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第五章 後宮からの逃走
15.童の落書きのような顔
しおりを挟む高紀子……というのは、鷹峯院の女御。
つまり、私たちが『登華殿の女御様』と呼ぶ方だった。
そして、鷹峯院(女装)は、私に抱きついて、「うわぁぁん、高紀子~っ!」と泣きついていらっしゃる。
流石に、小鬼も、鷹峯院には手出しできないらしく、固まったまま動かないで居た。
私が気付いたのが、ほんの半刻ほど前。
それから今まで、大体こんな感じだ。
なんというか、マジで勘弁して欲しいです。
「済みません、鷹峯院様に、内々のお話しがありますので、お邸の女房様は下がって頂いてよろしゅう御座いますか?」
見かねた中将が、声を掛ける。
「けれど、……他家の女房に……」
筆頭女房らしき白髪頭の女房が口ごもったのを見て、中将が、くすくす、と笑う。
「あなた……本当にお変わりないわねぇ。小宰相さんでしょ?」
「えっ? 私は……その、確かに、御所におりました頃は、小宰相と呼ばれておりましたけれど」
「あら、今は、何を名乗っていらっしゃるの?」
「いえ、残念なことに、今でも小宰相ですわ……」
「結婚はなさらなかったの? あんなに、結婚願望があったあなたなのに」
「え?」
小宰相さんは、まじまじと中将を見る。そして、目を見開いた。
「中将! あなた、中将さんじゃない! ……だって、あなた亡くなったって……って、昔の姿のまんまで、クソ羨ましい」
なんか……、本音がダダ漏れた瞬間があったようですけれど……気にしないことにしよう。
「だって、私、二十六の若さで死んだのよ? ……ああ、大丈夫、私、別に祟ったりしないから。源大臣にちょっとお話ししたかったのと、こちらの姫君が、放っておけなくて」
「そうよねぇ……なんだか、こちらの姫君、全く似てないんだけど、登華殿の女御様にそっくりだものね」
しみじみと呟く小宰相に、私は好奇心で聞いてみた。
「そんなに、似てるんですか? 私と、登華殿の女御様」
「いいえ、お顔立ちや立ち居振る舞いというものは、全く似ておりませんわ。似ても似つきません。我が主は天下った天女のような顔に、迦陵頻伽の様なお声。その上、天宮の舞姫のようにたおやかな所作でございました。童の落書きのような顔のあなたさまとは、大違いです。
けれど、―――なぜか、あなたさまのことを見ていると、亡き主のことが思い出されて……」
小宰相は、袖で顔を覆った。
その間、もの凄いたとえで私を貶めたことは、今のところ不問にしよう。仕方がない。
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