7 / 71
本編
第七話 願いは叶わない②
しおりを挟む(それなのに、お父様は私が嫁ぎ先で肩身の狭い思いをしても平気だと仰るのね……)
愚かな私は、ほんの少しだけ期待していた。
もしかして婚約者の不実を報告したら、アイザック様との婚約を解消してくれるのではないかと……。
“政略の駒”としてではなく、“父の娘”として今まで交わる事のなかった視線をようやく合わせてくれるのではないかと……。
でも現実はどうだろう。父は私を見る事もなく、領主としてのやらなければならない手元の書類を淡々と捌いている。
娘の婚約者が……よりにもよって従姉妹と愛し合っていると報告しようとしても、父にとっては領主としての執務の方が優先すべき事柄であって娘の話なんて些細な事だったのだろう。
「っ……」
——私は父にすら愛されていない。
唐突に現実を突きつけられた私は、もう何も言葉にする事が出来なかった。
呆然とその場に立ちすくむ娘に対し父は、更に追い討ちをかける。
「話はこれで終わりだ。いいかアリア、婚約解消は認めない」
それだけ言い終わると、こちらに向かって手を振り退出を促した。
そっと扉を閉め廊下に出た私は控えていたノーラを連れフラフラとした足取りで自室へと戻った。
「お嬢様、先程よりも顔色が良くありません。何があったのですか」
「……ええ」
ノーラが何やら横から声をかけてくれていたけれど、執務室での出来事で呆然としていた私は曖昧に相槌を打った。
そしてその後どうやって自室に戻ったのかの記憶もなく、気付いたら私はソファに腰掛けていた。
婚約者だけでなく、父にすら愛されていなかったという事実に、もう心がついていけなかった。
心配してくれているノーラには悪いと思ったが、一人になりたかった私は人払いをし先程のアイザック様とエミリーの逢瀬と父との会話を思い出し、我慢していた涙が堰を切ったように溢れ出した。
「っ……、っう……っ……」
行き場のないこの思いを解消する事すら許されないのだと絶望し、私はそのまま泣き続けた。
「っ……、どうして……っう……」
「私はただ……私だけを愛してくれる人と幸せになりたいだけなのにっ……」
自分でも無意識に飛び出た言葉は私の心からの願望だった。しかし誰に届く事もなく、そのまま静けさと共に消えていった。
15
お気に入りに追加
2,259
あなたにおすすめの小説
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
この罰は永遠に
豆狸
恋愛
「オードリー、そなたはいつも私達を見ているが、一体なにが楽しいんだ?」
「クロード様の黄金色の髪が光を浴びて、キラキラ輝いているのを見るのが好きなのです」
「……ふうん」
その灰色の瞳には、いつもクロードが映っていた。
なろう様でも公開中です。
どんなに私が愛しても
豆狸
恋愛
どんなに遠く離れていても、この想いがけして届かないとわかっていても、私はずっと殿下を愛しています。
これからもずっと貴方の幸せを祈り続けています。
※子どもに関するセンシティブな内容があります。
愛されない花嫁はいなくなりました。
豆狸
恋愛
私には以前の記憶がありません。
侍女のジータと川遊びに行ったとき、はしゃぎ過ぎて船から落ちてしまい、水に流されているうちに岩で頭を打って記憶を失ってしまったのです。
……間抜け過ぎて自分が恥ずかしいです。
夜会の夜の赤い夢
豆狸
恋愛
……どうして? どうしてフリオ様はそこまで私を疎んでいるの? バスキス伯爵家の財産以外、私にはなにひとつ価値がないというの?
涙を堪えて立ち去ろうとした私の体は、だれかにぶつかって止まった。そこには、燃える炎のような赤い髪の──
傲慢令嬢にはなにも出来ませんわ!
豆狸
恋愛
「ガルシア侯爵令嬢サンドラ! 私、王太子フラカソは君との婚約を破棄する! たとえ王太子妃になったとしても君のような傲慢令嬢にはなにも出来ないだろうからなっ!」
私は殿下にお辞儀をして、卒業パーティの会場から立ち去りました。
人生に一度の機会なのにもったいない?
いえいえ。実は私、三度目の人生なんですの。死ぬたびに時間を撒き戻しているのですわ。
貴方の運命になれなくて
豆狸
恋愛
運命の相手を見つめ続ける王太子ヨアニスの姿に、彼の婚約者であるスクリヴァ公爵令嬢リディアは身を引くことを決めた。
ところが婚約を解消した後で、ヨアニスの運命の相手プセマが毒に倒れ──
「……君がそんなに私を愛していたとは知らなかったよ」
「え?」
「プセマは毒で死んだよ。ああ、驚いたような顔をしなくてもいい。君は知っていたんだろう? プセマに毒を飲ませたのは君なんだから!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる