4 / 15
第四話 出会い
しおりを挟む「小さな妖精さん、どうしてこんな所で泣いているの?」
「っ!?」
自分しかいない筈の小屋の中に突然他の人の声が聞こえたわたしは、咄嗟に顔を上げ声にならない悲鳴をあげた。
ずいぶん近くから聞こえているとは思っていたけれど、顔をあげてみると相手はかなりの至近距離にいたからだ。
「あ、あの貴方は、」
「ああ、勝手に入ってしまってごめんね。君が泣いているのが外から見えたから気になってしまって。それにしても酷いな、頬に傷が出来ているよ」
そう言って目の前の男の人が傷のある頬に手をかざすと、キラキラとした飴色の輝きと共に傷がある場所が温かい何かに包まれるような感覚がした。
その飴色の輝きはすぐに消えてしまったが、そっと傷のあった頬に触れると、驚く事に先程まであった痛みがなくなっていた。
「治ってる……」
「もう痛くないだろう?私は治癒魔法が使えるから、他に傷があるなら治してあげるよ」
「い、いえ。頬の傷を治していただいただけで十分です‼」
いくら学のない自分でも分かる。恐らく目の前の人物はわたしよりもずっとずっと身分が上の人間だろう。
よく見ると着ている服も上等な生地で出来ている事が分かるし、何より彼は先ほど無詠唱で治癒魔法を使用していた。
そんな高等技術をさらりと扱える人間は王国広しと言えど限られている。そもそも治癒自体とても高度な魔法なのだ。
治癒魔法を使える人間は無条件で国の管理下に置かれ、国直属の機関にそれぞれ配属される。
きっと目の前の彼は国に仕える治癒術師か何かなのだろう。
そんな人物に偶然とは言え高度な治癒の魔法を使わせてしまった事にわたしは一瞬で血の気が引いた。
(お支払い出来る程のものをわたしは持っていないわ……)
しかしわたしの心配とは裏腹に、彼――フィルと名乗った青年はとても優しかった。
最初は彼に質問される度言葉に詰まり、泣き出してしまっていたわたしを、フィルは面倒臭がる事なく根気強く話を聞いてくれた。
そのうちポツリポツリと話せるようになったわたしは、フィルが醸し出す綺麗で温かい時間に傷ついていた心が癒えていくような不思議な感覚がした。
彼の話す話はとても面白く、外の世界を知らないわたしにはどの話も未知の世界だった。
「フィルの話す妖精をいつか見てみたい」
「リリーが望むならいくらでも見せてあげるよ」
「本当?」
「ああ、今すぐは無理だけど必ず会わせてあげる」
そんな温かい時間を過ごし、わたしは愚かにも彼にずっと一緒にいたいと願ってしまった。だけどフィルはわたしの願いに曖昧に微笑むだけで明確な約束はしてくれなかった。
そしてわたしの髪をそっと撫で、困ったように言葉を紡いだ。
「私だってずっとリリーと一緒にいたいけど、今はまだその時じゃないんだ。それにそろそろ帰らないといけなくてね」
「い、行かないで、わたしを置いていかないで‼」
ボロボロと赤子のように泣き出すわたしの背をフィルは一生懸命擦ってくれていた。
それでも泣き止まないわたしに、彼は髪を撫でながらその優しい声色でわたしに幸せな贈り物をくれた。
「泣かないでリリー。今すぐは無理だけど、必ず君を迎えに来るよ。だからどうか……もう少しだけ待っていて」
「っ……、ぅ……必ず、来てくれる?」
「ああ、約束する。必ず迎えに来るよ」
フィルがそう言ってくれた直後に侍女長の呼ぶ声が聞こえ、お別れもそこそこにわたしは慌てて声のする方へ向かった。
そしてその日から、フィルとの約束だけがわたしの生きる理由になった。
いつか彼が迎えに来てくれる。この誰も味方がいない空間から助け出してくれると信じて、どんな辛い暴力や虐めにも耐える事が出来た。
でも一か月、一年と時間が過ぎていけばいくら馬鹿だと言われているわたしでも嫌でも認めざるを得なかった。
彼が……フィルが残してくれた言葉は愚かなわたしに対する彼なりの優しい嘘だったのだと。
残酷な事実にだんだんと心が凍り、殴られる事にも慣れてきた頃それは起こった。
13
お気に入りに追加
372
あなたにおすすめの小説
転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~
ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉
攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。
私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。
美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~!
【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避
【2章】王国発展・vs.ヒロイン
【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。
※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。
※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差)
ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/
Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/
※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。
王家の影である美貌の婚約者と婚姻は無理!
iBuKi
恋愛
婚約者は王家の影。
莫大な富と力を持つ公爵家の嫡男と突然婚約することになり―――
美の女神に愛されたような美貌と体、そして大きな財力とその地位で籠絡するは、ターゲットとされる数多の令嬢たち。
私はそれをただ黙って見守る憐れな婚約者。
この美貌の男と結婚してしまえば、それからずっと伴侶が仕事とはいえ他の女といちゃいちゃするのを見てる生活が待っている。
耐えられる?
公爵夫人としての贅沢な暮らしは保障されている。
婚姻後、後継を産んでくれて仕事の邪魔さえしないのならば、湯水のように散財して好きに暮らしていいそうだ。
―――愛はないが金はあるって?
絶対無理!
どうにかして婚姻回避は出来ないの!?
୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧
他サイト様でも投稿しています。
不定期投稿です。
ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?
望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。
ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。
転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを――
そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。
その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。
――そして、セイフィーラは見てしまった。
目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を――
※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。
※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)
噂好きのローレッタ
水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。
ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。
※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです)
※小説家になろうにも掲載しています
◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました
(旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)
私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。
彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。
それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。
そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。
公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。
そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。
「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」
こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。
彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。
同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。
【R18】溺愛される公爵令嬢は鈍すぎて王子の腹黒に気づかない
かぐや
恋愛
公爵令嬢シャルロットは、まだデビューしていないにも関わらず社交界で噂になる程美しいと評判の娘であった。それは子供の頃からで、本人にはその自覚は全く無いうえ、純真過ぎて幾度も簡単に拐われかけていた。幼少期からの婚約者である幼なじみのマリウス王子を始め、周りの者が
シャルロットを護る為いろいろと奮闘する。そんなお話になる予定です。溺愛系えろラブコメです。
女性が少なく子を増やす為、性に寛容で一妻多夫など婚姻の形は多様。女性大事の世界で、体も中身もかなり早熟の為13歳でも16.7歳くらいの感じで、主人公以外の女子がイケイケです。全くもってえっちでけしからん世界です。
設定ゆるいです。
出来るだけ深く考えず気軽〜に読んで頂けたら助かります。コメディなんです。
ちょいR18には※を付けます。
本番R18には☆つけます。
※直接的な表現や、ちょこっとお下品な時もあります。あとガッツリ近親相姦や、複数プレイがあります。この世界では家族でも親以外は結婚も何でもありなのです。ツッコミ禁止でお願いします。
苦手な方はお戻りください。
基本、溺愛えろコメディなので主人公が辛い事はしません。
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる