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第四章 後宮には危険が一杯!
18.乙女の口づけは、千金より価値がある
しおりを挟むく、口づけですってぇ?
動揺する私を、関白殿下は、心底楽しそうに、にやにやと笑ってみているのだから、たちが悪い!
「また、そんな、からかって……悪趣味です!」
私は、頬を膨らませて怒るけど、関白殿下は、相変わらず、にやにやしてる。
陰で女房たちに、イジラレキャラ認定証されてるくせに!
と、私は憤るけど、関白殿下は、余裕綽々だ。
「一度、口づけした仲でしょう?」
「関白殿下が、勝手に、なさっただけです!」
私の腰に手が回って、ぐい、と、引き寄せられた。
「あなたは、存外、無防備だね」
「そもそも、関白殿下が、私をここまで運んでいらっしゃったのです! それからずっと、放してもくださらないじゃないですかっ!」
むきになって言えば言うほど、関白殿下のペースに巻き込まれる感じがするけど、大人しくしていたら、絶対、口づけされる!
「あなただって、裳着も済ませた、立派な大人の女なんですから、一人二人、通う男あっても良いでしょう。
それとも、私では、不足かい?」
耳許に囁かれて、私は軽くパニックに、なる。
「また、お戯れを……、いい加減に、おやめくださいませ!」
押し返そうとしても、関白殿下の厚い胸はびくともしない。ああ、そうだった。馬で山科に来るくらいには、この人、アクティブだったわ!
「誰かに、見られたらどうするんですかっ!」
「人に見られて、なにか、困ることがあるかな? あなたは、まだ、入内もしていないのだし」
いや、そういう問題ではなくて!
「また、あなたは、和歌を貰えなくて嫌だと、子供っぽい駄々を捏ねるの?」
「私、関白殿下に、遊ばれて、そのうちに捨てられるなんて、嫌ですから」
「私が、そんな人でなしに見えるのかい? まったく、君は、酷いことを言うねぇ」
だって、登華殿の女御さまの件が片付いたら、私なんか、ぽいっと捨てて終わりそうよ。
いや、捨てられるくらいならまだしも、秘密を知りすぎているなんて言って、処分されても困るわね。
どちらにせよ、ろくでもない。
「あなたのことは、気に入っているのは、本当だからね。それは、信じるように。
……とはいえ、このほうが秘密の話もしやすいでしょう。たとえば……二条廃帝のことなどは」
ドキッと胸が跳ねた。
これは、口づけなしで教えてくれるって事かな?
「あの方は、お腹を召されたらしい。それは、確かだ。なにせ、私は、その部屋を片付けに行ったのだからね。
桜の舞う、如月の宵だったよ。場所は、八条の昭興院という寺だ。
確かに部屋は、血まみれだったんだ。天井に至るまで、おびただしい血で穢れていてね。
けれど、あの方の、ご遺骸は、無かった」
「無かった?」
「そう、無かったんだよ。だから、私も、帝も、あの方が、まだ生きていると、そう、思っているところに、あなたが現れた」
二条廃帝しか知り得ない、薫りを纏って。
「私も、帝も、あなたを手もとに置きたがったのは、それが理由だ。
さあて、山吹。
口づけのほうが、恐らく安くついたぞ。さあ、お前の、知ることを、すべて話してもらおうか」
関白殿下は、がっちりと私の腰を引き寄せて、にこやかにいい放った。
なんだとーっ!
乙女の口づけは、千金より価値があるのを知らんのかっ!
この、オタンコナス!
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