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第五章 後宮からの逃走
9.源大臣家では・・
しおりを挟む私は、今ほど『千年に一度のモテ期』という不審な単語を信じたことはない。
源大臣邸に赴くと、なんと、源大臣自ら、北の方と共に玄関先まで出迎えるという歓待っぷり。無論、陽と、潤さんも一緒に居て、にこやかに私の牛車を迎えているという異常事態。
「息子が縁づきたいという女人をお迎えできて、大変嬉しく思いますよ」
「どうぞ、ご自分の邸のように寛いでいらっしゃってね。あなたは、この源家のものとして、鷹峯院へ向かうと言うことなのですからね」
諸手を挙げて歓迎されるような家柄でもないのに、なんでこんなことに!
「なんでも、主上の覚えめでたき才媛で、宮中にも格別の思し召しがあって召されたと聞いておりますよ。その若さで、禁色を聴されておられるとか……。そのような才ある方が、私の息子と筒井筒の幼なじみだったなんて……!」
なんか、もう、舞い上がっている源大臣家のテンションに付いて行くことが出来ずに戸惑っていると、
「父上、母上……そんなに矢継ぎ早に仰有っては、姫が戸惑います」
と陽が助け船を出したので、私たちは、なんとか、源大臣家へ上がることが出来た。
通された部屋に付くなり、私は、
「なんで、こんなことになってるのよ! 陽っ!」
と陽を怒鳴りつける。
「え? だって、鬼ちゃん、僕の父にも話がしたいっていったじゃない。そしたら、鬼ちゃんが、僕と結婚したいから……って話をするんだとばかり思っていたけど、違うの?」
きょとん、とした顔で陽は言う。
「違うわよ、私の、女房が源大臣とお話しがあったの」
溜息交じりに言うと、
「も、もしや、あなたの女房というのは、うちの父にセクハラをされたのですか? それなら、本当に、申し訳ありませんっ! うちの父のセクハラは、もう、病気というか体質なんです! 女人のお尻を揉みしだかねば、呼吸困難になる病です。本当に、そのくらい、息をするようにセクハラしますんで、済みません! 本当に申し訳ない! 謝罪は、後ほどお邸までお伺いいたしますので!」
私に挨拶に来てくれたらしい潤さんが、五体投地して私に謝る。
「い、いえ、セクハラだなんて……ただ、お話しがありますので……、是非とも」
「セクハラではない、その上、僕への求婚でもない……ってまさか、鬼ちゃん、僕の義母になろうとしてる? それは、ちよっと、あんまりじゃないかなっ!」
興奮して目を真っ赤にして叫ぶ陽に、私は、堪忍袋の緒が切れた。
「人の話を聞けーっ!」
思わず叫んだ時に、私は、ここが、人様の(しかも大臣の)邸だということに気がついた。
「お、鬼ちゃん……おちついて……」
「私は落ち着いてるわよっ!」
怒鳴ったら、クラクラした。
「鬼ちゃんは、じゃあ、なんで、父上に用事があるのさ?」
「それは……うちの女房が……」
私の言葉を遮って、中将が進み出て言った。
「実は、私は、かつてお父上様と深い仲になったのです。けれど……ある日、私が、どうしても逢いたくて、邸へ来て下さるようにと御文を差し上げたのですけれど、結局、あなたのお父上様は、おいでにならなかった。ですから、私は……あの時、なぜ、会いに来て下さらなかったのか、それを聴きたいのです。
ご安心下さいませ。今は、こういう身ですので、それだけ知りたいのです」
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