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カム

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廃墟と猫の話

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 男は何日も深い森をさまよい歩いていた。
食料が底を尽き、脚に怪我を負い、何もかも諦めかけた時、ようやく男は森を抜けた先にある廃墟にたどり着いた。

 廃墟は巨大な都市の残骸で、遠くに見える白い尖塔は何か大型動物の骨の様にも思えた。
都市はぐるりと高い白い壁に囲まれていた。壁の表面には深緑色の苔が貼り付き、魔神の手のような焦げ茶色の木の根が、廃墟を人目から隠すように包み込んでいる。

 男は脚を引きずって、廃墟の入り口と思われる場所へ近づいていった。
何日もまともな物を食べていない。
外から見れば誰もいないように思えるが、奥深くに行けば人がいるかもしれない。

 入り口の扉は銀で、蔦に絡まれて開いていたが、男が扉の前に立つと、ヴィィと静かな音を立てた。
この廃墟にはまだわずかながら動力が通っているようだ。

 扉の内側の銀色に輝く廊下も、シダのような植物と苔が密生している。
男は銀色に光る一つ一つの扉を開け、中に人がいないか探していった。
 一つの部屋の奥には保存食の詰められた倉庫があった。保存食のラベルは剥がれて読めず、それがいつから存在するのか分からない。
また別の部屋には都市の動力を調整していると思われる場所が、無人のまま静かに動いていた。

 銀の廊下を抜けた先は、明るい陽の光に照らされた中庭があった。
建物は白と銀に光り、直線と曲線で構成されていたが、中庭は前時代的な様式で造られていた。
 中央には以前は水をたたえた噴水だったと思われるものが、今では欠けた縁の中に、植物とわずかな水を残すだけの物になっていた。

男はしばし欠けた噴水の縁の上に腰掛け、体を休めた。
静かな時が流れている。
鳥の声もしない。
獰猛な獣も、都市に残された人間もいないようだ。

突然、「ニャア」という音が静寂を破った。
見れば一匹の猫が中庭の一角に佇んでいる。

「猫か」

猫はすっかり衰えた毛並みではあるが、男が手を伸ばせば滑らかな動きで男に近づいてきた。
レンズのような目で男を見上げる。
「ニャア」と開いた口の中は鉛色だ。
声もよく聞けば電子音のような響きがある。
ロボットなのだ。

猫はそうプログラムされているのか、男の脚に身体を擦り寄せてくる。

「そうか、お前も寂しかったんだな」

男は猫を膝に抱き上げると、そっと毛皮を撫でた。
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