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13.わたくし、先が思いやられますわ

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「あの……東宮殿下」

 わたくしは、おずおずと聞く。

「なあに? っていうか、ちゃんと香散見かざみって呼びなさいよアンタ」

「香散見さま……どうして、わたくし、あさから、こんな……いかがわしいことにおつきあいしなければならないのでしょう?」

「えーっ? そんなのアタシの趣味よ。だって、アンタ、まっさらで仕込み甲斐がありそうだし」

 うふっ、と東宮殿下はお笑いになった。よく解りましたわ。わたくし、この方に、単純に弄ばれているだけですのね!

「ヤダ、怒った?」

「……怒っていません。ただ、なんだか、朝から疲れてしまって……」

「アタシは朝からギンギンだけどねー」

「ギンギン……?」

 よく解らなかったけれど、東宮殿下は、答えてはくれなかった。

「まあ、アタシとアンタは、こんな所を触りあうような仲になっちゃったんだし。もはや、他人業な事は言わないわよねぇ」

「何のことですの?」

「まあ、良いわよ。アンタは、どのみちアタシの物になるんだから……さあて、そろそろ起きましょうか?」

 やっと、東宮殿下から解放された、と思ったら、起きたばかりだというのに、どっと疲れがこみ上げてきた。

「あら、高紀子、どうしたの? 腰が砕けたのかしら?」

「いいえ……ちょっと疲れてしまって……大丈夫ですわ。起きます」

「あんまり、無理はしないで頂戴よ?」

「解っています。どうしても辛いようでしたら、早めに申し上げますから」

 今日から、宮中で出仕するというけれど、はっきり言って、わたくしに宮仕えが務まるとは、とても思えない。勿論、わたくしだって、貴族の娘として生まれてきたからには、一通りのことは出来るけれど……あるじにお仕えするのは、きっと、大変なことだと思う。

 ああ、でも、もしかしたら、お仕えする立場になってみたら、わたくしの主人としての振るまい方にも違いが出るかも知れないわね。それならば、わたくしが、出仕することに、意味を見いだせそう。

「そうしてね。……とは言っても、アタシたち、あんまりやることはないわよ。今、アタシの乳母子を『東宮殿下』として御帳台ベッドに置いてるから、その近くで、身の回りのお世話をしている風にして居れば、なんとかなるわ」

 東宮殿下―――なんだかややこしいので、香散見さまにするけれど―――は、おそろしく適当なことを仰有る。勿論、わたくしたちがちゃんと、お世話できるかと言われたら、できっこないと言ってしまうと思うけれど。

「なんだか、わたくし、先が思いやられますわ」

「何言ってンの。ここからが本番なのよ? アタシの問題が片付かない限り、アンタだって、ずーっと入内出来ないんだからね!」

 どうせだったら、入内取りやめになって、実敦親王と結ばれるようになったら良いのに。勿論、そんなことはあり得ないんでしょうけど。

「香散見さまの問題って、なんですの?」

「さっきの通りよ。アタシは、命を狙われている……犯人が誰だか、アタシにはわからない」

「見当は付いていらっしゃいますの?」

 問い掛けたわたくしに、香散見さまは、「んふっ」と笑った。「アンタ、中々、頭良いわね。……そうアタシは、犯人はわかってないの。証拠がないのよ。だけど、見当は付いてる」

「なんとなく、です」

「なんとなくでも構わないわ。全くの当て推量じゃあないでしょ? アンタは、アタシの言葉もささやかな変化で、そう言ったのよ」

 本当は香散見さんの言う通りで、わからない、と言った言葉の端に、少々の嫌悪感のようなものを感じたからだった。

「アンタって、ちょっと、ぼんやりしてるようで、結構侮れないわね……まあ、良いわ。今日から出仕よ? まずは、しとねを片付けて、着替えからはじめましょ」


 わたくしは、油断していたのです。

 着替えの為に、わたくしは、小袖(下着)まで剥ぎ取られて、本当に生まれたまんまの姿をさらすことになってしまったのに、わたくしから小袖を奪った香散見さまは、わたくしのことをじっと観察しておいでだった。







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