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本編
第四十四話 王都での日々③ー3
しおりを挟む「リア、あとはこっちにあるクリームチーズを手でちぎって適量を皿に乗せるだけだ」
「これでもう完成なの?」
「あとはドレッシングを作ったらサラダは完成だ」
そして、ノアに計り方を教えてもらいながらドレッシングも作った。
レモン汁とオリーブオイル、塩とブラックペッパーだけの見た目はシンプルだけれど、決して素材の味を邪魔しないドレッシングが完成した。
先程カットしたミニトマトとアボカド、そしてクリームチーズをそれぞれの皿に盛り付け、サラダは無事完成した。
後は食べる際ドレッシングをかければいいだけだ。
「次はメインの卵料理“チーズ入りオムレツ”を作る。もうナイフは使わないけど、今度は火を使うから火傷しないように気をつけろよ」
「ええ、気をつけるわ」
「じゃ、まずは卵を割るんだがこれも俺が先に手本を見せる。最初は難しいかもしれないが、慣れれば簡単に出来る様になるから大丈夫だ」
「ちゃんと見て覚えるわ」
実を言うと私はチーズオムレツが大好物だった。
その大好物の料理を自分の手で作れると聞き、今とても心が弾んでいる。
「まずボウルを用意する。で、卵を割る時は平らな場所に卵の中央を軽く打ち付けてヒビを入れる事。この時強く打ちつけすぎると完全に卵が割れるから力加減は気をつける。とりあえずここまでは大丈夫か?」
「ええ、力加減に気をつけるのね。分かったわ」
「この次は殻割れ目に両手の親指を入れる。で、ボウルの上でそのままゆっくり左右に開く。そうすると中身がボウルの中に入る。どうだ、出来そうか?」
「一回挑戦してみたいわ」
「よし、じゃあ俺も横で一緒にやるから挑戦してみよう」
ノアが横でもう一度卵を割るのを確認しながら私も先程教えられた様に卵を割る。
でもノアはさっき簡単に割っていたのに、私は“力加減”が分からず全然ヒビが入らなかったり、かと思えば力の入れすぎで卵を潰してしまったりした。
「力加減が難しいわ……どうしたらノアみたいに綺麗に割れるのかしら?」
「こればっかりは何回も練習するしかないな。でも焦る必要はないからな。例え殻が混ざったとしても取り除けばいいんだから」
「分かったわ。私もう一度挑戦してみる」
結局私か割ったのは三つだったけれど、全て綺麗に割る事は出来なかった。
でも私にはまだ機会がある、また挑戦しようと思い、落ち込むよりもこれから先の料理に希望を抱いた。
「後はこの卵に塩、コショウ、マヨネーズを入れて混ぜる。あ、調味料は好みの量でいいからな」
「ええっと、このくらいでいいの?」
「ああ、大丈夫だ。あとはこんな感じで中身が混ざるように混ぜてくれ」
「こんな感じでいいのかしら?」
「お、上手じゃないか。じゃ卵は一旦置いておいて、次はフライパンの準備だ」
私たちの後ろにある火口に向き直り、ノアはスキレットに油を注ぎ、そのまま火口にセットした。
「火が弱いと卵が張り付くからスキレットはしっかり温めるのがコツだ。で、温まったら卵液を流し込む。全部流し入れたらこうやってスキレットを奥、手前に揺する。で、外側の固まってきた卵をスパチュラで内側に入れる様に動かして半熟のスクランブルエッグ状になるまで火を通すんだ」
ノアの説明はとても分かりやすいのだけれど、今の私はノアが焼いているオムレツに釘付けだった。
(液体だった卵が形を作っているわ)
(本当に料理って魔法みたい)
「ある程度火が通ったらチーズを卵の中央より少し上にずらしてセットする。さぁリア、あと少しで完成だ」
「凄いわ……」
ノアは手際良くスパチュラでスキレットの側面を一周なぞって綺麗に卵をはがした。
そしてスキレットを手前から奥に傾け手前側の卵をスキレット奥にたたみ、反対側の卵も同じように綺麗にたたんだ。
「ほら、チーズオムレツの完成だ」
ノアが作ったチーズオムレツは今みで見たどの料理よりも輝いていた。
私は全然活躍出来なかったけれど、それでも自分で初めて最初から作ったという事実がとても嬉しかった。
「さ、冷めないうちに食べようぜ」
「ええ、早く食べましょう!」
食器をセットして、二人で向き合って食べる。
こんな些細な事が、どうして私は涙が出る程嬉しいんだろう。
「リア、初めての料理はどうだった?」
「とっても楽しかった!私、また何度でも挑戦したいわ!」
「ははっ、楽しいと思えるのはいい事だよな。またいっしよに作ろう。俺が何度でも教えてやるから」
「約束よ?」
「ああ、約束だ」
……約束。ノアにとっては些細な事かもしれない。
でも私には心が震える程嬉しかった。
ノア、私本当は――、
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