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第三章 千年に一度のモテ期到来? 

13.いざ、二条邸へ

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 二条関白家までどうやって伺おうと思案していたら、二条の姫さまが、

『山吹があんまり遅いから、お迎えの牛車を用意しましたわ。女房も連れていらっしゃいな』

 などとお文を下さったので、嬉しいことこの上ない。

 関白殿下にはお会いしたくないけど、あの愛らしいことこの上ない姫さまには、お会いしたい。

 ああきっと、宮中の管絃に呼ばれるくらいだから、かなり楽器も出来るんだろうなあ。

「姫さま、すこし練習しなくて大丈夫でしたか?」

 早蕨が不安げに聞く。

「大丈夫よ。付け焼き刃で練習しても、バレるから。それに、当日、どんな曲を弾くのかも解っていないし……。大丈夫よ、ちゃちゃっと行って、ちゃちゃっと弾いて、ちゃちゃっと帰ってくるだけ!
 失敗したら、好都合よ。とにかく、私は、帝にも関白殿下にも諦めて貰わなくちゃならないんだから」

「解りましたわ」

『あの姫さま、姫さまは、帝と関白殿下と、あの陰陽師殿から求婚されているようですけれど……一体、どなたをお選びになるのですか?』

「やだあ、私の評判なんて、最悪なんだから、私は、一生独身よ!」

『そうでしょうか……、私は、姫さまも、良き殿御と巡り会って、結ばれることが第一と考えますけれど。もし、どうら、人にとやかく言われるとお思いでしたら、帝や関白殿下なら、最適ではありませんか。どのみち、ご寵愛は、永遠に続くとは限らぬものでしょうから……帝の場合は、邸へ通わせると言うことは難しいとは思いますけれど、不可能なことではないのですよ? 実際、私の頃の帝などは、後宮に妃を持ちながら、外の女の所へ通っておりましたからね』

「すごいですね。よく、そんなことが可能でしたこと……」

 感心して、早蕨が言う。

『帝は、牛車などに乗って、堂々と外へ出ておいででしたから……けっこう、こういうことをなさる帝は多かったらしいですわ……。やはり、外へ出て忍び会うというのは、殿方には良いのでしょうね』

「帝相手に、度胸のある人が居るものねぇ」

 思わず感心してしまった私に、中将は『そうなのですよ!』と大声を上げた。

『結局、良い男を捕まえておくには、女が、のんびり構えていてはダメだったということなのです。私は、それを学びましたわ。……ですから、姫さまも、心に秘めた方が居るのでしたら、是非とも、その方と縁づくことが出来るように、ありとあらゆることを試してみた方がよろしゅう御座います』

「が、含蓄深い言葉ね……」

 一度自殺している人は、やはり説得力がある。

 私は、一度、帝のお姿を思い浮かべてみた。あまり、お顔は覚えていない。だって、竜顔を拝して仕舞ったら、目が潰れるだとか、髪の毛がバッサリ抜けるだとか、そういうことになりそうなのですもの。

 整った顔立ちでいらっしゃったような気もするし、相当な美形だとは思っていたけれど……。胸がときめくような事はない。

 関白殿下だって、そうだわ。素敵な殿御だし、わざわざ山科まで駆けつけて下さったかたではあるけど、どこか、胸がときめかないのよ。

 心ときめく方なんて、本当にいるのかしら……と思った時、頭の中を過ぎっていったのは、鬼の君だった。

 関白殿下のや帝に負けず劣らずの美しさで……影を帯びた眼差しをしていた、鬼の君。

 この間は、人目を憚るような、闇色の狩衣姿でおいでになった。

 幻か魔魅のように美しい方だ……。

 鬼の君のことを思い出して、顔が熱くなる。

 伊勢ではお魚を捕って過ごしていたという、あの逞しい手に、手を取られて……指先に口づけを受けたのよ。

 思い出すと、まだ、そこだけ、やんわりした鬼の君の唇の感触を思い出す。

「あら、姫さま、お顔が朱いようですけれど……暑いですか?」

 早蕨に顔を覗かれて、私は、ドキリとした。

「あ、いいえ? 早く、関白殿下のお邸へ参りましょう。のんびりしていると、夕方になってしまうわ。もしかしたら、二条の姫さまも、今日は私と練習がしたくて、牛車を差し向けて下さってのかも知れないし」

『あら、そうですわね。……では、早く参りましょう。私も牛車に参ります』

「うん、中将もよろしく」

「ええ、それでは参りましょう」

 鬼の君は、私は山科に居るように言ったけれど……。

 結局、私は京にいるわけで……。

 また、お会いできないかしら……私から、鬼の君に連絡する手段というのがないのが悔やまれる。

 せめて、小鬼に逢えれば良いのに……。

 牛車に揺られながら、私はそう思った。


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