増幅使いは支援ができない

aaa

文字の大きさ
上 下
32 / 100
能力

『増幅』

しおりを挟む
 俺は、なんとか立ち上がり。


「……しぶといな、起きたか」

遠くから山本の声が聞こえるが、気にせず。



「『増幅』」



目を閉じ、心臓の横に手を当てて、そう唱える。

魔力が、俺の中に広がるのを感じた。


「おい、聞いてんのか!」


「『増幅』、『増幅』、『増幅』……っ!」


繰り返し、唱えていく。

魔力が俺を圧迫して、気分が悪くなる。

気を抜いたら、倒れてしまいそうだ。


「……チッ、お前ら、やれ」

こちらへ向かってくるような、足音が聞こえる。


「『増幅』『増幅』『増幅』『増幅』『増幅』『増幅』『増幅』『増幅』『増幅』『増幅』『増幅』『増幅』『増幅』『増幅』『増幅』『増幅』」


俺は構わず、詠唱を重ねた。

途中から俺の身体を、魔力が壊していくような、そんな感覚が襲う。


だが、構いやしない。

今この時、山本に勝てるのなら。

『覚悟』はもう、ずっと前から決めてある。



何回唱えたか分からない程に唱えた時、近付いてくる存在を感じて、目を見開いた。


「……おら!」


気付くと、前からまた二人組が襲ってきていた。

一人がこちらへ、剣を振るってくる。


「『纏』」


魔力を纏う。

……こいつらには、あまり構ってられない。


「っな!」


気のせいか、あまり力が入ってないその剣を片手で掴んで、奪う。

そのまま剣を無くした奴に胴へと一閃。

そいつはそのまま踞る。

もう一人は、俺の目の前で震えていたため無視。

俺は二人が何もして来ない事を確認してから、剣を捨てて前を見る。


「……チッ、もういい、ウォーター!」


山本の杖に、魔力が宿っていく。


「『増幅』」


俺は最後にもう一度、唱える。


「『我に力を。敵に破壊を。天地を駆けるその存在よ、この手に集え』」


山本は、先程とは違う詠唱を。


俺は、ポケットからライターを取り出し、身体に宿る膨大な魔力を注ぎ込み、着火。

同時に、激しく燃える、赤い炎が現れる。


「『其の形を大いなる波とし、敵を覆い尽くさん』」


続けて詠唱を行う山本。

一方の俺は、目を瞑りイメージする。


――俺が望むのは。


普通の火ではない。


燃え盛る、真っ赤な炎ではない。


火柱のような、立ち昇っていく、大きな炎でなくていい。




――ただ、俺が望むのは。



『水』でさえも燃やし尽くす、そんな火。



俺は、目を開ける。




――ライターには、蒼い、蒼い小さな火が宿っていた。




「『タイダル・ウェーブ』……は、はは、死ね!藍!」


幾多の数の水球が弾け、膨大な水が生まれる。

同時に、先程と比較にならない程の、大きな波となり。

俺を、覆い尽くさんとばかりに迫ってくる。


「『纏


……違う、このイメージじゃない。

唱えてから、溢れ出ていく魔力。


それを止めて、思考する。


――この蒼き火を、俺の『身体』に。


ならば、そのイメージは。




それならば、唱える言葉は。




「『付加エンチャント』」


イメージと言葉が絡まり合う。


その瞬間。


蒼い火が俺を覆い尽くし、消えていく。

気付くと、身体のあちこちから蒼い火が燃え上がっていた。

熱は感じるが、苦痛ではなく。

力が溢れてくるような、そんな感覚も感じる。

また、魔力が尋常でないスピードで減っていることも。


その感覚を確かめてから、俺は迫りくる水の壁に向かって、歩く。


……怖くないわけがない。


この水に押し潰されてしまったら?

あっけなく、負けてしまったら?

この方法は本当に、正しいのか?

不安なんてものは、底から幾らでも湧いてくる。



――でも、俺には。



守りたいと思う、存在が。

勝ちたいという、信念が。

父さんがくれた、この火が。


俺は今、全ての恐怖を凪ぎはらって駆け出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ゆったりおじさんの魔導具作り~召喚に巻き込んどいて王国を救え? 勇者に言えよ!~

ぬこまる
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれ異世界の食堂と道具屋で働くおじさん・ヤマザキは、武装したお姫様ハニィとともに、腐敗する王国の統治をすることとなる。 ゆったり魔導具作り! 悪者をざまぁ!! 可愛い女の子たちとのラブコメ♡ でおくる痛快感動ファンタジー爆誕!! ※表紙・挿絵の画像はAI生成ツールを使用して作成したものです。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

俺の職業は『観光客』だが魔王くらいなら余裕で討伐できると思ってる〜やり込んだゲームの世界にクラス転移したが、目覚めたジョブが最弱職だった件~

おさない
ファンタジー
ごく普通の高校生である俺こと観音崎真城は、突如としてクラス丸ごと異世界に召喚されてしまう。   異世界の王いわく、俺達のような転移者は神から特別な能力――職業(ジョブ)を授かることができるらしく、その力を使って魔王を討伐して欲しいのだそうだ。 他の奴らが『勇者』やら『聖騎士』やらの強ジョブに目覚めていることが判明していく中、俺に与えられていたのは『観光客』という見るからに弱そうなジョブだった。 無能の烙印を押された俺は、クラスメイトはおろか王や兵士達からも嘲笑され、お城から追放されてしまう。 やれやれ……ここが死ぬほどやり込んだ『エルニカクエスト』の世界でなければ、野垂れ死んでいた所だったぞ。 実を言うと、観光客はそれなりに強ジョブなんだが……それを知らずに追放してしまうとは、早とちりな奴らだ。 まあ、俺は自由に異世界を観光させてもらうことにしよう。 ※カクヨムにも掲載しています

処理中です...