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第六章 大ピンチ! 呪いも運命も蹴散らして

7.床下は、いろいろあるよ・・

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 寺院というのは、庭も、部屋も、お堂も、すべてピカピカになるまで清められているイメージがあったけど。

 まあ、そんなのは、床下にまでは及ばないわね。

 私は、今、蜘蛛の巣と格闘しながら、薄暗い―――というか、殆ど光の差さない床下を土埃となにか、得体の知れない臭い(もしかしたら、鼠か何かの死骸とか糞かもしれない)に耐えながら、突き進む。

 なぜか、途中、紙くずだとか(飛んできたのかも)、割れた土器かわらけだとかが散乱していたりで、手のひらに傷が付いてしまった。ざっくり行かなかっただけありがたいと思おう。

 それにしても。

「なんで、こんなに、広いのよーっ!」

 そう。忘れてたのよ。

 三重塔があるなら、大寺院なのよ、ここ。

 だから、本堂って、もの凄い広いわね!

 光の指してくる方向が、庭に繋がるところだから、とりあえず、それだけは見失わないようにして。

 ―――進むしかない。

 とにかく、床下に、物の怪とか、なにかが住み着いていないことを祈りつつ、奥へ、奥へ……と進む。

 読経の声が近づいていると言うことは、きっと、本堂のあたりなのか。このお寺のつくりもよく解らないけれど。

 すくなくとも、本堂の下に、なにかあるとは思えないから、先を急ぐ。

 そのまま、しばらく行って、そろそろ壁が見え始めた頃、ふと、話声が聞こえた。

『困った物です』

 私は、声がする方へと移動した。お寺だから、当たり前だとは思うけど、間違いなく男の人の声だ。

 落ち着いて、低いまろやかな声。

『ああ、持ち込まれた穢れですか?』

 対する男は、少々下卑た声音で……野太い感じだ。

『……穢れ』

 と、美声の持ち主は、フッと笑った。なんか、ちょっと、嫌な笑い声だ。

『畏れ多くも、主上の持ち込まれたものを穢れ扱いするのですか?』

 主上の、持ち込まれたもの……って、もしかして、私っ?

 冗談じゃないわよ。

『も、申し訳ございません、鉉珱げんよう様っ!』

 頭の上で、ばんっ! と音がする。どうやら、下卑た男が、床に手を突いて謝っているようだけど……。

 この、美声の主が、鉉珱げんようか……。

 なら、すこし、話を聞かせて貰わなきゃね。

『かまいませんよ。無礼も非礼も、やがて、意味を無くすことでしょう』

 歌うように、鉉珱げんようは言う。

『……穢れの呪いは、もろともに、我が血の恨みを晴らす為に役立つことでしょう』

『おお、積年の、五十年にもわたる恨みが、いま、やっと晴らされるのですな!』

虫麻呂むしまろ、そなたの家も、これでやっと苦労が報われるぞ』

 ―――察するに。

 鉉珱げんようの一族は、『五十年前』の事件を恨みに思っている。

 そして、私に掛けた呪いのおかげで、その恨みが晴らされる……ということになる。

 つまり、鉉珱げんようの素性が解らなければ、何も、見えてこないんだ。この呪いも、事件も!

『私は、一族の恨みを晴らす為に生まれ落ちたのだ。……我が一族を、貶めた者どもを、根絶やしにしなければ、治まらぬ……』

 およそ、『高僧』の台詞じゃないな。

 けれど、この鉉珱げんようの一族と、主上って、どんな関係があるんだろう?

 少なくとも、私に呪いを掛けたのは鉉珱げんようで、主上は、呪いを解くことが出来ると言っていた。

 主上と鉉珱げんようは、仲が良いという話だしね。

 まずは、一人で考えて居ても、仕方がないわ。

 ここを、脱出しなきゃならない。


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