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本編
第三十五話 未来へ馳せる思い③
しおりを挟む「テキトーに持ってきたから食べれる物だけ食べてくれ」
「ありがとう」
そう言って差し出された食事は不思議とどれも私の好物ばかりだった。
ノアは不思議だ。
用意してくれたこの家も衣服も、今こうして持ってきてくれた食事全てが私の好む物ばかりだった。
不思議に思っている事が顔に出ていたのか、ノアが不敵に口角を上げた。
「俺がアリアの好みを知ってるのは何も不思議な事じゃない」
そう言って横に並んで座ったノアは、私に紅茶を差し出しながら言葉を続けた。
「俺を召喚したのはアリアだろう?」
そう言われ、確かに彼を召喚したのは自分だとその言葉に頷いたが、それでも疑問は残る。
だから私はノアに聞いてみる事にした。
「でも、悪魔は召喚者の好む物を全て把握出来るものなの?」
「いや、おれが特別なだけだ」
さらりと凄い事を言うノアに呆気に取られていると、彼は悪戯が成功したみたいに面白そうに笑った。
少し前は“悪魔”と聞いて想像するのは、残虐で人の不幸を何よりも楽しむ姿だったのに、ノアには全くその残虐さや非道さを感じない。
むしろ私達人間よりも親切なのではないかとさえ思う。
「とりあえず、これ食ったら身の回りの事から練習するか」
「ええ、一日でも早く自分で出来る様に頑張るわ」
それからノアと静かだけれど嫌じゃない静けさの中食事を済ませ、身の回りの事から一つづつ練習していく事になった私は、まずはお風呂の使い方をノアに教えてもらった。
この家に来た時に一通り教えてもらってはいたけれど、やっぱり再度教えてもらう事でより頭に入った気がした。
その夜初めて自分1人で挑戦した湯浴みは、やっぱり上手くいかなくて。
悪戦苦闘しながらも何とか一人でやりきった時は、今までにない強い達成感を感じた。
私にも出来る事はある。
その事実に涙が出るほどの喜びを感じた。
正直、自然に出来る人達とはまだまだ差がある自覚はある。
それでも、今の私には“一人で出来る”その事実が何よりも嬉しかった。
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