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 セレンが生まれ育った娼館にいた用心棒の息子、それがリュートだった。

 年が近いこともあり共に育った二人は、いつも一緒にいた。

 汚れた世界に囲まれていたセレンとリュートにとって、お互いだけが信頼できる相手だったのだ。

 強くてまっすぐなリュートはいつだってセレンを守ってくれた。

 いつか大人になったら結婚しよう。二人でこの国を出て、平凡だけれど幸せな人生を生きよう。そう約束したのに。



 セレンは母親が死ぬまで自分の父親が国王だなんて知らなかった。

 気まぐれにしか通ってこない父親のことは好きでも嫌いでもなかった。

 ほかの娼婦のように沢山の客を取らなくてもいい母の境遇は、回りに比べて幸運だとさえ思っていたのに。



「私、王女なんかになりたくなかった。ただのセレンとして生きていたかったのに」

「うん」

「ずっとリュートの傍にいたかったのに」

「ああ」



 母の葬儀が終わったあの日、突然高級な馬車が娼館の前に横付けされた。

 何ごとかと騒ぐ人混みをかき分け現れた見知らぬ気取った男は、驚いて固まるセレンを見つけると、不快なものを見るかのように眉をひそめた。



『お前は幸運にもこれから王宮に行けるんだ。ここよりはずっとましな暮らしができるぞ』



 決定事項として告げられた言葉に反論する暇などなかった。

 屈強な騎士がセレンを抱え上げ、馬車に押し込めようとした。

 隣にいたリュートはずっとセレンの手を握っていてくれたけれど、大人の力に叶うわけがない。

 殴られ蹴られ地面に転がったリュートの姿に「もうやめて」と叫ぶことしかできなかった。

 大人たちは、セレンが従えばもう手を出さないと約束してくれたのだ。



「あの日、目が覚めた時にはセレンはもう連れ去られたあとだった。オーナーが何があったのか全部教えてくれたよ。俺を守るために、ここに来てくれたんだよな」



 涙のせいで言葉がつっかえて、がむしゃらに頷くことしかできない。



「どうやったらセレンを取り戻せるか、ずっと考えてた」

「……だから騎士になったの?」

「俺は腕っ節だけには自信があったからな。店の姐さんたちも協力してくれたよ」



 優しい家族の姿を思い出し、セレンは新たな涙を溢れさせる。

 たしかにひどい場所だったが、あの娼館こそがセレンの故郷なのだ。




 腕を緩め、リュートと向き合う。

 最後に言葉を交わしてからもう7年以上も経ってしまった。お互いに成長したが、あの頃の面影はちゃんとのこっている。

 肉がそげ精悍な顔つきになったリュートの頬にそっと手を伸ばして撫でれば、いくつもの傷跡があることが感じられた。

 ここに来るためにどれだけの危険を重ねてくれたのだろうか。



「だからってドラゴンを倒すなんて……やりすぎよ。もし死んでいたらどうするの」

「セレンに会うまで、俺が死ぬわけないだろう」



 リュートという凄腕の騎士がいるという噂が耳に届くようになったのは4年ほど前からだろうか。

 伝え聞く姿からもしかしてとずっと胸を焦がしていた。

 後宮に閉じ籠もっていたため直接正体を確かめることはできなかったが、きっとそうだと確信していた。

 褒賞として求められたと知った時、本当に嬉しかった。

 だからこそ、一晩だけという条件をつけられたことが悲しかったのだ。

 でもその理由も、今はわかって。



「無茶ばっかりして……!」

「セレンを手に入れるためなら、俺は神様だって殺してみせるよ」

「ばか」



 こんなにも愛し続けてくれていたなんて。

 幸せで胸がいっぱいになる。

 たまらなくなってもう一度ぎゅっと抱きしめれば、お腹のあたりに何か硬いものが触れるのがわかった。

 軽く身体を離して視線を落とせば、リュートの下半身が硬く立ち上がっているのが見える。

 その先端がじわりと色を変えていることに気がつき、セレンは狼狽えながら視線を泳がせた。



「だって……やっとセレンに会えたんだぞ……しかもこんな格好で」



 気まずそうな声でリュートがなにやらもごもごと呟き始めた。

 さっきまでのかっこよさはそのままに、どこか少年のような姿に微笑ましい気持ちがこみ上げてくる。



「慣れてるんじゃないの……?」

「ばか言え!!」

「ひゃっ!」



 ころんと背中からベッドに落とされる。

 仰向けの状態になったセレンにのしかかるような体勢で見下ろしてくるリュートの顔は、間違いなく雄の表情をしていた。



「ずっと、ずっとセレンだけを想ってた。他の女なんていらない」



 見つめてくる凄みのある表情にくらくらする。

 騎士として活躍してきたのならば、沢山の女性に囲まれてきたに違いないのに。



「もう我慢できない」



 唸るような声にお腹の奥がきゅんとなる。

 何もされていないのに、下半身が熱を持ち蕩けていくのがわかった。



「私をリュートのものにして」



 迎え入れるように両手を伸ばせば、リュートが低く呻いて着ていたシャツを脱ぎ捨てた。

 現れた肉体はやはり鍛え上げられていて、無数の傷に覆われていた。

 切なさと喜びがない交ぜになって、止まっていた涙がまたにじむ。



 優しく重なってくる唇の感触に合わせて目を閉じた。

 涙で濡れたせいで最初はしょっぱかったけれど、何度も何度も角度を変えて口づけをし合ううちに、甘い唾液が味覚を痺れさせる。



「んっん……」



 啄むように唇を吸われ口を開けば、ぬるりと舌が入り込んでくる。

 口の中を舐め回され、歯の裏側を舌先でなぞられる。追いつかずに縮こまった舌を絡め取られて吸い上げられた。



「は……」

「セレン。愛してる。ずっと愛してた」



 キスの合間に告げられる告白に頭の芯がずんと重くなる。

 リュートの髪に手を伸ばし、硬い髪をかき分けるようにしてその頭を抱きしめた。

 ずっと触りたかった。もう一度触れられるなら死んでもいいと思うくらいに愛していた。ううん、この先もずっと愛している。

 キスや手のひらから、この想いが伝わればいいのに。そう願いながら唇が痛くなるまでキスを交わした。

 酸欠でぐったりとシーツに沈み込んだ身体を、リュートの大きな手がなで回していく。

 レースごしに伝わる体温が心地よくて身をよじれば、嬉しそうな吐息が耳を撫でる。



「これ、俺のために着てくれたの?」

「ちが……あっ……」

「すごい。透けてるからどこになにがあるか全部見える」

「やっ……!」



 胸の膨らみを確かめるように動いていた指が、淡く色付いた先端をつついた。

 痛いほどに硬くなったそこの形を確かめるように撫で上げられると、切ない痺れが身体の中を駆け抜ける。



「おいしそう」

「は、うぅんっ」



 ぱくりと布ごと咥えられて吸い上げられる。

 直接ではない刺激がじれったい。舌の腹で押しつぶすように舐められて、甲高い喘ぎが溢れてしまう。



「やっ、なん……んっ!」



 強すぎる刺激が怖くてリュートの肩を押してみるが、力の入らない手は逆に甘えるみたいにしがみつくことしかできなかった。

 もう片方の先端は指先で捏ねられたり引っ張られたりと散々に弄ばれている。

 胸しか触られていないのに、下半身はもうぐずぐすだった。


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