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第三章 千年に一度のモテ期到来?
4.モテ期と故・女御様
しおりを挟む陰陽師の言った『千年に一度のモテ期』というのを私が噛みしめるのは、そう、時間が経ってからではなかった。
「鬼ちゃんのことが懐かしくて、訪ねてきちゃった!」
と、私の幼なじみ、源陽が訪ねてきたところに、関白殿下と帝から文が届いたのだった。
いまは客が来ているからあとで返事をする………などといえないお相手だし、なんというか、文使いが、『お返事を頂けるまで帰りませんから』というスタイルでジト目で見ているので、もぅ、本当に、笑えない。
「鬼ちゃんは、入内するの?」
帝からの文を抱えて途方に暮れている私に、陽が言う。
「私がするはずないでしょう! あそこは、身分が低い女が入って行ったら、末代までいじめ抜かれる場所よ!」
「そうだよね、良かった。それで、関白殿下は?」
「……あそこも、勘弁して欲しい」
「でも、恋文なんだよね、それ」
陽の追求は激しい。
仕方がなく、文を解いてみると、意外な文面だった。
『この間はいろいろと焦って済まなかったね。あなたはきっと、沢山の縁談が来ているだろうから、年甲斐もなく焦ったのがいけなかった。
たびたび、こういう文を出すので、その際には、返事を頂けると有り難い。
ところで、陰陽師を呼んだそうだけど、山科では昔、鬼にあったと聞きました。また、鬼が出てくると、今度はあなただけでなく家人に危害が及ぶことも考えられますから、しばらくの間、京で過ごすと良いでしょう。
香子もあなたに会えるのを楽しみにしているようだから、京に来て下さると嬉しいね』
まあまあ、いいひとじゃない! と思ったら二枚目があった。
『そういえば、あなたのお父上の伊予介殿は、次の任地が決まっていないのだったっけ?』
前言撤回!
こいつは、割と、やんわり権力を傘に着てくるタイプだ。
「……父様の就職のことを言われると、辛いよねぇ……」
「えっ? 関白殿下、そんな事を仰有っているの? ―――そんなのって、卑怯すぎる! 僕、関白殿下に直訴してくるよ!」
「わーっ、やめなさいってば陽! 自分の出世の道が閉ざされるわよ!」
「じゃあ、帝にお話しする」
「まあ、無茶を……」
とおもったけど、帝の最愛の女御様ってば、陽の姉君なのよね……。
「ねぇ、そんなことより、陽。私、亡くなったあなたの姉君様のことを聞きたいわ。帝が、一途に思っていた方なのでしょう?」
「え? うん……八年前に、急に亡くなったんだ。僕は、まだ小さかったけど、童殿上していたからね。よく、女御様のところへ伺っていたよ。だけど―――子供心には、帝が、女御様をご寵愛なさっていたというようには見えなかったよ。お渡りも少なかったし、東宮殿下のお顔を見に来ることも少ないように思えたけれど」
なんだか、妙ね。
だって、あの時、帝は、桜の木を見つめながら、女御様を恋しがっていたのよ? あれは、私の見間違いではないわ。
「でも、本当に、女御様は、唐突に亡くなったんだ。……僕は、その日の朝に女御様にご挨拶に伺ったけれど、お体が悪いというようなこともなかったし、産後のことも、悪いことはなかった。……けど、夜になって、薨去されたんだ」
「朝まで、普通にしていらしたのに?」
「うん。全く、普通だったらしいよ。だから……嫌な話だけど、毒殺の噂もあった」
「毒殺っ……!」
「一応、毒ではないようなことを聞いているけどね。毒だと、身体にまだら模様の痣が出たり、酷く苦しんだりするみたいだけど……、眠るように、すっと亡くなったということだから」
それが、『八年前』。
なんだか、嫌な感じだけど……、丁度その頃なのよね。私が、鬼の君にお会いしたのは……。
そして、帝が代わっているのも、丁度、八年前。
「―――本当に、姉君も、女御様でいらっしやったのは、ほんの一瞬だったなあ」
「どういうこと?」
「前の帝が退位されたのが、その年の二月で、すぐに今の帝が即位されたでしょう? それが四月だったから。東宮殿下がお生まれになったのが五月で、女御様が亡くなったのが、九月なんだよね。激動の一年だったよ」
そして、私が鬼の君に出逢ったのは、三月。
三月の上旬。
桜の満開の中だ。
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