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第三話 血の繋がった他人
しおりを挟む「っ……申し訳ありません」
「どうしてあんなところに突っ立ているのです!まだ仕事は終わっていないはずでしょう」
叩かれた頬を右手で抑え、ジンジンとする痛みが耳の辺りまで広がったのを感じ、わたしは急激に血が巡ったように熱を持ったその場所から出来るだけ自分の意識を逸らした。
「……アマンダさんから食堂に持っていくようにと言われて、」
「食堂はこの後旦那様方がお食事を取られます。貴女はそんな事も分からないのですか?はぁ、全く曲がりなりにも貴女みたいなのがサーシャお嬢様の姉で書類上は伯爵令嬢だなんて……サーシャお嬢様は器量も良く、分け隔てなく接せられるお優しい方なのに。どうして姉である貴女がこんなに愚図なのかしら」
「申し訳ありません」
「もういいわ、ここにいては旦那様方のお目汚しです。さっさと裏庭の作業に戻りなさい」
「はい……」
侍女長にシッシッっと手で追い払われ、わたしは急いでその場を後にした。
先ほどの彼女の表情はまるで野良犬でも追い払うような厳しい態度だった事を思い出し、私は足を止めないよう必死で食堂とは反対方向へと歩き出した。
(もうだいぶ慣れたと思ったのに、今日のはかなり痛かったな……)
暴力を振るわれる事には慣れた……慣れたはずなのに、まだ痛みを感じるなんて我ながら笑ってしまう。
アマンダさんから食堂に持って行くように言われたのはきっといつもの彼女の遊びだったのだろう。
だってこのお屋敷の中にわたしの居場所はないのだから……。
わたしは普段この家の主である伯爵様家族の前に姿を見せる事は許されていない。
一応生まれはこの家の家族なのだけれど、当の家族にとってわたしという存在は血の繋がった他人でしかない。
この世界の人間は皆魔力があり、魔法を使い日々生活している。
一人一人の魔力量には差があって、量が多ければ多い程就職先も優遇され好待遇を受ける事が出来るのだ。
そんなわたしが伯爵家に生まれても使用人以下の生活をしているのは、ひとえに魔力がないからだ。
いや、正確にはある日突然枯渇してしまったから。
元々わたしという存在を疎ましく思っていた両親は、魔力が枯渇したと知ったあの日からわたしという存在をまるでないものとして扱った。
そうでなくても我が家には希少な聖魔法を使える妹がいて、彼女を溺愛している両親がわたしの存在をないものとして扱うようになるのは自然な事だった。
魔力が枯渇する前は建前上としての淑女教育も行われていたが、それもあの日を境になくなってしまった。
与えられていた部屋が使用人部屋へと変更になり、それからは奴隷以下の生活を送る事になった。
(どうしてお父様とお母様はわたしを愛してくれないの?)
(どうしてわたしは愛されないの?)
どれだけ考えても幼い子どもに答えが分かるはずもなく……。
だからこそ一生懸命仕事をすればいつか両親は自分を認めてくれる、愛してくれるようになると自分自身に言い聞かせ、わたしは目の前の仕事を精一杯する事に集中した。
そうでもしていないと心が壊れてしまいそうだった。
それでも過酷な生活に幼い子どもが耐えられる筈もなく、その日はいつも以上の周りからの厳しい叱責と暴力に心が折れてしまったわたしは、裏庭の隅に位置する小さな物置小屋で一人声を押し殺して泣いていた。
どれくらい時間が経っていたのかは分からないが、しばらく泣いていると突然頭上から男の人の声が聞こえてきた。
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