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第四章 後宮には危険が一杯!

22.単(ひとえ)×2

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 さて、困った。

 関白殿下と陽は、全面対決姿勢を取るつもりだろう。二人の間を、バチバチと火花が散っているようで、私は、嫌になる。

 脳裏を、陰陽師殿が言った、


 『千年に一度のモテ期』


 という言葉が過る。

 まさか、とは思うけれど、もしかして、これは、シュラバではないのか? すくなくとも、シチュエーション的に言ったら、私を巡って男達が争っているわ! という物語みたいな状況だけど、こんなの、素直に喜べる女子が居たら、お目に掛かりたい。

 とにかく逃げたい気分だけど、そう言う場合ではない。

 手は、いつの間にか関白殿下に、しっかり捕まえられている。

「そ、そうだ。陽、私、登華殿で倒れた訳じゃないのよ。襲われたの! 首を絞められて!」

「えっ? 本当に?」

「本当よ、首に、痕が残ってるから。確認するなら、今よ?」

「えっ?」

 と関白殿下と、陽は、同時に声を上げた。

「山吹、ここに上げるつもり?」

 とは、関白殿下で。

「流石に、僕が、そちらに上がるのは、問題があるんじゃあ?」

 とは、陽だ。

「じゃあ、私が、簀まで出るわ!」

 私は、狼狽する関白殿下を、尻目に、立ち上がって御簾を、はねのけ、簀へ出た。

 五衣だけの軽装なので、外は、肌寒く感じる。なんだかんだ言っても、関白殿下は、暖かかったわ。頬を撫でる風が、ひんやりしていた。

 階下に、陽の姿が見えたので、私は、近づいて、

「陽、これよ」

 と、喉元を見せると、陽が息を飲むのがわかった。

「酷いね……」

「そうなのよ、死ぬかと思ったわ」

「うん、無事で良かった。やっぱり、鬼ちゃんは、運が強いんだね」

 などと私と陽が話をしていると、のろのろと部屋から出てきた関白殿下が、私の軽装を見かねて、器用に紅の単だけを脱いで、私の肩に掛けてくれた。

 関白殿下の、薫りに包み込まれたみたいで、ちょっと、ばつが悪いなあ、なんて思っていると、関白殿下の単を受けた私を、陽が、物凄い形相で睨み付ける。

 なによー、寒いから、貸して下さっただけなのに、陽ったら、心が狭いわよ!

「アレはね、あなたに衣を掛けたのが、後朝のようで、腹がたったのだろうよ。袍ならともかく、単だからねえ」

 関白殿下は、くすくすと笑う。存外、性格の悪いことだ。

「あー、陽? この単、変な意味はないからね?」

 と、なんだか、弁明する私の目の前で、陽がもぞもぞやりはじめた。

 衣を脱いでる。

 そして、脱いだ単を私に差し出す。

「えーと……うん、ありがとね?」

 しかし、微妙。どうしろってのよ。

 私は単を手にしたままで立ち尽くし、関白殿下は、肩を震わせて笑っていらっしゃる。

「若いなあ」

 引き付けを起こしたように、笑いながらいう関白殿下に、陽の容赦ない一言が飛んだ。

「関白殿下、お年ですものね」

 やーめーろー!

 喧嘩を売るなっ!



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