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新しい生活
18 従兄弟
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「どうしたんだい?委員長」
「夜分にすみません」
「いや、昨日に比べたら早い時間だ」
ジオという教師は屈託のない笑顔を見せた。年齢は二十代半ばだろうか、若く見えるだけで理事長と同じ世代かもしれない。
この学園の教師は全員、王宮の魔法使いに次ぐ実力だと言われている。
サイラスは入学するまでジオ先生と面識はなかったが、父親からは獏を飼っている召喚魔法使いだと聞いていた。
「どうぞ入って。お茶でも入れるよ」
「お構いなく。長居するつもりはありませんので」
サイラスは素早く室内に目を走らせた。
誰もいない。理事長も。隠れているような魔法の痕跡もない。
「うっ……」
奥の部屋から獏がのそりと顔を出した。
「ああ、ごめんごめん」
警戒したサイラスを見て、ジオ先生が獏を部屋の奥に連れて行く。
「部屋で飼っているのですか?」
「いや、少し気になる事があって、一頭だけケージに入れて様子を見ているんだ」
「室内で飼うのは危険です」
「そうだね」
ジオは言葉とは裏腹に危険とも思っていないような素振りだ。
獏には謎が多い。突然変異で凶暴化する事だってある。部屋で飼うなどサイラスには理解できない行動だ。まさかとは思うが、昨夜獏を同室者の部屋に入れたのは彼じゃないだろうか、という思いが頭を過ぎる。
だが、そんな事をして何になる?たかがCクラスの生徒だ。眼鏡を外して見ても、強い魔法が使えるようには見えなかった。なぜ理事長もジオ先生も、彼に興味があるのか分からない。
ジオ先生は獏をケージに戻すと、戻ってきて椅子に腰掛けた。サイラスも椅子をすすめられたが断った。
「で、どうして委員長が私の部屋に?」
「想像がついているのではありませんか?ユーシス理事長の事です」
「なるほど。君は目がいいと聞いていたけど、本当みたいだね」
「同室者に理事長の魔法印がありました。先生は事情を知っていますよね」
ジオ先生は少し目線を落とし、ため息をついた。
「そうだね。理事長は先ほど部屋にいらっしゃったよ」
「何のために彼にあんな魔法を?」
「それは君には言えない。君だって、私に言えない事もあるだろう」
それはスパイの捜索の事を言っているのだろうかとサイラスは思った。この教師はどこまで知っているのだろう。
「ユーシス理事長とはね、魔法使いの学校で一緒だったんだよ。卒業してから理事長は王宮に、私は魔物研究所にいたけれど、六年前に一度同じ戦いに参加させてもらった事がある。私がこの学園に就職したのも、理事長に誘われたからだ」
ジオ先生は浮かない顔でそう言った。
「つまり先生は味方という事ですか?」
「そう言う君は、理事長の事を尊敬しているのかな?従兄弟だったよね」
「そうですね。尊敬する従兄弟です。あの方には一族の誰もかなわない」
「ではどうして私の部屋に来たんだい?理事長が、シン君を使って君に何かすると思ったんじゃないか?」
サイラスは思わず返答に詰まった。ジオ先生はにこりと笑う。
「魔法印はシン君の為に施したのだと思うよ。理事長のやり方は強引だけれど、あれでも国や学園の事を考えているんだろう。君には信じてもらえないかもしれないけど、私もいつだって生徒達の味方でいたいと思っている。君の事も君の同室者の事も可愛い生徒だと思ってるよ」
「分かりました。お邪魔をしてすみません」
サイラスはそう言って警備室を後にした。
魔法印の事をこれ以上聞いても無駄だろう。ジオ先生にも何の魔法か分かっていない可能性がある。
サイラスが眼鏡をかけ始めたのは、従兄弟の強い魔法を見るのが怖くなったからだ。
ユーシスは尊敬する従兄弟であると同時に、できるだけ近寄りたくない相手でもある。だが近寄らない訳にはいかないし、サイラスは彼には逆らえない。
部屋に戻りながらサイラスは少し憂鬱な気分になっていた。
「夜分にすみません」
「いや、昨日に比べたら早い時間だ」
ジオという教師は屈託のない笑顔を見せた。年齢は二十代半ばだろうか、若く見えるだけで理事長と同じ世代かもしれない。
この学園の教師は全員、王宮の魔法使いに次ぐ実力だと言われている。
サイラスは入学するまでジオ先生と面識はなかったが、父親からは獏を飼っている召喚魔法使いだと聞いていた。
「どうぞ入って。お茶でも入れるよ」
「お構いなく。長居するつもりはありませんので」
サイラスは素早く室内に目を走らせた。
誰もいない。理事長も。隠れているような魔法の痕跡もない。
「うっ……」
奥の部屋から獏がのそりと顔を出した。
「ああ、ごめんごめん」
警戒したサイラスを見て、ジオ先生が獏を部屋の奥に連れて行く。
「部屋で飼っているのですか?」
「いや、少し気になる事があって、一頭だけケージに入れて様子を見ているんだ」
「室内で飼うのは危険です」
「そうだね」
ジオは言葉とは裏腹に危険とも思っていないような素振りだ。
獏には謎が多い。突然変異で凶暴化する事だってある。部屋で飼うなどサイラスには理解できない行動だ。まさかとは思うが、昨夜獏を同室者の部屋に入れたのは彼じゃないだろうか、という思いが頭を過ぎる。
だが、そんな事をして何になる?たかがCクラスの生徒だ。眼鏡を外して見ても、強い魔法が使えるようには見えなかった。なぜ理事長もジオ先生も、彼に興味があるのか分からない。
ジオ先生は獏をケージに戻すと、戻ってきて椅子に腰掛けた。サイラスも椅子をすすめられたが断った。
「で、どうして委員長が私の部屋に?」
「想像がついているのではありませんか?ユーシス理事長の事です」
「なるほど。君は目がいいと聞いていたけど、本当みたいだね」
「同室者に理事長の魔法印がありました。先生は事情を知っていますよね」
ジオ先生は少し目線を落とし、ため息をついた。
「そうだね。理事長は先ほど部屋にいらっしゃったよ」
「何のために彼にあんな魔法を?」
「それは君には言えない。君だって、私に言えない事もあるだろう」
それはスパイの捜索の事を言っているのだろうかとサイラスは思った。この教師はどこまで知っているのだろう。
「ユーシス理事長とはね、魔法使いの学校で一緒だったんだよ。卒業してから理事長は王宮に、私は魔物研究所にいたけれど、六年前に一度同じ戦いに参加させてもらった事がある。私がこの学園に就職したのも、理事長に誘われたからだ」
ジオ先生は浮かない顔でそう言った。
「つまり先生は味方という事ですか?」
「そう言う君は、理事長の事を尊敬しているのかな?従兄弟だったよね」
「そうですね。尊敬する従兄弟です。あの方には一族の誰もかなわない」
「ではどうして私の部屋に来たんだい?理事長が、シン君を使って君に何かすると思ったんじゃないか?」
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「魔法印はシン君の為に施したのだと思うよ。理事長のやり方は強引だけれど、あれでも国や学園の事を考えているんだろう。君には信じてもらえないかもしれないけど、私もいつだって生徒達の味方でいたいと思っている。君の事も君の同室者の事も可愛い生徒だと思ってるよ」
「分かりました。お邪魔をしてすみません」
サイラスはそう言って警備室を後にした。
魔法印の事をこれ以上聞いても無駄だろう。ジオ先生にも何の魔法か分かっていない可能性がある。
サイラスが眼鏡をかけ始めたのは、従兄弟の強い魔法を見るのが怖くなったからだ。
ユーシスは尊敬する従兄弟であると同時に、できるだけ近寄りたくない相手でもある。だが近寄らない訳にはいかないし、サイラスは彼には逆らえない。
部屋に戻りながらサイラスは少し憂鬱な気分になっていた。
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