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序
しおりを挟む神鳥が殺されたのは、槐花十八年の盛夏、打ち水をした側から陽炎が立つほどに暑い、八月のことだった。
游帝国東宮の内院に、地を引くまでに長い尾羽を引きちぎられ、脚を折られ、目を抉り取られ、喉笛を真横に着られて、かつて純白だって身を、己の血で真紅に染め上げた無残な姿で発見された。
そもそも、千年生きるというましろの神鳥は、現皇帝即位式の最中に天より舞い降りたもので、国の為に春を呼んで囀り、繁栄をもたらすものである。
游帝国一千年の栄華を天帝より約束された物として、この瑞兆を得た皇帝の徳は臣民より大いに讃えられた。
皇帝の証である黒珠黒衣を身に纏った、氷のような美貌を誇る四十二歳の皇帝の御代に於いて、游帝国は春の盛りを迎え、それは神鳥の加護を得て永遠に続いていく物と、誰もが信じて疑わなかったが、その神鳥が見るに堪えないむごたらしい姿で発見されたのである。
皇帝の怒りは甚だしく、犯人は速やかに捕らえ、理由の如何を問わずに凌遅刑に処すという勅命が公布されるに至った。
神鳥が殺されたことで、臣民の間には、霧が広がっていくように、皇帝の徳にたいする疑念と、游帝国衰退の前兆ではないかという茫漠たる不安が広がっていくのを止めることが出来なかったからだ。
そして、ついに、
『天帝より賜りし神鳥を徒に皇太子妃に与えたことが天帝の激怒させ、游帝国は、神鳥もろともに滅される』
という流言が広まりはじめるのを聞いた、皇太子妃付の侍女、琴鳴鈴は、すべての元凶である『あの日』のことを、思い出さずには居られなかった。
それは、三月。
皇宮花園に百花の咲き誇る、春の出来事だった。
この花園での出会いが、すべての運命を狂わせたのだと、鳴鈴は思っている。
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