上 下
111 / 186
第五章 後宮からの逃走

10.陽の念押し

しおりを挟む

    中将の言葉を聞いた陽と潤さんは、一度顔を見合せて、

「この件は、少し、考えさせてもらって良いかな?」

 と、おずおずと言ったので、思わず私は不満の声を上げてしまう。

「なんでよ~?」

「だって、昔の話とは言え、父上と深い仲になった女性がここに来ているなんて聞いたら、うちの母親が、きっと卒倒すると思うんだ」

「そして、起き上がったら、悪鬼羅刹の如くに父を攻撃すると思う」

「なので、少し、考えさせて?」

 たしかにそうなったら、源大臣家の平和を乱してしまうわね、うん。それは、私も、多分中将も本意じゃないわ。

 今現在の浮気より、昔の浮気のほうが許せないってこともあるから、ここは、慎重になったほうが、いいかもね。

「わかりましたわ……」

 中将は、残念そうに言う。

 そう言えば、中将、本懐を遂げたら成仏とかしちゃうんだろうか。

 いつまでも現世で苦しんでいるよりも、黄泉の国へ行ったほうが、良いのかもしれないけど、せっかく、仲良くなったのに残念だわね。

 ふふ、でももし、成仏したら、毎日、快く読経を供えてあげないとね! それくらいはさせて貰うわよ、中将!

「鬼ちゃん、今日は、もう遅いから、うちに泊まって、そこから鷹峯院のお邸まで向かうと良いよ。多分、関白殿下も、そういう思し召しだと思うから」

「私も、色々仕度があるし、そうさせて貰うわ」

 そうそう。香をたきしめたりする必要があるのだ。

 鷹峯院も、亡き妻の薫ならば、なにか、思うところもあるだろう。

「鷹峯院から戻ったら、また、うちに来てね? それまでに、そちらの女房の件は、なんとかしておくから」

「ホント?」

「うん、まずは父上に探り入れて、それから、母上の女房に、ご機嫌を伺って……って感じかなあ」

 真剣に思案してくれる陽が有り難い。

 中将も、眼を丸くして、

「まあ……若君たち自ら……有り難いことですわ」

 と呟いて、袖口で目頭を押さえている。

「今日は、鬼ちゃんが来てくれたから、ささやかな宴を催すからね。鬼ちゃん、琵琶弾けたっけ?」

「まあ、琵琶は、あんまり得意ってわけじゃないけど」

「そうなの? 僕、昔、鬼ちゃんが、琵琶を良く弾いてくれた印象があるんだよねえ」

 陽と過ごしたのは、八条の邸で。

 つまり、八年くらい昔のことだ。

 私は、まだ、がんぜない子供のはずで、琵琶なんか、弾けるとは思えない。だって、琵琶って大きいのよ? 大体、三尺(千年後なら九十センチぐらいね)位になるんだから。

 もしかして、陽に琵琶を聞かせていたのって、母上かしらね。あの方、楽器以外は、なんにも出来ない方だったから。

 私も、楽器一通りは、母親に教えて貰ったのだ。

「琵琶、弾いてたのは、母じゃないかなあ? まだ子供だったから、私、多分琵琶を抱えきれないよ? 少しは、弾いたとおもうけど」

「嗚呼、そう言えば、琵琶って結構大きいもんね。僕は、琵琶って苦手だな、高貴な楽器ってイメージあるし」

 そう言えば、主上が演奏されるのは、琵琶だったわね。

「鬼ちゃんのお母さんも、宮仕えしてたことがあるって、僕、聞いたけどな」

「えっ? 私のほうが、初耳なんですけど?」

 だいたい、あのなんにも出来ない母が、どーやって宮仕えしてたんだ。

 あの母の主をやっていた方がいるなら、とりあえず、伏して謝りにいきたくなるわ。

「そうなの? なんだか、不思議だねえ。ともかく、今日は、宴だからね!」

 陽は、なぜか、私に念を押した。

 なんか、嫌な予感ばかりする。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R15版】最強女騎士はお姫様体質の神官長(男)を虐めたい

てんてんどんどん
恋愛
イケメンでチート並みの能力をもちスペックだけなら完璧な神官長(男)は――何故か極度のヒロイン体質だった。 何故か魔物に毎回誘拐され、そのたびに女騎士に助けられ、告白すれば毎回邪魔がはいり、最終的に(たぶん)男(魔物)に奪いあいをされたり―― 物語のお姫様も真っ青のお姫様っぷりに、いらつきながらも心惹かれる最強女騎士と、何故か最初から女騎士大好き状態の神官長が最終的にはいちゃいちゃしてるだけのお話です。 ※一部性的な事を連想させる表現がありますので注意してください。 ※R18禁版連載はじめました。

妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。

王太子殿下の執着が怖いので、とりあえず寝ます。【完結】

霙アルカ。
恋愛
王太子殿下がところ構わず愛を囁いてくるので困ってます。 辞めてと言っても辞めてくれないので、とりあえず寝ます。 王太子アスランは愛しいルディリアナに執着し、彼女を部屋に閉じ込めるが、アスランには他の女がいて、ルディリアナの心は壊れていく。 8月4日 完結しました。

女性が少ない世界へ異世界転生してしまった件

りん
恋愛
水野理沙15歳は鬱だった。何で生きているのかわからないし、将来なりたいものもない。親は馬鹿で話が通じない。生きても意味がないと思い自殺してしまった。でも、死んだと思ったら異世界に転生していてなんとそこは男女500:1の200年後の未来に転生してしまった。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下真菜日
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

悪役にされた令嬢は、阿呆共に報復する

龍希
恋愛
エルーシャ・ランプロス公爵令嬢は、お花畑の住人どもに冤罪を擦り付けられた。 一方的な断罪の果てに待つのは、本気モードになったエルーシャの報復だった。

どうやら私(オタク)は乙女ゲームの主人公の親友令嬢に転生したらしい

海亜
恋愛
大交通事故が起きその犠牲者の1人となった私(オタク)。 その後、私は赤ちゃんー璃杏ーに転生する。 赤ちゃんライフを満喫する私だが生まれた場所は公爵家。 だから、礼儀作法・音楽レッスン・ダンスレッスン・勉強・魔法講座!?と様々な習い事がもっさりある。 私のHPは限界です!! なのになのに!!5歳の誕生日パーティの日あることがきっかけで、大人気乙女ゲーム『恋は泡のように』通称『恋泡』の主人公の親友令嬢に転生したことが判明する。 しかも、親友令嬢には小さい頃からいろんな悲劇にあっているなんとも言えないキャラなのだ! でも、そんな未来私(オタクでかなりの人見知りと口下手)が変えてみせる!! そして、あわよくば最後までできなかった乙女ゲームを鑑賞したい!!・・・・うへへ だけど・・・・・・主人公・悪役令嬢・攻略対象の性格が少し違うような? ♔♕♖♗♘♙♚♛♜♝♞♟ 皆さんに楽しんでいただけるように頑張りたいと思います! この作品をよろしくお願いします!m(_ _)m

花嫁は忘れたい

基本二度寝
恋愛
術師のもとに訪れたレイアは愛する人を忘れたいと願った。 結婚を控えた身。 だから、結婚式までに愛した相手を忘れたいのだ。 政略結婚なので夫となる人に愛情はない。 結婚後に愛人を家に入れるといった男に愛情が湧こうはずがない。 絶望しか見えない結婚生活だ。 愛した男を思えば逃げ出したくなる。 だから、家のために嫁ぐレイアに希望はいらない。 愛した彼を忘れさせてほしい。 レイアはそう願った。 完結済。 番外アップ済。

処理中です...