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スウ

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月下に咲く

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「やっぱり俺、人間が嫌いだよ」

そう呟いた青年の体は、何本もの剣に貫かれていた。
剣先を伝い落ちる生命の血潮が、白亜の大理石を濡らし、足元に赤黒い海を広げていく。
無感動にそれを見つめた青年は、気力だけで顔を上げ、空に浮かぶ三日月を視界に収めた。

戦いの末に取り払われた天井から、雲ひとつない満点の夜空が顔を覗かせていた。
宝石を散りばめたような、煌煌とした世界。
かつての記憶と類似する輝き。

僅かに上がった口角は震え、大量に血を失ったために青年の瞳から急速に光が薄らいでいく。
下を向いた指先はピクリとも動くことなく、オールバックに固められた髪がはらりと目にかかり、澱んだ瞳が隠された。

熱を通り越し、痛みを感じなくなった肉体が、限界の悲鳴を上げる。

白みがかる意識の果てに、青年は、今はないかつての仲間の姿を幻視した。
茜色に染まった夕陽と、約束の丘に並ぶ彼らの背中。その中心で、こちらに向かって手を伸ばす最愛の友。

「ーー~ッ」

胸を掻き毟るほどの喪失感に、遠のきかかった意識が引き戻される。
だけれど、それは一瞬のことで、また思考にモヤがかかり始める。
青年はそれに悲しげな表情を浮かべるが、ゆるく頭を振り、顔を正面に向けた。虚ろな目は過去を見、口が自然と動く。

「■■■■■」

血と唾で噎せつつも、呪いにも似たそれを、手の届かない場所にいる仲間たちに向けて紡ぎきる。そうしてもう一度三日月を見上げ、薄く微笑む。

それを最後に、彼の体は糸が切れたようにグラりと揺れた。空を掴むように伸ばされた手は、何を掴むことなく、背中を地面に打ちつけて、四肢を力なく地に落とした。

美しい剣山が咲き、ステンドグラスから差す月光が、孤独な亡骸を柔らかく照らす。

程なくして、ピキリ、と壁に亀裂が走り、轟音と共に、彼は瓦礫に飲み込まれた。




XX日
報告:遺体の回収は不可。瓦礫に潰されたと推測される。また、例のものは発見出来ず。マジックアイテム等はドロップせず。引き続き、調査を進める。

蛇足:「■■■■■」とは、どういう意味か。


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2018.05.05 ユーザー名の登録がありません

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