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本戦当日
しおりを挟むピロリん。
『運営からのメールが1件あります。』
本戦のことについてかな?
『本戦出場おめでとうございます。
今回、本戦に上がられたプレイヤー総数は640人。これで日本上位640名が決まりました。
本戦はランダムに組まれた2人組で、自分が割り振られたブロックを勝ち残って頂きます。ブロックはA、B、C、D、Eブロックがあり、各ブロックで勝ち残った2人組が、本戦最終日に行われる準々決勝に出ることが出来ます。本戦最終日には、勝ち残ったプレイヤー達のペアを解消し、各ブロックの勝者達とごちゃまぜにしてから、また各ブロックに振り分け、1VS1のタイマン勝負を行ってもらいます。その際に、共にペアで戦ったプレイヤーとも戦うことになるかもしれませんが、そこは容赦なさらないように。この日は、準々決勝、準決勝、決勝を各ブロックより行って頂きます。ブロックは上記の通り、A、B、C、D、Eブロックに別れており、この各ブロック内で優勝した者が、晴れて世界戦に日本代表として出られるというわけです。
他に質問等がありましたら、運営までhelpメールをお願いします。
また、本戦の開会式は今日の午前10時から行われるので、参加していただけると幸いです。本日は羽休みということで、試合は行われません。十分に休息をとるなり、己のしたいことをして下さいませ。
るし様の明日の試合は午後一時からです。
パートナーは、会場についた際に分かるというサプライズも用意してありますので、ドキドキワクワクを体験なさって下さい。以上、運営からでした。』
平日に開催されるので、仕事があったり、まだ学業が続いている人は参加出来ないのではないかと疑問に思う人がいるだろう。
だが、心配は無用である。
なんと、昨年の12月にVRMMOの為の世界憲法が発令された。
憲法名は『世界休暇』。
それは、VRMMOに関する大きな大会があるごとに、その期間中は、会社や学業を休んで、大会に専念することが出来るという憲法だ。
その際には会社、学校等にプレイヤー名を申請しなければならない。
何故そんなことをするのかというと、虚言を言って、会社を休もうとする輩が増えるのを予防するためだ。
そんな憲法はデタラメだ。
と、思う人はもういない。
もし、自分の会社にいる人が大会で上位の成績を収めると、国からお金が支給されるのだ。
これに文句を言うものはいない。
ある会社では社員総出で大会の見物に行くらしい。
影では、国のトップ同士が大会があるごとに、多額の賭博を行っているとかいないとか。
そんな噂も絶えず流れている。
現在時は9時。
開会式には間に合いそうだし、一応出ておこうと思う。
「本戦は軍服使わないのー?」
「まだ使わないかなぁ。でも、ホンットに危なくなった時は使うかもね」
そう、軍服は最終奥義だ。
出来るだけ、使いたくはないなぁ。
「満月(みちづき)とか、ブラッディ・ローズとか、水精霊の扇剣は使わねぇのか?」
「一瞬使うかも」
「一瞬かよ!」
「だって、奥の手は最後まで隠し通すべきじゃん?」
「るしの言う通りだ。童(わっぱ)も少しは学べ。頭を使わなくてはな?」
「るし様。私、応援してますわ。多少の支援も…ふふ。」
「いや、応援だけで十分だから!」
ギムレットが何をしでかすかわかったもんじゃない。
ここは有耶無耶に頷かなくて良かった。
危ない危ない…。
「ヴィネ、対人お願い」
ヴィネは私の申し出に驚いたような顔をしている。
私だってやる時はやるんだよぉ。
本戦で無様な姿は見せられないからね。
「る…るし?あんなに嫌がっていたのに…いったい…まっまさか!対人練習をしすぎて頭が逝ってしまったのではないか?」
オドオドと私の額に手を当てるヴィネ。
いや、いたって正常ですから。
てか、自覚あるならもうちょっとくらい手を抜いてよね!!
「私、本戦出るからにはもっと頑張らなくちゃいけないと思うんだ」
ヴィネは驚きすぎて口をあんぐり開けている。
確かに対人練習はキツかったさ。
でも、女にもやらなきゃいけない時があるのだ。
「るしー?無理しないでー?」
「そうだぜ。無理すんな?」
2人とも!!ありがと!
お礼に抱きついたげる。
ギュー!!
ついでにネコ耳も。
はぁ、良き手触りですなぁ。
頭に襲いかかってくるであろう拳骨に備える。
・・・。
あれ?
どうしたんだウォッカ。
「が…」
「が?」
「頑張ったご褒美だからな!今日だけだぞ!!」
ツンデレですか?
ツンデレちゃんだったんですか?
触っていいんですね?
「じゃ、遠慮なく!」
さわさわ
さわさわ
さわさわ
「少しは遠慮しろぉぉぉぉ!!」
ウォッカの叫びが木霊した。
『選手の諸君っ!!よく予選を勝ち抜きここまで生き残ってきた!本戦はメールで届いたとおり、最終日以外、ダブルマッチ戦だ!!1回戦は明日の10時からだっ!!思う存分戦ってくれ!!』
『運営一同も応援してるわっ!!目指せっ日本1っ!!大丈夫!貴方達ならなれるわ!観客も貴方達のことを応援してる!!頑張れっ!勝利は目の前だっ!!』
「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」
いやぁ、本戦まで来れたのは奇跡のようだよ。
ホントに、冗談抜きで。
「るし、対人戦を我とやるか?」
「うん、お願い」
「私、お昼ご飯作って参りますね。お腹をすかせて待っていて下さい」
「うん、お願いね」
ガギィッ
剣先をぶつけ合う。
「今日こそは1本!!」
「まだまだぁ!!」
ヴィネは私の攻撃を避け、懐に入り込み、空いている手をチョキにして…
目に目潰し攻撃が入った。
それはスローモーションだった。
指が目に迫ってきた。
避けきれないっ、そう思った瞬間。
プチュッ
「ぎぃぁぁぁぁぁ!!!痛い痛い痛い痛い!!!ヴ…ヴィネェェェ。」
「ふっ…。秘技、目潰し。これは大会で使えるぞ?」
目を指で貫かれるのは一種のトラウマになる。
あの脳内で何かが弾けるような音が頭に響いて、耳から離れない。
激痛で頭がおかしくなりそうだ。
加えて何も見えない。
「ヴィネ…?ヴィネ、ヴィネ、ヴィネヴィネヴィネ?」
身体が持ち上げられる感覚がする。
そして、投げられ、宙を切る音が聞こえる。
ジャバンッ
湖の中に落ちた音が聞こえた。
水面に打ちつけられた衝撃で水が口と鼻の中に入ってきて苦しい。
「がぽごぼぼぽ…。」
溺死は苦しいって聞いた。
それは嫌だ。
怖いよ。
助けて…。
ザバッ
「げほごほッ」
「大丈夫か?るし」
視界が広がる。
湖から助けてくれたのはヴィネだった。
「ヴィネ?………」
「すまぬな。目を潰してしまったんで、回復の湖に投げ込んだのだが、汝が溺れ死にそうになっていたのに気づいたのだ。本当にすまなかった」
…。
ギュッ
ヴィネに抱きしめられる。
涙が溢れてくる。
「…目潰しは酷いよぉぉぉ。じぬがどおもぉったぁぁ。私はいぎぃかえるがもじれないけどぉ、それでもぉ、じぬのは怖いんだよぉぉ」
ヴィネはハッと目を見開く。
「るし…すまぬ。やりすぎた」
「ヴィネ?貴方、るし様に何をなさったのです?」
地が震えるような低い声が響く。
顔を蒼白にし、冷や汗をたらたら流して振り返るヴィネ。
「げっ…ギムレット!い、いや…これはだな?」
「言い訳は聞きませんっ!!るし様を泣かせるなんて…そのような大罪、許されるべきことではありません!!」
ピシャリと言い放つギムレット。
目が充血していて怖い。
「すまぬっ!!」
「問答無用っ!!」
これはヤバイ。
一国を滅ぼすような戦いが始まってしまいそうだ。
止めなくては。
「ぎ…ギムレットぉ。私が悪かったの…。私が、フグッ弱かったがらぁ。?…ううっ。」
あ、思い出したら、涙が出てきた。
「ヴィネ…貴様っよくもっよくもぉぉ!!」
「ギムレット!!いいの。私が…悪いのぉ」
「るし様っ。…ここはるし様に免じて許してあげます。ヴィネ、しかと反省しなさい」
「わかっている。すまなかったな。るし」
「??ん。私が悪いのぉぉ」
ひしりと3人で抱き合う。
遠くの方で見ていた2人は。
「何やってんだ?アイツら」
「わかんなーい。なんかるしが泣いてるね」
ウォッカはサッと立ち上がる。
「るしを泣かすなんて、誰がやったんだ?」
「わかんなーい、でも、ヴィネとお姉ぇさんだったら、手も足も出ないねー」
何とかウォッカを止めるジン。
「そ…そうだけどよ。……俺も強くなんなきゃな」
「ん?なんか言った?」
「な…なんもいってねぇよ!」
「変なのー」
ウォッカは強くなる目的を再度見直したのだった。
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