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第三章 千年に一度のモテ期到来?
17.関白殿下の部屋を訪ねて・・・
しおりを挟む夜も更けたけど、ついさっきまで、ガールズトークをしていたお陰で、眠れない。
お土産で唐菓子まで、たんまりもらってしまった。さすがに、真夜中に、食べる気にはならないけどね。
早蕨と、中将はぐっすり寝てるので、かなりうらやましい。というか、幽霊も眠るのね……。
関白殿下からの文でも届けば、なんとか、参内前に関白殿下の直廬にでも行けると思うのだけど。
こんなときに、方違えとは。
ため息まじりに、月を見上げていると、門のほうが妙に騒がしい。
なにかあったのかと思って、気配を探っていると、近くを小者が通ったのがわかったので、私は、
「そこな方!」
と小者に呼び掛ける。
小者は、自分がよびかけられたとはついぞ思ってもみなかったようで、一度は足を止めたけど、すぐに歩きだしてしまったので仕方がなく、半蔀(廊下側に付いている格子戸。上下半分ずつ稼動するようになっている。とても、重い)を上げて、
「ちょっと、そこの方!」
と、はしたなくも身を乗り出して呼び掛けた。というより、ほとんど、叫びに近い。
「へっ? わたしですか?」
小者は、すっとんきょうな声を上げて立ち止まる。
「なにやら、騒がしいようだけど、なにかあったの? 明日、姫さまが参内するのに、なにか不都合でもできたかしら?」
「明日の参内は、問題ないと思いますが……実は、関白殿下が、お戻りになったんです」
「えっ? 関白殿下は、今日、方違えのはずよね?」
「ええ。方違えを押して……。もう、床に入られたようですけど、明日は、姫さまのお見送りをするから、早く起こすように申し付けて」
小者の言葉を聞いて、私は、関白殿下が無理をして戻ったのだと確信した。
方違えを冒して邸へ戻るなんて、現代貴族にあるまじき行為だ。
だけど、これなら、関白殿下に、なにか聴くことが出来るかもしれない。
「教えてくれて、ありがとう。あなたも、まだ、宿直するのなら、気をつけてね」
小者は、「はい! 気遣って下さいましてありがとう存じます」と元気に挨拶して去っていった。
さて、まだ、朝まで時間がある。
私は、関白殿下のお部屋を訪ねることにした。
この邸のどこになにがあるか、はだいたい解る。なにせ、この間は、早蕨のかわりにここで女房をしていたのだ。
私は、母屋の関白殿下の部屋へと向かう。
さすがに、小袖一枚でいくことも出来ないので、薄衣を三枚ばかり羽織って、袴も着けない。すこ、はしたない格好だけど、ちょっとお訪ねするくらいだから、なんとかなるだろう。
春の夜は薄寒くて、廊下に出ると、床の冷たさが足の裏から、じんじんと伝わってくる。袴をつけていると、この冷たさがダイレクトに来ないから有り難いのよね……。
私たち女は、普通、長袴を穿いているときは襪(指のところが別れていない足袋みたいなもの。男の人は、沓を穿いて外を歩く都合もあって、襪を穿いている)を穿かないのだ。
私は、関白殿下がお好きだと聞いたから、手土産に頂いた唐菓子を持って行くことにした。夜中に召し上がらなくても、明日にでもお上がりになるかも知れないものね。ちょっと、唐菓子を頬張る姿は見てみたいけど。
関白殿下のお部屋は、すでに半蔀も降りていて、周りに人の気配もしないから、人払いされているのだろう。灯りも、見えない。
私は、ささやくような小さな声で、関白殿下に呼び掛けた。
「関白殿下。山吹でございます。どうしても、お尋ねしたいことがあって、まいりました」
半蔀越しでは、聞こえないかもしれないなあと、思ったその時、半蔀が、少し開いた。
「掛金を外したから、入っておいで」
関白殿下の、声がする。
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