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第七章 鬼憑きの姫なのに、鬼退治なんてっ!
3.帝VS鬼の君っ!
しおりを挟む帝なんて、御殿の奥に座って折られるだけで、身体を動かしたりすることは殆どないと思っていたけれど、実敦親王も鬼の君も、かなりの件の使い手らしいのは、素人の私にもよく解った。
ソリのない大刀を遣っているので、力押しで行くか、突くか、殴るかというのが戦い方になるのだけれど、鬼の君が、風切る音を残して素早く一撃を繰り出しす。
すかさず、実敦親王がたたき落とし、そのまま、返す刀で鬼の君の刀を押し上げて、競り合いに持って行く。
鬼の君と、実敦親王と。
力比べでは互角のようだった。
私も、小鬼も、手に汗握って見ているしか出来ずにもどかしい。
「あのオネエに育てられた割に、そこそこ動けるではないか」
チッ、と実敦親王が舌打ちする。こうも長引くとは思っていなかったらしく、息が乱れている。袖口が邪魔になったのか、片袖を脱いだ。
「はは、年は取りたくないものだな。実敦親王。……息が上がっておいでだぞ。私は、このやりとりが、五刻続いても、このまま、息一つ乱すことはないだろうがね」
実敦親王が、鬼の君に刃の切っ先を向ける。
「はは、消耗戦にもちこむつもりか? 五刻もすれば、山吹の命はないぞ? ……私が死んでも、山吹の命は守れない。私が死んだら、私の命ともろともに、山吹の命も持って行かれるようになっている」
「くっ……!」
鬼の君が呻いた。
その一瞬の隙を突いて、実敦親王が大刀を繰り出す。真っ直ぐ、鬼の君の心臓を狙って!
マズイ! と私が思ったのより、多分、鬼の君の反応は、一瞬遅れた。
私は、考えるより先に身体が動く性質なので、とっさに駆け出して実敦親王の腕に飛びついていた。
ひゅっ、と絹が切れる音がした。
鬼の君の衣―――袍を横一線に切り裂いて、実敦親王と私が、床に転がる。
実敦親王の手から離れた大刀は、派手な音を立てて床を滑っていく。それを、足で止めた鬼の君が、拾い上げた。
「まったく、姫。あなたは、いつだって無理をする」
溜息交じりに鬼の君はいう。はい、こればっかりは反論出来ないわね。
「……実敦親王。姫の呪いを解いて貰おうか」
鬼の君が凄む。
床に転がっていた実敦親王が身を起こしながら、鬼の君を睨み付けた。
「大人しく、言うことを聞くとでも?」
「……あなたと取引がしたい」
「取引」
ふん、と実敦親王は鼻で笑った。
「私が、応じて、なんの徳がある」
「私の取引に応じれば、あなたの命と、余生については保証する。それと、東宮についても」
「みな、どうでも良いものばかりだ」
「あなたなら、そう言うだろうと思っていたよ。しかし、庶人に落とされ、死ぬまで苦役につくのと、安閑とした余生とでは、話が違うだろう」
「首をはねれば良い」
「理由もなく、帝の首をはねるわけにはいかぬよ。……つまり、私は、あなたを、上皇として丁重に扱うと言っているのだ。廃帝でも偽帝だったと糾弾するのでもなく、体の思わしくないあなたに代わり、私が重祚する形だ」
む、と実敦親王が唸った。
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