シンの好きな色は当然、兄の髪の色と同じ赤だ。得意な火花の魔法も攻撃系だから、赤になる確率は高いと思っていた。
時間になると教室に担任の教師が入ってきて、騒いでいた生徒達も静かに先生の話を待つ。
「今日はみなさんの魔法書を作成します。これから必要な材料を採取しに行きますから、教科書を持ち温室に向かってください」
その言葉でみんな温室へと移動し始めた。
「魔法書の材料って何なの?紙じゃないの?」
「すごくたくさんあるらしいぜ」
「基本は紙なんでしょう?」
「噂では髪と血液も使うってさ」
「髪って、どれくらいの量よ」
好き勝手に話している生徒達の話しを聞いて、シンは血の気がひいた。
血液も使う?
継続して見続けた悪夢が蘇る。
あの夢の中で、シンはいつも血を取られていた。あれは何かの魔法に使われていたのだろうか。もしも夢が現実だったらの話だが。
「シン君、ちょっといいかな?」
教師に呼び止められたのはそんな時だった。
「はい。何でしょうか」
「じゃ、シン、先に行っとくからな」
ナタリーやハンスは先に行ってしまい、教室には教師とシンだけが残された。
***
「痛っ」
「ああ、悪かったね。すぐに終わるから」
何故か別室で魔法書を作ると言われ、シンは教室の隣にある小さな資料室で椅子に腰掛けていた。
その指先にナイフを当てられて痛みが走る。透明な瓶に血液が溜まるまで待ち、終わると教師が回復魔法をかけてくれた。
瓶の中の血液を視界に入れながら、シンは気になった事をおずおずと口にした。
「あの、どうして僕だけここで作るんですか?」
「ああ。それは材料に髪の毛を使うからだよ」
「あ……」
「君は髪の色も目の色も黒いだろう?みんな染めていると思っているようだが、私はそれが違うという事を知っている」
シンは背筋がぞわりとするのを感じた。
地味で印象の薄い教師の目が、とても冷たい事に今更ながら気付く。
「君のような異端の人間の髪や血が、他の生徒の物と混ざってしまっては困るからね」
「……すみません」
胸が苦しくなり、勝手に謝罪の言葉がシンの口からこぼれていた。
友達ができて忘れていたが、昔は屋敷の召使いですらシンの髪に触りたがらなかった事を思い出した。
教師は手袋をした手でおもむろにシンの髪を一房掴むと、血を採ったのと同じナイフで切り落とした。
「君の魔法書はこちらで作成しておく。皆が戻ってくるまで教室で待機していなさい」
教師はシンの血と髪を革袋に包むと出て行った。
入学してから数日後、ハンスが興奮気味に言った。授業にも寮生活にも少しなれていた生徒達もみな、今日はうきうきしているように見える。
魔法書は魔法使いならほぼ全てが作成する唯一無二の書物で、魔法といういわゆる財産を納めておく大切な物だ。
「何色になるのかしら?私は絶対に赤系がいいわ」
「ナタリーは白が似合うんじゃないか?」
シンが驚いた事に、数日のうちにハンスとナタリーは仲良くなっていた。
声が響いてうるさいと何度も文句を言われていたのに、ハンスはそんな事を物ともせずナタリーに話しかけ続け、結果ナタリーもすっかりハンスとシンを仲のいいクラスメイトの一人と認識していた。
「そういうハンスこそ白だったりして」
魔法書は個人によって色が違っていて、それは個人の得意な魔法の系統によって区別されている。最初に作った時には混じり気のない本の色は、何の魔法を習得して本の中に入れるかによって多少の配色が変わってくる。
白は回復系統に特化した魔法書で、生徒たちに最も人気のある赤は攻撃魔法を得意とするカラーだ。
そしてその色は、実際に魔法書を作ってみるまで分からない。
色が決まると自分が配属されるチームや習得する授業も自然と決まってくるので、生徒達は興味津々だった。
「僕も赤がいいな」
シンの好きな色は当然、兄の髪の色と同じ赤だ。得意な火花の魔法も攻撃系だから、赤になる確率は高いと思っていた。
時間になると教室に担任の教師が入ってきて、騒いでいた生徒達も静かに先生の話を待つ。
「今日はみなさんの魔法書を作成します。これから必要な材料を採取しに行きますから、教科書を持ち温室に向かってください」
その言葉でみんな温室へと移動し始めた。
「魔法書の材料って何なの?紙じゃないの?」
「すごくたくさんあるらしいぜ」
「基本は紙なんでしょう?」
「噂では髪と血液も使うってさ」
「髪って、どれくらいの量よ」
好き勝手に話している生徒達の話しを聞いて、シンは血の気がひいた。
血液も使う?
継続して見続けた悪夢が蘇る。
あの夢の中で、シンはいつも血を取られていた。あれは何かの魔法に使われていたのだろうか。もしも夢が現実だったらの話だが。
「シン君、ちょっといいかな?」
教師に呼び止められたのはそんな時だった。
「はい。何でしょうか」
「じゃ、シン、先に行っとくからな」
ナタリーやハンスは先に行ってしまい、教室には教師とシンだけが残された。
***
「痛っ」
「ああ、悪かったね。すぐに終わるから」
何故か別室で魔法書を作ると言われ、シンは教室の隣にある小さな資料室で椅子に腰掛けていた。
その指先にナイフを当てられて痛みが走る。透明な瓶に血液が溜まるまで待ち、終わると教師が回復魔法をかけてくれた。
瓶の中の血液を視界に入れながら、シンは気になった事をおずおずと口にした。
「あの、どうして僕だけここで作るんですか?」
「ああ。それは材料に髪の毛を使うからだよ」
「あ……」
「君は髪の色も目の色も黒いだろう?みんな染めていると思っているようだが、私はそれが違うという事を知っている」
シンは背筋がぞわりとするのを感じた。
地味で印象の薄い教師の目が、とても冷たい事に今更ながら気付く。
「君のような異端の人間の髪や血が、他の生徒の物と混ざってしまっては困るからね」
「……すみません」
胸が苦しくなり、勝手に謝罪の言葉がシンの口からこぼれていた。
友達ができて忘れていたが、昔は屋敷の召使いですらシンの髪に触りたがらなかった事を思い出した。
教師は手袋をした手でおもむろにシンの髪を一房掴むと、血を採ったのと同じナイフで切り落とした。
「君の魔法書はこちらで作成しておく。皆が戻ってくるまで教室で待機していなさい」
教師はシンの血と髪を革袋に包むと出て行った。
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