119 / 127
裏通りにヤクザがいた
しおりを挟むマサキは、自嘲するかのように笑ったり、さぞ嬉しそうに笑ったり、悲しそうな顔を作ったりしながら、語ってくれた。
勇者召喚と聞いてどれだけはしゃいだか。
魔王をすべて倒すまで元の世界には帰れないと聞いて、どれだけ泣いたか。
王に魂を縛られ、逃げることが出来ない苦しみ。
人々から押しかけられる期待が、どれだけ重いか。
自分では抑えきれないストレスを、無意識にクーフーリンに向けてしまっていた事。
すべてを聞き終えた後、マサキは憑き物が取れたかのような顔をしていた。
私は顎に手を当て、目をつぶる。
ふむぅ。
マサキの話が本当なら、王様めっさ悪い奴じゃん。勇者を逃げられないように魂に呪いをかけて縛るとか。
心臓をいつでも握り潰せますよ、的なのですな。
恐ろしい王様だ!!ブラックリストに入れておこう。
黙り続ける私に、マサキは不安を覚えたのか、声をかけた。
「あー…今の話重かったよな?ごめん」
「ん?いや、大丈夫。あのさ、魂に呪いがかけられてるって言ったじゃん?アレって、どこかに印とかあるの?」
何でこんな質問をしたかというと、純粋に魂の呪いというものに興味があったからだ。
魂の呪いって、胸のあたりに禍々しくてカッコイイ印があるのが定番じゃん?それを見てみたくてさ。
マサキは私の言葉に頷き、胸元のボタンを外し、呪いの印がある場所を見せてくれた。
だけど、そこには何も無かった。
…やっぱりか。
私の【神域拡張】って、主要キャラにも効くんだね。これはチートというやつだ。チート万歳。
さて、呪いが解けてることをマサキに教えてもいいのだけど、このままじゃあ面白くない。
王様にも一泡吹かせてやりたいし。
もう暫くは呪いのことは秘密で、いざという時に、カッコつけて教えてあげよう。
うん、そうしよう!
ふわぁ、口からと漏れる欠伸を抑え、視界端にある時計を見る。
18時か。
まだまだ早い時間だけど、今日はすごく眠い。
という訳で、私は、ある程度打ち解けた清々しい顔のマサキを部屋から追い出し、ログアウトするためにベッドに飛び込んだ。
翌日、私は世界ガチャで出た装備を、ベッドの上に並べ、悩んでいた。
大太刀が二本。
剣が二本。
大槍が一本。
二丁拳銃が一丁。
槌が一つ。
大盾が一つ。
兜が一つ。
キューブが一つ。
どれを装備していくべきか。
…兜は今のところ必要ないし、仕舞っておこう。
ラムにでもあげようかな。似合いそうだ。
盾は…うん、これも今のところいいかな。
まぁ、使う機会がほとんどないだろうし、こちらはテキーラにあげよう。これは身を守るには最高の一品だから、喜んでくれるに違いない。
漆黒の兜と、黄金に輝く大盾を、アイテムボックスに仕舞う。
残るは8つの装備。
うーん…性能的には、全体的にチート。
どれを選んでもいいのだが、どれも選びたい。
くっ、どうせなら全部装備したいところだけど、動く時に邪魔になるからさすがに駄目だ。
悩みに悩んだ結果、私は5つの装備を渋々手にした。
二丁拳銃を太ももに着いているベルトポーチに入れ、大太刀を2本とも右腰にさす。
そして、二本の剣を左腰に。
残った大槍、槌、キューブはアイテムボックスに仕舞う。
君らを使うのはまだまだ先になりそうだ。
【幻想】を使い、武器を短剣に見えるよう調節し、私は部屋をあとにした。
人が賑わう大通りではなく、私達4人は人の気配が全くしない裏通りを進んでいた。
4人とは、マサキ、茜、クーに私のことである。
ミーシャとリサーナは、茜のお使いで道具屋に行っている。対女帝戦に向けて、呪いよけの道具を買いに行っているらしい。
私がいれば呪いにかかることは無いけど、万が一億が一のこともあるかもだし、私のスキルはまだ秘密にしてる。
とても申し訳ないが、お金の出費が痛くない心の広い勇者なら、許してくれるはずだ!
そう、許してくれるに決まってる!
グッとガッツポーズを決めていると、横にいるクーが、哀れ、という目で私を見てきた。
そんな目で私を見ないでおくれ。
何か罪悪感が増す!
クーの視線から逃げ、私は辺りを見渡した。
ジメジメしてる。
あまり日が入って来ないのか、苔も繁殖している。
そういえば、前に一度、ここでない裏通りを、ジンと一緒に進んだっけか。懐かしい。
あの時は、グルグルと回る迷路のようで、しかもお化けがいそうで気が気でなかった。
私が思い出に意識を飛ばしていると、
「ついたみたいだ」
と、マサキが地図から顔を上げた。
古ぼけた看板に、所々朽ちているベニヤ板。
元は金で覆われていたであろうドアノブは、赤銅色の錆に変化していた。
店は開店しているのか、扉の隙間から明かりが漏れている。
第一印象は、ボロい、汚い。
【生活魔法】掛けてよろしいでしょうか?
せ、せめてドアノブだけでもっ!
私がそう志願しようとする前に、マサキは普通にドアノブを回した。
…マジか。
マジですか、マサキ君。
私は、今日一日マサキに触れないでおこうと決意した。
店内に入ったマサキと茜に続き、私もあとに続こうとしたその時、鼻に独特な血の匂いが掠れた。
バッと振り向き、入り組んだ路地裏を凝視すると、何かが動く気配が。
むむ…どうするべきか。
このまま勇者達について行くのが物語の本筋にそうものだと思うんだけど。
イレギュラーな展開に進むのもまた一興。
チラリとクーを見ると、クーも何か気づいているようだ。
うむ、話が通じるようで何より。
てことで、伝言役を頼むことにした。
「クー、私ちょっと急用思い出したから、マサキと茜に伝言宜しくね!」
「は?おい待てッ」
クーが手を伸ばすが、それに捕まる私ではない。
ヒョイッと避け、フードを被って路地裏を駆けた。
残されたクーフーリンは、文字通り消えたるしが駆けて行った方を見て、溜息をつく。
文句を言うであろう二人の勇者にどう言い訳をするか、痛くなる頭を抑え、店に足を踏み入れた。
十字に分かれ、複雑に入り組んでいる路地を匂いを頼りに進む。
次に見える角を左に曲がった瞬間、ムッとした血の匂いが強くなり、血だまりが広がっているのが見えた。
相当な出血量。
その中心に、壁にもたれかかるようにして息を潜めているグラサンをかけたオールバックの男。
うん、この世界のYA・KU・ZAかな。
早めに治療しないと手遅れになりそうだ。
「大丈夫ですか?」
いきなり目の前に現れた私に反応しない。
ふむ、かなりやばい状況だと見た。
取り敢えずハイポーションを振りかけ、胸に耳を当てる。
弱々しいが、ドクンドクンと動く心臓音。
生きてる…ね。良かった、安心した。
そっと抱き起こす。気絶しているのか、呻き声すら立てない。
一丁前のグラサンはひびが入っていたため、抱き起こした時にパキンと音を立てて割れた。
…断じて私のせいではない。
最初からヒビが入っていたんだよ!
本当だからね?
ともかく、衛星の悪い路地裏に放置しておくわけにも行かないし、一旦宿屋に連れていこう。
ぐったりした男をお姫様抱っこし、再びフードを被る。
お、重い。
リアルな私なら絶対にお姫様抱っこ出来なかったわ。
それにしても、怪盗一式を装備してこの重さ。
ベリト風に言うなら、此奴、只者ではないな?だ。
だからと言って、置いていくなんて真似はしない。
助けるならば最後まで、面倒を見てやろうじゃないか!
それに、グラサン割っちゃったし。
私は翼さんを出し、宿屋に向かった。
0
お気に入りに追加
1,318
あなたにおすすめの小説
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
異世界召喚された回復術士のおっさんは勇者パーティから追い出されたので子どもの姿で旅をするそうです
かものはし
ファンタジー
この力は危険だからあまり使わないようにしよう――。
そんな風に考えていたら役立たずのポンコツ扱いされて勇者パーティから追い出された保井武・32歳。
とりあえず腹が減ったので近くの町にいくことにしたがあの勇者パーティにいた自分の顔は割れてたりする?
パーティから追い出されたなんて噂されると恥ずかしいし……。そうだ別人になろう。
そんなこんなで始まるキュートな少年の姿をしたおっさんの冒険譚。
目指すは復讐? スローライフ? ……それは誰にも分かりません。
とにかく書きたいことを思いつきで進めるちょっとえっちな珍道中、はじめました。
チート級スキルを得たゲーマーのやりたいことだけするVRMMO!
しりうす。
ファンタジー
VRゲーム【Another world・Online】βテストをソロでクリアした主人公──────雲母八雲。
βテスト最後のボスを倒すと、謎のアイテム【スキルの素】を入手する。不思議に思いつつも、もうこのゲームの中に居る必要はないためアイテムの事を深く考えずにログアウトする。
そして、本サービス開始時刻と同時に【Another world・Online】にダイブし、そこで謎アイテム【スキルの素】が出てきてチート級スキルを10個作ることに。
そこで作ったチート級スキルを手に、【Another world・Online】の世界をやりたいことだけ謳歌する!
※ゆるーくやっていくので、戦闘シーンなどの描写には期待しないでください。
※処女作ですので、誤字脱字、設定の矛盾などがあると思います。あったら是非教えてください!
※感想は出来るだけ返信します。わからない点、意味不明な点があったら教えてください。(アンチコメはスルーします)
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。
音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。
その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。
16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。
後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。
ーOnly Life Onlineーで生産職中心に遊んでたらトッププレイヤーの仲間入り
星月 ライド
ファンタジー
親友の勧めで遊び、マイペースに進めていたら何故かトッププレイヤーになっていた!?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
注意事項
※主人公リアルチート
暴力・流血表現
VRMMO
一応ファンタジー
もふもふにご注意ください。
転生してもノージョブでした!!
山本桐生
ファンタジー
八名信夫40歳、職歴無し実家暮らしの無職は運命により死去。
そして運命により異世界へと転生するのであった……新たな可愛い女の子の姿を得て。
ちなみに前世は無職だった為、転生後の目標は就職。
他人の人生押し付けられたけど自由に生きます
鳥類
ファンタジー
『辛い人生なんて冗談じゃ無いわ! 楽に生きたいの!』
開いた扉の向こうから聞こえた怒声、訳のわからないままに奪われた私のカード、そして押し付けられた黒いカード…。
よくわからないまま試練の多い人生を押し付けられた私が、うすらぼんやり残る前世の記憶とともに、それなりに努力しながら生きていく話。
※注意事項※
幼児虐待表現があります。ご不快に感じる方は開くのをおやめください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる