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第六章 大ピンチ! 呪いも運命も蹴散らして

12.呪いのゆくえ

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 呪いを……跳ね返す。

 そういうことが出来るのは、知って居るけれど……。

「返した呪いって、倍返しになるのでは……?」

「そうだね、多分、倍返しになるだろうね。どちらにせよ、あなたを呪った時点で、私はその者を生かしておくことはないからね。先ほど人をやって、阿闍梨に修法を頼んだからまずは安堵なさい」

「呪ったのは、多分、帝と、鉉珱げんようということは……鉉珱げんようは、呪い返しで死ぬのですか?」

「鉉珱?」

 鬼の君が、怪訝そうな顔をしたのが解った。相変わらず、私の髪をいじったままだ。本当に、それはやめて欲しい。恥ずかしいことこの上ないんだから。

 しかも、私、湯上がりの軽装で、小袖に薄衣を二三枚重ねただけのものだった。せめて小袿こうちきくらい着れば良かったけど。

鉉珱げんようとは、そこの昭興院しょうこういんの鉉珱のことですか?」

「ええ。私、昭興院しょうこういんの床下で聞いてしまったんです。『穢れの呪いは、もろともに、我が血の恨みを晴らす為に役立つことでしょう』って……えーと、この場合の穢れは、私の事なんだけど」

「我が血の恨み?」

 鬼の君が、眉を吊り上げた。

 あ、美形は、こういう顔をなさっても、美形のままだわ。

「ええ。積年の、五十年にもわたる恨みとか、言ってましたよ。だから、鉉珱げんようの素性を探らないと、なんだか、この事件、解決しないように思えるんです」

「うむ、解った。そこな女房」

 鬼の君が、うちの女房に声を掛けた。可哀想に、うちの女房は真っ青な顔をして、平伏した。まあ帝に声かけられるなんて、一生のうちに一度もあるとは思えないわよね。

 私だって、まさか、帝から、割合ガチの求婚をされるとは思わなかったし、帝が私の髪を乾かしているなんて思いもしなかったわよ。

「……文を書きたい。仕度を」

 女房は畏まりましたと受けてから、音もなく高速で後ろ向きに退室した。

「姫。そういえば、床下……と言っていたけれど」

「ええ。色々あって、参内したけど、逃げ出して、鷹峯院に行ったのよ。そこで、呼び出されて、てっきり鬼の君が私を呼びだしたのかと思ったら、主上だったの。それで、主上に拉致されて、たどり着いたのが、昭興院しょうこういんだったわけ。
 仕方がなく、逃げ出して……その時に、床下を行ったんだけど、そこで鉉珱の話を聞いてしまったのよ。だから、小鬼は、鷹峯院の所に居ると思うわ」

「父上か……。お元気そうだった?」

「有り余るほど、お元気です」

 そして、小鬼は犠牲になっている。

「鷹峯院は、今まで、登華殿の女御様の、十年前の件をご存じなかったようですけれど、今回、真相を知って仕舞われました」

「母上の……」

 鬼の君の表情が曇る。

「出来れば、父上のお耳には入れたくなかったが―――八年前、私が母上を呪殺したと疑われた時、父上より尋問があって、母上が薨去された時の事について、呪詛したのでなければ、一体何があったかと、執拗に聞かれた時も、言わなかったのだが」

 それで、鷹峯院は、鬼の君を、『母親を呪詛した』として処分するしかなかったのか……。

 鷹峯院も、鬼の君が、そんなことをしなかったというのは解っていただろうけど、鬼の君が、伏せて居る事実があったから、どうしようもなかったのだろうと思う。

「……済みません、鷹峯院に、知られてしまって……」

「いや、父上も、いまとなっては、事実を知ることが出来た方が良かっただろう」

「二条関白家と義絶しましたけどね……」

「それも、いずれ義絶はとけるとは思うが……父上は、ああ見えて頑固だから。いまだに、女房装束を召していたのですか?」

「ええ。なんだか、まだ、命を狙われたりするからだって仰有っていましたけれど」

「引退した上皇を狙っても、危うくなるだけで、何も、価値などないはずだけどね」

 鬼の君は、微苦笑した。

 まあ、そう言われてれば、そうかも知れないけど。なにか、引っ掛かる。





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