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喪失感
しおりを挟む今日は何をしようか、と考えるまもなく、ウォッカから声が上がる。
「フィールド2は?」
そうだった。
フィールド2を開放したんだった。
「じゃ、新しいフィールドに行こか!」
「おー!」
「腕が鳴るな。」
このメンバーなら大丈夫だろうと、私達は第一の街を出た。
この時、私は自惚れていたのだ。
自分の力を過信して、慢心していたのだ。
第二の街に行くには、南にある洞窟を抜けなければならないらしい。
そこを抜けると、目の前に第二の街が広がっているとかいないとか。
ま、実際に行ってみればわかるんだけどね。
私達は今、徒歩で第二の街を目指している。
翼を使うとすぐに洞窟まで行けてしまうため、面白くないのだ。
それに、進化したジンとウォッカが可愛すぎて、道中はゆっくりと行きたいのだ。
道なりに進むと洞窟に着くので、約1時間かかるか、どうかだから、あまり時間は気にしていない。
スライムをスパスパと器用に切っていく2人を私は観察していた。
やっぱり、人に近くなったからか動きがすごい滑らかになった。
何よりも、可愛い。
「るしも手伝えよ!」
「あ、ごめん!見惚れてた!」
「「恥ずかしいから辞めてっ。」」
いやぁ、喋れるって楽しいね。
わいのわいのしているうちにあっという間に洞窟に着いた。
「早かったね。」
「うん。」
「だな。」
洞窟は見たところ縦4m、横3m程といった広さだ。
中は暗くてジメジメしていて近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。
私が拠点化する前の暗夜の森のようだ。
お化けとかゾンビ…アンデッドが居たらヤダな。
「い…いくよっ。」
「うん。」
「おう!」
剣を構えながら闇の中を進む。
真っ暗だし、怖いけど、私達なら大丈夫でしょ。
フィールドボスだって、簡単に倒せるようになったんだし。
カタカタカタカタ
「…。」
カタカタカタカタ
「…るし、なんか聞こえない?」
「き…きき気のせいだよっ。」
カタカタカタカタ
「おい、るし。幻聴じゃねぇぞ。」
人魂が見えた。
それは一つではなく、視界を埋め尽くすほどいた。
カタカタという音、人魂、私はその二つのキーワードからある答えを導き出した。
「スケルトンだ!!2人とも、気をつけて!」
ガキンッ
カタカタカタカタ
直後にウォッカがいたであろう場所から剣を交える音が響いてきた。
続いてジンの方からも。
カタカタカタカタ
デタラメに剣を振り回すことは出来ない。
大太刀は刀身が長く、無闇矢鱈に振り回すと、ジンやウォッカに傷を負わせることになる。
ここは感で凌ぎ切るしかない。
構えている大太刀を前に振る。
バキッべキッ
骨の折れる音が聞こえる。
変な感触だ。
1体は倒したようだけど、彼方此方(あちらこちら)からカタカタカタカタという音と、骸骨が近づいてきていることを目の窪みにある人魂が、語っていた。
一旦ここを離れようと、1歩後ろに足を出した時。
カチッ
スイッチを踏んだ音が私の耳に聞こえた。
「あ。」
直後、身体全身を貫かれたような激痛が走る。
「…カハッ。」
あまりの衝撃に息が詰まり、眼の焦点がズレる。
頭がチカチカして、生暖かい鉄の味がする何かが口から出てきた。
何が起きたの…?
理解が痛みに追いつかない。
私の手は理解しようと、痛みを無視して身体に触れようとする。
と、体に触れる前に指先に痛みが走った。
視線を落とすと身体中を何本もの剣が貫通しているのが見えた。
焦り、戸惑い、困惑する。
どうしようどうしようどうしよう。
このままでは死んでしまう。
痛い…痛いよ。
初心者装備の防御力は0。
私はポイントを運以外には振っていないため、HP、MP以外は全て0。
見る見るうちに体力が減っていくのが見える。
そして、血が剣を伝ってダラダラと抜けていく感覚もする。
感覚機能が麻痺して痛みを感じることが出来なくなってきた。
ヤバいな。
ジンとウォッカは無事だろうか。
私のせいで死んでしまってはいないだろうか。
心配だ。
生きていて欲しい。
目前には鈍い輝きを纏った剣がゆっくりと迫ってきているのが見えた。
そして、それは私の首を捉え、私のHPは砕け散った。
ガヤガヤとした人の声が耳に響いてくる。
うっすらと目を開けると、私は広場の「死に戻りの石」の前にいた。
自分が死ぬ瞬間が何度も何度も思い出される。
呼吸が荒くなる。
歯のカチカチが止まらない。
怖かった。
痛かった。
寂しかった。
……。
……。
ハッと我に返り、ジンとウォッカを探す。
「ジン?ウォッカ?」
「るし?ここにいるよ。」
「どうした?」
足元から声が聞こえてきた。
良かった。
「2人とも…無事だったんだね。」
これは私の慢心が起こした結果のデスペナルティ。
私1人が死に戻ったなら、それでいい。
「ん?僕、死んじゃったんだけど、生き返ってたの。」
「俺もだ。」
「こう、ズハズハズバッて身体に剣が刺さって痛かったなー。」
「だな。ちょっと焦ったぜ。」
「僕達死んだはずなのに生きてるね。不思議~。」
「ホントに不思議だ。こういうことってあるんだな。」
…。
ごめん。
ごめんなさい。
私のせいで2人ともデスペナルティを貰ってしまって。
私がろくな装備も揃えずに、自分の力を過信して進んだから…。
ちゃんと事前に情報をもっと集めなかったから…。
足が震えて崩れ落ちてしまう。
力が入らない。
目の前が暗くなる。
「ご……ごべんなざい…。」
「え?るし、何でなくの?」
「な…泣くなよ!女だろ!」
ジンとウォッカはあわあわして、互いに顔を見合わせる。
そして頷きあい、ポンポンと2人が私の頭を撫でる。
「止めて…私が悪いの。そんなに優しくされたら…2人にもっと頼ってしまう…。ごめんなさい…ジン、ウォッカ…。痛かったよね、怖かったよね、苦しかったよね…ホントにごめん…。」
「何言ってんだ。もっと俺らに頼れよ。るしがそんな悲しい顔してると、俺らはもっと悲しくなるよ。」
「そだよ。るし、泣かないで?クレープ食べたら、笑顔になれるよ?」
「そ、そうだよ!たこ焼き食べようぜ?」
…。
私はこんなに小さい仲間に頼ってしまおうとしている私が許せない。
でも、少しだけ、ほんの少しだけ、頼ってもいいかな?
「2人とも、ありがと。」
「お、おう!!ここにずっと居たら通行人の邪魔になるだろうし、ベンチ座ろーぜ?な?」
「そうだねー。あっち行こ?」
…。
気をつかってくれてありがと。
確かに、チラホラと視線が飛んでくるよね。
私のせいでごめん。
3人がけのベンチに3人でちょこんと座り、右はクレープ、左はたこ焼きを食べて、フワフワとした笑を浮かべている。
「2人とも、さっきはありがとう。ちょっと元気でた。」
「よかったー。るしは心配しなくていーんだよ。僕は、るしの為なら何回だって死ねるよ?」
「俺だって。るし、安心しろ。俺達が死んでもるしを守ってやるからな。」
「えっ!?死なないで!そんなに死を軽く見たら、いつか後悔するよ。だから、死ぬのダメ、絶対。私、泣いちゃうよ。」
アカン。
この子ら、忠義の気持ちが強すぎるよ。
死ぬのはダメ。
絶対にダメ。
怖いし、寂しいからね。
…リアルで死ぬ時はあんな気分になるのだろうか。
「あー。心がスカスカするよー。」
「俺も。…死んだからかな?」
「私もスカスカする。」
喪失感、という感じのやつが、私達の心を占めている。
こう、心にすっぽりと穴が空いたかのような感じだ。
気晴らしに何かしたいな。
「2人とも、何かしたいことない?」
「ないー。スカスカするしね。」
「俺も。たこ焼き食ったからもういいや。」
そっか…。
私も2人を見てるともういいかなって思うけど。
スカスカは無くならないなぁ。
「おい、またアドラーだぜ。」
「ほんと、不思議だよなぁ。死んでも死んでも生き返る。ゾンビにならないで、そのまま人間に生き返るんだぜ?少し不気味だな。」
「そうか?俺的には、死なないし、命の心配をしないでどこにでも行ける利点があるからいいと思うぞ。」
そう、この世界の住人達は私達プレイヤーの事をアドラー、冒険者と呼ぶ。
プレイヤーは死んでも生き返ることを当たり前としているが、ここの世界の住人、NPCにとっては、少し不気味なことなのかもしれない。
NPCは死んだらそのまま、リアルの私達同様、生き返ることはないのだから。
それにしても、今話していた人達の服、かっこいい服だったなぁ。
…あ、服といえば、ジンとウォッカの服はゴブリンの時から変えていなかったね。
じゃあ、気分転換に服を買いにいこう。
あと、防具と武器の予備も買っていこう。
お金の予備はちゃんとあるから。
慢心はデスペナの元ってね。
「2人とも、服買いに行こ?」
「んー?いーけど?」
「どうしたんだ?いきなり。」
「気分転換しに、ね?」
私達は喪失感を紛らわすかのように服屋に向かった。
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