13 / 15
おまけ・愚か者の末路①
しおりを挟む陛下の御前に拝謁させて頂いたのは何も今日が初めてではない。
だがこのような形で私達家族が呼び出しを受けるなんて一体誰が想像しただろうか。
目の前には国王陛下並びに王妃殿下、そして王太子殿下に宰相といった錚々たる顔ぶれが並んでいた。
私の横には顔を真っ青にして今にも倒れそうな妻と、どうして王宮に呼ばれたのか理解が追い付いていない娘が並び、後方には我が家の使用人達が膝をついていた。
「面を上げよ」
陛下の重くのしかかるような声と共に、私達はそれぞれ顔を上げその後に続く言葉を待った。
普段の私であれば嬉々として陛下のお言葉を待ちわびただろう。
だが今の私には、これから賜るお言葉が心底恐ろしく、叶う事ならすぐにでも逃げ出したいとさえ思っていた。
しかし現実は無情にも逃げ出す事を許してはくれず、私達家族は陛下の御前で家臣の礼をとっている。
「今日はそなた達に聞きたい事があり呼び出した次第だ。一月程前から突如として我が王国の空全体に灰色の結界が覆っており、この結界により内外への出入りが出来なくなり問題になっておる。この件についてルーズベルト伯爵、其方が知っている事はあるか?」
「っ……お、恐れながら申し上げます。結界についてはこの目で確認しておりますが、その原因に関しては私達には何の事だかさっぱり……」
「ほぅ、ルーズベルト伯爵は此度の件は一切関係がないと申すか」
内心冷や汗が止まらないが、ここは何とかシラを切り通し大切な家族を守らなければならない。
ひと月前に突如として現れた精霊様は我が家の厄介者を求められ、その場であれと共に精霊界へ戻られた。
そしてあの時、精霊様は確かに仰った。
『私はお前達を傷つける事などしない』と。
あの瞬間は罰を受けるかもと肝を冷やしたが、精霊様は続けてこうも仰った。
「お前達には私から、その身に余る程の褒美を与えよう」
そう言って精霊様は全てを慈しむように微笑まれた。
その身に纏うあまりの清らかさに、その場にいた者全ての人間が心の中で精霊様に感謝を申し上げただろう。少なくとも私は精霊様の慈悲深さに感謝申し上げたのだから。
確かにあれを放っておくように言ったのは私だが、まさか精霊様に見初められるなんて……あの瞬間程あれを生かしておいて良かったと思った事はなかった。
(邪魔だと思って捨て置いたものが今更我が家の役に立つなんて……)
(それにしても何故精霊様はあれをお選びになったのだろう?我が家の娘ならば愛らしく、心優しいサーシャがいるというのに)
しかし相手は精霊、人間とはそもそも考え方や価値観が違うのだろうと結論付け、私はそれ以上深く考える事をしなかった。
あれからすぐに精霊様の仰った“褒美”を期待し待っていたが、いつになってもその“褒美”を頂けるような気配はない。
そしてあれが消えた翌日、一夜にして王都の空を中心に灰色がかった結界が張られているのを目にした。
国全体を覆っているその結界は調査団によると触れる事は出来るが、あくまで触れる事が出来るだけで外に出る事が出来ないとの事だった。
そして後日の報告で結界の中に入る事も出来ないと分かった。
突然どうしてそんな事になったのか見当がつかなった私だが、一日、十日と時間が過ぎる度に何故だかとても嫌な感覚に襲われていった。
(まさか……そんなはずはない)
(精霊は絶対に嘘はつかれないと聞く。ならば、どうしてこんなにも不安に駆られるのだろう)
私は見えない影を振り払うように、無理矢理結界の事から目を背けて過ごした。
そうしていないと見えない何かに暗闇の中へと引きずり込まれそうだったからだ。
国王陛下が貴族達を王城に呼び、結界の事について聞き取りを行っていると聞いたのは数日前の事だった。
一抹の不安を抱えながらも、我が家に精霊様が姿を見せた事はまだ誰にも知られていないと自分に言い聞かせた。
あの日、あの場にいた人間には厳しく箝口令を敷いたんだ、そう何も問題はない筈だ。
先程から何も仰らない陛下を前に、私はどうかこの場を乗り切れるようにと必死に神に祈るしかなかった。
「ルーズベルト伯爵、そなた……何か私に隠し事をしているのではないか?」
「そ、そんな‼陛下に忠誠を誓っている者として、先ほどの言葉に嘘偽りなど御座いません‼」
「そうか、私の思い過ごしのようなら問題はない。時間を取らせてすまなかった」
「い、いえ、勿体ないお言葉でございます」
我が家への疑惑も何とか晴らす事が出来た私は、その場でずっと緊張していて強張っていた身体の力を抜いた。
その時陛下がふと思い出したように口を開いた。
41
お気に入りに追加
390
あなたにおすすめの小説
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……
どうして別れるのかと聞かれても。お気の毒な旦那さま、まさかとは思いますが、あなたのようなクズが女性に愛されると信じていらっしゃるのですか?
石河 翠
恋愛
主人公のモニカは、既婚者にばかり声をかけるはしたない女性として有名だ。愛人稼業をしているだとか、天然の毒婦だとか、聞こえてくるのは下品な噂ばかり。社交界での評判も地に落ちている。
ある日モニカは、溺愛のあまり茶会や夜会に妻を一切参加させないことで有名な愛妻家の男性に声をかける。おしどり夫婦の愛の巣に押しかけたモニカは、そこで虐げられている女性を発見する。
彼女が愛妻家として評判の男性の奥方だと気がついたモニカは、彼女を毎日お茶に誘うようになり……。
八方塞がりな状況で抵抗する力を失っていた孤独なヒロインと、彼女に手を差し伸べ広い世界に連れ出したしたたかな年下ヒーローのお話。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID24694748)をお借りしています。
愛しているのは王女でなくて幼馴染
岡暁舟
恋愛
下級貴族出身のロビンソンは国境の治安維持・警備を仕事としていた。そんなロビンソンの幼馴染であるメリーはロビンソンに淡い恋心を抱いていた。ある日、視察に訪れていた王女アンナが盗賊に襲われる事件が発生、駆け付けたロビンソンによって事件はすぐに解決した。アンナは命を救ってくれたロビンソンを婚約者と宣言して…メリーは突如として行方不明になってしまい…。
酷いことをしたのはあなたの方です
風見ゆうみ
恋愛
※「謝られたって、私は高みの見物しかしませんよ?」の続編です。
あれから約1年後、私、エアリス・ノラベルはエドワード・カイジス公爵の婚約者となり、結婚も控え、幸せな生活を送っていた。
ある日、親友のビアラから、ロンバートが出所したこと、オルザベート達が軟禁していた家から引っ越す事になったという話を聞く。
聞いた時には深く考えていなかった私だったけれど、オルザベートが私を諦めていないことを思い知らされる事になる。
※細かい設定が気になられる方は前作をお読みいただいた方が良いかと思われます。
※恋愛ものですので甘い展開もありますが、サスペンス色も多いのでご注意下さい。ざまぁも必要以上に過激ではありません。
※史実とは関係ない、独特の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。魔法が存在する世界です。
エメラインの結婚紋
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢エメラインと侯爵ブッチャーの婚儀にて結婚紋が光った。この国では結婚をすると重婚などを防ぐために結婚紋が刻まれるのだ。それが婚儀で光るということは重婚の証だと人々は騒ぐ。ブッチャーに夫は誰だと問われたエメラインは「夫は三十分後に来る」と言う。さら問い詰められて結婚の経緯を語るエメラインだったが、手を上げられそうになる。その時、駆けつけたのは一団を率いたこの国の第一王子ライオネスだった――
完結 白皙の神聖巫女は私でしたので、さようなら。今更婚約したいとか知りません。
音爽(ネソウ)
恋愛
もっとも色白で魔力あるものが神聖の巫女であると言われている国があった。
アデリナはそんな理由から巫女候補に祀り上げらて王太子の婚約者として選ばれた。だが、より色白で魔力が高いと噂の女性が現れたことで「彼女こそが巫女に違いない」と王子は婚約をした。ところが神聖巫女を選ぶ儀式祈祷がされた時、白色に光輝いたのはアデリナであった……
【完結】虐げられていた侯爵令嬢が幸せになるお話
彩伊
恋愛
歴史ある侯爵家のアルラーナ家、生まれてくる子供は皆決まって金髪碧眼。
しかし彼女は燃えるような紅眼の持ち主だったために、アルラーナ家の人間とは認められず、疎まれた。
彼女は敷地内の端にある寂れた塔に幽閉され、意地悪な義母そして義妹が幸せに暮らしているのをみているだけ。
............そんな彼女の生活を一変させたのは、王家からの”あるパーティー”への招待状。
招待状の主は義妹が恋い焦がれているこの国の”第3皇子”だった。
送り先を間違えたのだと、彼女はその招待状を義妹に渡してしまうが、実際に第3皇子が彼女を迎えにきて.........。
そして、このパーティーで彼女の紅眼には大きな秘密があることが明らかにされる。
『これは虐げられていた侯爵令嬢が”愛”を知り、幸せになるまでのお話。』
一日一話
14話完結
父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました
四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。
だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる