【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。

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本編

第三十四話 未来へ馳せる思い②

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 そして私達が王都へ移動したのは明け方近かったので、この日はこのまま休む事にした。
 悪魔召喚で決して少なくない量を流血させた私は、自分でも気付かないうちに相当疲労していたみたいだった。
 部屋の使い方の説明を一通り受け、ノアが部屋から出てすぐにベッドに横になった。そこからの記憶が正直なかった。
 本当に深く寝てしまっていたようで、次に目が覚めた時はやけに外が明るかった。

 慌てて飛び起き慣れない服を着るという作業に苦戦しながらなんとか身支度を済ませ、私は早足で事前に教えてもらっていたノアの自室へ向かった。ノックをしてから扉を開けると、優雅にソファーに腰掛けお茶を飲む彼がいた。
 その姿を見て本当に一瞬、ノアに見惚れてしまった私は、すぐに現実に戻り慌てて彼に声をかけた。

「ノア、おはようございます」
「おはようアリア。ゆっくり休めたみたいだな」
「はい、お陰様でこんなにぐっすり眠ったのは久しぶりです」
「アリア」

 ノアに手招きで呼ばれた私は素直に彼の座るソファーの側まで向かう。そのままどうしていいか分からず立っていると、ノアは突然面白そうに笑い出した。

「ははっ、ボタン掛け違えてるぞ」
「っ!?」
 
 ノアに指摘され、初めてその事に気付いた私は慌てて自分の服装を確認した。
 指摘された通りボタンが一つずつ掛け違えていた。
 部屋を出る前に鏡で確認しなかった為、全く気付かなかった。

 慌てている私にノアが手を伸ばす。
 
「笑って悪かった。ただ何でも出来そうなアリアがボタンを掛け違えているのを見て意外だったんだ」
 
 そう言って頭を撫でてくれるノアはきっと、私を幼子か何かだと思っているのかもしれない。
 あまりの恥ずかしさに俯いていると、頭上から優しい声がした。
 
「なぁ、アリア。誰にも失敗はある。今後、今みたいにボタンを掛け違える事もあるだろう。でもさ、」
 
 そこで一旦言葉を切ったノアは、私の顔を覗き込むように目線を合わせ、優しい赤い瞳の中に私を映し言葉を続けた。
 
「例え掛け違えても、失敗してもいい。けど逃げちゃダメだ」
「……え」
「失敗した事をそのままにするんじゃなくて、俺と一緒にどうして失敗したのかその度に考えてみよう。何度失敗してもいい。だけど失敗から目を逸らしてはダメだ」
「……ノア、何を」
「じゃないと平民の生活、いつまでも覚えられないだろ?」
 
 そう言ってふわりと微笑んだ彼は、そのまま自然と私をソファーへエスコートしてくれた。

「ボタンはボーッとしてる時に間違う事あるよな。まぁ、俺もたまにやるからそんなに気にすんなよ。アリアお腹空いただろ?今持ってくるからちょっと待っててくれ」

 そう言ってノアはどこかへ行ってしまった。
 それから私はノアの帰りを待ちながらボタンの掛け違いを必死で正していた。
 そして先程のやり取りを思い返す。
 彼は……本当は何を伝えたかったのだろう?
 確かに失敗した事をそのままにしていたらいつまでも成長はしないし、覚える事も出来ない。

 先程のノアの言葉は、これから平民として独り立ちする私にはとても重要な事だとも思う。
 でもノアが本当に伝えたかったのは何だか別にある気がするのだ。
 彼の本当に言いたかった事が、今の私には分からないしノアの本心がまるで見えない。
 悶々としながらも必死で指を動かし全て正した頃、ノアがタイミング良く戻ってきた。
 そしてその両手には軽食が乗っていた。

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