主の兄君がシスコン過ぎる!

鳩子

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6.六の宮様vs姫様

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 じりじりと対峙する、六の宮さまと、姫様。

 ああ、高貴な姫君なのに、下々のように、男に顔をお見せになって!

 こうなると、仲裁に関白殿下が来て下さらないかしらと。関白殿下が忍んでおいでだった、対の建屋を見れば、すでに、もぬけの殻。

 そういえば、先ほど、文を参らせたのでした。

 困った。

 非情に、困った。

「宮筋の高貴な方だと思っていれば、なんて、失礼なことをおっしゃるのかしら! 根も葉もないことをおっしゃるのは、おやめ下さいませ!」

 姫様は、六の宮さまを、ギッと睨み付けておいでで、私は、正直に申し上げますと、冷や汗が止まりません。

「おや、姫君とも思えない、おふるまいだね。あなただって、あの関白殿下が清らかな手をしているとは、思わないでしょう?」

 ふふん、と六の宮さま見下したような、嫌な笑いに胸が悪くなってきましたけれど。

 姫様は、わなわなと震えていたと思えば、やおら、拳を作って、叫びました。

「あなたのような、底意地の悪い方には、そう見えるだけで、兄上は、全くの善人です! この世のすべての方が、兄上を悪く言っても、私だけは、信じます!」

 さすがは、私の姫様!

 この言葉は、心からのものなのです。

 あの変質者、もとい、関白殿下をこうして心から信じておいでなのです。この、素直で美しい性格は、宝と言っても過言でないはず!

「そ、そうですか。私には、あの関白が、善人とは思えませんけれど……まあ、そろそろ、風が出て参りましたので、失礼しますよ」

「誰か! 六の宮さまがお帰りよ。お見送りして差し上げて! それでは、ごきげんよう、六の宮さま。私、二度とお会いしたくありませんわ」

 六の宮さまの顔が、カアッと赤くなったのは、面と向かって、二度とお会いしたくありませんわなどと、いままで、言われたことがなかった、からでしょう。 

 その顔を見て、私は、晴れやかな気分で、お見送りを買って出ました。

 素晴らしい牛車に乗り込んだ六の宮さまは、車のなかから、私に声をお掛けになりました。

「見たところ、夫はいないようだけど、私のめかけになるつもりはないかい? 忍んで逢うのに丁度良い、小さな邸があるのだよ」

 神経を疑う!

「まあ……、いま、高貴な花を愛でるのにおいでくださった方の言葉とも思えませんわね」

 にこやかに、応対しながら、私は、腸が煮え繰り返りそうになって、もし、これが、お勤めするお邸でなければ、ここで、大殿油をぶちまけて、鮮やかに牛車を火炎車にしてやったところです。

「あの姫様は、可愛らしいけれど、あの通りの、気性の荒いご様子なのでね。そなたのように分別のある、美しい女のほうが、私の好みですよ。宮筋の私の、妾のほうがしがない邸務めより、良いでしょう。さあ」

 気がついた時には、牛車の御簾から、にょっきりと腕が伸びて、私の腕を掴みました。

 物凄い力で捕まれ、無理矢理、牛車の中に連れ込まれそうになって。

 私は、恐ろしくて、声も上げられずに、ただ遮二無二、身体を、よじって抵抗しますが、六の宮さまは、こういう無体に慣れているご様子で、にやにやと笑いながら、私の抵抗を楽しんでいる様子でした。

 このままでは、連れ込まれてしまう!

 誰か!

 叫ぼうとしたけれど、いつの間にか、口は手でふさがれていて、とても、声をあげられるような状況では、ありませんでした。

 私は、絶望しながら、誰か! とひたすらに心の、中で叫んでいたのです。

「その女房を、放しなさい!」

 聞き慣れた声を聞いて、私は、この時ほど、この関白殿下を、頼もしく思ったことはありません。

 関白殿下、助けて!

 私は、とにかく、必死で、目で訴えました。
 
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