上 下
98 / 186
第四章 後宮には危険が一杯!

35.あなたは、私が救ってみせる

しおりを挟む


 ヘビーだ、なあ。

 私は、流石に、目の前がくらくらするのを感じた。

 うん、ヘビー。

「陰陽師。それ、どれくらい、確実に、満願来るの?」

 陽の声も振るえている。

「うむ、おおよそ確実に死ぬだろう。……が、これだけの大掛かりな呪詛ならば、満願まで、二三日ということはあるまい。十日は掛かる。とはいえ、あなたの小袖が盗まれてから、時間も経っていることだろうし、全く安心は出来ない」

「十日だとすると、短いな」

 関白殿下も、真顔で呟いた。

「確かに、短い。これが、一撃必殺を狙った四十九日間の大修法とか、百日業であることを期待するばかりだが、こればかりは、なんともいえない」

「ちょっと、陰陽師! 少し、気休めとか、効果を薄くするとか、そういうの、出来ないの? 僕、昔、なんか、えらい陰陽師が、一晩祈祷して、最悪事態を防いだ話を聞いたことがあるよ? そう言うの、陰陽師の役目なんでしょ? なんか、ないの?」

 陽が身を乗り出して陰陽師に聞く。

 あるなら、是非!

 私は、死亡へのカウントダウンに怯えながらいう。

 流石に、死ぬのは、嫌だ。

「あることには、ある。お前が言う陰陽師というのは、間違いなく、陰陽寮の大先輩の話だろう。
 今回の呪法がどんなものだか解らないが、この役目を師匠に渡すわけにはいかない。
 私自ら、呪いから身を守る方法を試す」

「方法とは、どうするつもりだ。相手も方法も解らぬのに、呪詛返しでもうつのか?」

 関白殿下は、ある程度、こういう事態に詳しい様子だった。

 多少は、頼りになるかな?

「なんなら、あなたの上司を呼びつけても構わないが。……少なくとも、今や、山吹は主上からお召しが掛かる女人だ。陰陽博士でもなんでも、必要ならば呼び寄せる」

 なんだか、大事になってる気がしないでもないけど……。

「いや、この役目は、他には渡さない」

 陰陽師の、強い光を宿した眼差しが、私の視線と絡み合った。

「あなたは、私が救ってみせる」

 いつの間に、私は手を取られていたんでしょうね!

 ぎゅっと陰陽師に手を握られて居ることに気がついて、放して貰おうとしたけれど、陰陽師は放してくれない。

「陰陽師、何する気だい、君」

「身固めだ」

「身固め?」

 私は、聞いたことがないので、聞き返したけれど、陰陽師は教えてくれない。

「あれが一番、確実だ。とにかく、今夜は、私が身固めで山吹を守護する」

「主上に身固めを行う場合は、御衣おんぞをお借りして行うのだったな」

 つまり、服に掛ける呪法ということかしらね。

「こうなっては、仕方がない。今すぐ、身固めの準備をする。そして、朝一番、鶏が鳴き始める前に、あなたは、そこの左兵衛大尉の邸へ向かうのだ。
 関白殿下、そのように計らってくれ。それと、あなたの身辺を守る女房達と共に出るから、牛車の手配を」

 やけにテキパキと陰陽師は仕切り始める。

「ああ、そうしたら、その牛車一度山科へ行って欲しいの。忘れ物をしちゃったのよ」

 関白殿下に言われたのだ。

 あの香を、たきしめておくようにと。

 うう、髪に口づけさりた事まで思い出して仕舞ったじゃない……。

「解った。そのように手配しよう」

「それじゃあ、私の女房を呼んで欲しいんだけど……」

「いや、このまま、すぐに始めた方が良い。いろいろと、あなたが逃げ出したりしても困るから」

 どういうことだ?

「ねぇ、陰陽師。さっき主上のときは、御衣おんぞに身固め? を行うとか言ってたけど、鬼ちゃんには、どうやるの?」

 陽が、割合無邪気に聞いた。

「最初に誤解のないように言っておくが、我が陰陽寮の伝説の大先輩、かの晴明公でさえ、かつて、この方法で某の少将殿をお救いになったと言うことは、紛れもない事実として残っているからな? その辺は記録を調べてくれ」

 なんか、いやな、予感。

 そして、がっちりと、手は握られたまま。

「だから、どうやるのだ?」

「うむ。一晩、私が、この山吹を抱きしめて加持祈祷を行うのだ」

 死ぬか、一晩、陰陽師殿に抱きしめられるか……。



 これは、ある意味、究極の選択……だ、わ。



しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

主の兄君がシスコン過ぎる!

鳩子
恋愛
時は平安。 関白家の姫君にお仕えする女房(侍女)の早苗は、 姫君の幸せの為に働いているのに、 姫君の兄君(関白殿下)が、シスコンゆえに邪魔ばかり。 なんと妹可愛さに、東宮との婚約破棄を勝手にする始末・・ そして、事態は、思わぬ方向に、……。 果たして、早苗は、シスコンの魔の手から、主を、守りきることは出来るのか!? 全十話くらいのお話しです。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

【完】こじらせ女子は乙女ゲームの中で人知れず感じてきた生きづらさから解き放たれる

国府知里
恋愛
 ゲーム会社で完徹続きのシステムエンジニア・ナナエ。乙女ゲームを納品した帰り、バスの中で寝落ちしてしまう。目が覚めるとそこは乙女ゲームの世界だった! あろうことか、全攻略キャラの好感度がMAXになるという最強アイテムにバグが発生! 早く起きて社長に報告しないと……!  「ええっ、目覚めるためには、両想いにならないとゲームが終わらない~っ!?」  恋愛経験ゼロのこじらせ女子のナナエにはリアル乙女ゲームは高い壁! 右往左往しながらもゲームキャラクターたちと関わっていく中で、翻弄されながらも自分を見つめ直すナナエ。その都度開かれていく心の扉……。人と深くかかわることが苦手になってしまったナナエの過去。記憶の底に仕舞い込んでいた気持ち。人知れず感じてきた生きづらさ。ゲームの中でひとつずつ解き放たれていく……。 「わたし、今ならやり直せるかもしれない……!」  ~恋愛経験値ゼロレベルのこじらせ女子による乙女ゲームカタルシス&初恋物語~

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

愛する旦那様が妻(わたし)の嫁ぎ先を探しています。でも、離縁なんてしてあげません。

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
【清い関係のまま結婚して十年……彼は私を別の男へと引き渡す】 幼い頃、大国の国王へ献上品として連れて来られリゼット。だが余りに幼く扱いに困った国王は末の弟のクロヴィスに下賜した。その為、王弟クロヴィスと結婚をする事になったリゼット。歳の差が9歳とあり、旦那のクロヴィスとは夫婦と言うよりは歳の離れた仲の良い兄妹の様に過ごして来た。 そんな中、結婚から10年が経ちリゼットが15歳という結婚適齢期に差し掛かると、クロヴィスはリゼットの嫁ぎ先を探し始めた。すると社交界は、その噂で持ちきりとなり必然的にリゼットの耳にも入る事となった。噂を聞いたリゼットはショックを受ける。 クロヴィスはリゼットの幸せの為だと話すが、リゼットは大好きなクロヴィスと離れたくなくて……。

処理中です...