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第四章 後宮には危険が一杯!

23.めちゃくちゃな断言

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 正直、胃が痛くなってきた。

 なぜ、関白殿下と、陽が、バチバチと火花を散らしているのか、私は、最早考えたくない。

 陽が関白殿下に逆らうなんて、思ってもみなかったわよ! 一体どういうことなんだろう。

「鬼ちゃんは、若いほうが良いよね? オッサンを、相手にするなんて、勿体ないよ」

 お、おい、陽っ!

 関白殿下、まだ、二十八! オッサン呼ばわりしたら、流石に怒るわよ?

「山吹。あんな、きゃんきゃん吠える、子犬みたいな若い子に、色恋が出来ると思うかい? やっぱり、そこそこ、経験がある男と付き合う方が、女人の格も上がるというものだけど?」

 そんなのこと、知らないわよーっ!

 もう、本当に勘弁して欲しいと思う私の前で、二人は、にこやかに火花を散らしている。

 逃げたい。

「鬼ちゃんは、オッサンの方が好きなの?」

「もちろん、年上の、分別ある大人の男が好きだよね、山吹」

「あー、じゃあ、関白殿下じゃないですね! 関白殿下、どうみても、『分別のある』とか、縁遠そうですから」

「なんですって? 私は、こうみえても、お前を左遷することくらい、簡単なのだけどね」

「そうなったら、源家一堂、全力で二条関白家を潰しますよ」

 私は、なにも聞かなかったことにして、部屋の中へ戻ろうと思った。

 こんな、恐ろしい会話なんて、聞きたくないわよ。

「まったく、なんでこんな目に遭わなきゃならないんだか……」

 私の小さな呟きに呼応するように、声が聞こえてきた。

「だから、言ったのだ。貴女は、今、千年に一度のモテ期だと! こう言う時には、余計な男まで釣ってしまうから、慎重に、私と貴女の仲を育まねばならないというのに。貴女は、あまりにも軽率な行動が多いだろう!」

 声は、淑景北舎の渡橋からきこえて来た。

 こ、これは、陰陽師殿の声!

 なんなの、この、シュラバ? 泣きたくなるが、とりあえず、第三の男の登場に、関白殿下と陽は、喧嘩を止めてくれたのは、良かった。

「ああ、陰陽師殿。丁度良かった、ここに、陰気な気がわだかまっているようですから、早速祓って頂ければ」

 にこやかに、陽は、関白殿下を指してそんなことを言う。怖ろしい、本当に、のちのちの出世に響いたら、どうするんだか。

「陰陽師……そなた、惟宗か?」

 関白殿下が身を乗り出して聞く。

「ん? ああ、私は、如何にも、陰陽師・惟宗直親だが、それが何か不都合があるか? 関白殿」

「不都合も何も、お前か! 山吹に、後朝の文を送りつけたのは! アレはどういうことなんだ!」

「後朝~? ちょっと、鬼ちゃん、どういうことなの? 僕にも解るように説明してよ」

 もう! 関白殿下が、余計な事を言うもんだから!

「ふたりとも、煩いな。ここは、宮中だぞ? そのように、金切り声で叫んで、みっともないことだとは思わないのか? いい大人が」

 陰陽師殿は、それこそ、ゴミ虫を見下すような冷ややかな眼差しで、二人をめ付けた。

 関白殿下も陽も、ど正論を言われて、反論すら出来ないらしい。

「あの後朝の和歌は、私がいずれ、近い将来に、山吹に渡す為の予約のようなものだ。でなければ、いま、かの山吹は、一千年に一度のモテ期が来ている為、ちょっと親切にでもされた男は、すぐに恋に落ちるだろう。
 そうなる前に、私が予約していたのだ。この、山吹と枕を交わすのは、私しか居ない!」

 めちゃくちゃな断言だった。



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