上 下
53 / 186
第三章 千年に一度のモテ期到来? 

13.いざ、二条邸へ

しおりを挟む

 二条関白家までどうやって伺おうと思案していたら、二条の姫さまが、

『山吹があんまり遅いから、お迎えの牛車を用意しましたわ。女房も連れていらっしゃいな』

 などとお文を下さったので、嬉しいことこの上ない。

 関白殿下にはお会いしたくないけど、あの愛らしいことこの上ない姫さまには、お会いしたい。

 ああきっと、宮中の管絃に呼ばれるくらいだから、かなり楽器も出来るんだろうなあ。

「姫さま、すこし練習しなくて大丈夫でしたか?」

 早蕨が不安げに聞く。

「大丈夫よ。付け焼き刃で練習しても、バレるから。それに、当日、どんな曲を弾くのかも解っていないし……。大丈夫よ、ちゃちゃっと行って、ちゃちゃっと弾いて、ちゃちゃっと帰ってくるだけ!
 失敗したら、好都合よ。とにかく、私は、帝にも関白殿下にも諦めて貰わなくちゃならないんだから」

「解りましたわ」

『あの姫さま、姫さまは、帝と関白殿下と、あの陰陽師殿から求婚されているようですけれど……一体、どなたをお選びになるのですか?』

「やだあ、私の評判なんて、最悪なんだから、私は、一生独身よ!」

『そうでしょうか……、私は、姫さまも、良き殿御と巡り会って、結ばれることが第一と考えますけれど。もし、どうら、人にとやかく言われるとお思いでしたら、帝や関白殿下なら、最適ではありませんか。どのみち、ご寵愛は、永遠に続くとは限らぬものでしょうから……帝の場合は、邸へ通わせると言うことは難しいとは思いますけれど、不可能なことではないのですよ? 実際、私の頃の帝などは、後宮に妃を持ちながら、外の女の所へ通っておりましたからね』

「すごいですね。よく、そんなことが可能でしたこと……」

 感心して、早蕨が言う。

『帝は、牛車などに乗って、堂々と外へ出ておいででしたから……けっこう、こういうことをなさる帝は多かったらしいですわ……。やはり、外へ出て忍び会うというのは、殿方には良いのでしょうね』

「帝相手に、度胸のある人が居るものねぇ」

 思わず感心してしまった私に、中将は『そうなのですよ!』と大声を上げた。

『結局、良い男を捕まえておくには、女が、のんびり構えていてはダメだったということなのです。私は、それを学びましたわ。……ですから、姫さまも、心に秘めた方が居るのでしたら、是非とも、その方と縁づくことが出来るように、ありとあらゆることを試してみた方がよろしゅう御座います』

「が、含蓄深い言葉ね……」

 一度自殺している人は、やはり説得力がある。

 私は、一度、帝のお姿を思い浮かべてみた。あまり、お顔は覚えていない。だって、竜顔を拝して仕舞ったら、目が潰れるだとか、髪の毛がバッサリ抜けるだとか、そういうことになりそうなのですもの。

 整った顔立ちでいらっしゃったような気もするし、相当な美形だとは思っていたけれど……。胸がときめくような事はない。

 関白殿下だって、そうだわ。素敵な殿御だし、わざわざ山科まで駆けつけて下さったかたではあるけど、どこか、胸がときめかないのよ。

 心ときめく方なんて、本当にいるのかしら……と思った時、頭の中を過ぎっていったのは、鬼の君だった。

 関白殿下のや帝に負けず劣らずの美しさで……影を帯びた眼差しをしていた、鬼の君。

 この間は、人目を憚るような、闇色の狩衣姿でおいでになった。

 幻か魔魅のように美しい方だ……。

 鬼の君のことを思い出して、顔が熱くなる。

 伊勢ではお魚を捕って過ごしていたという、あの逞しい手に、手を取られて……指先に口づけを受けたのよ。

 思い出すと、まだ、そこだけ、やんわりした鬼の君の唇の感触を思い出す。

「あら、姫さま、お顔が朱いようですけれど……暑いですか?」

 早蕨に顔を覗かれて、私は、ドキリとした。

「あ、いいえ? 早く、関白殿下のお邸へ参りましょう。のんびりしていると、夕方になってしまうわ。もしかしたら、二条の姫さまも、今日は私と練習がしたくて、牛車を差し向けて下さってのかも知れないし」

『あら、そうですわね。……では、早く参りましょう。私も牛車に参ります』

「うん、中将もよろしく」

「ええ、それでは参りましょう」

 鬼の君は、私は山科に居るように言ったけれど……。

 結局、私は京にいるわけで……。

 また、お会いできないかしら……私から、鬼の君に連絡する手段というのがないのが悔やまれる。

 せめて、小鬼に逢えれば良いのに……。

 牛車に揺られながら、私はそう思った。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

おじさんは予防線にはなりません

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「俺はただの……ただのおじさんだ」 それは、私を完全に拒絶する言葉でした――。 4月から私が派遣された職場はとてもキラキラしたところだったけれど。 女性ばかりでギスギスしていて、上司は影が薄くて頼りにならない。 「おじさんでよかったら、いつでも相談に乗るから」 そう声をかけてくれたおじさんは唯一、頼れそうでした。 でもまさか、この人を好きになるなんて思ってもなかった。 さらにおじさんは、私の気持ちを知って遠ざける。 だから私は、私に好意を持ってくれている宗正さんと偽装恋愛することにした。 ……おじさんに、前と同じように笑いかけてほしくて。 羽坂詩乃 24歳、派遣社員 地味で堅実 真面目 一生懸命で応援してあげたくなる感じ × 池松和佳 38歳、アパレル総合商社レディースファッション部係長 気配り上手でLF部の良心 怒ると怖い 黒ラブ系眼鏡男子 ただし、既婚 × 宗正大河 28歳、アパレル総合商社LF部主任 可愛いのは実は計算? でももしかして根は真面目? ミニチュアダックス系男子 選ぶのはもちろん大河? それとも禁断の恋に手を出すの……? ****** 表紙 巴世里様 Twitter@parsley0129 ****** 毎日20:10更新

心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。

木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。 そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。 ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。 そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。 こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式
恋愛
「おまえは前提条件が悪すぎる。皇妃になる前に、離縁してくれ。」 新婚初夜に皇太子に告げられた言葉。 1度目の人生で聖女を害した罪により皇妃となった妹が処刑された。 2度目の人生は妹の代わりに私が皇妃候補として王宮へ行く事になった。 そんな中での離縁の申し出に喜ぶテリアだったがー… 別サイトにて、コミックアラカルト漫画原作大賞最終候補28作品ノミネート

【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。 ある日突然、兄がそう言った。 魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。 しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。 そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。 ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。 前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。 これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。 ※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です

処理中です...